第29話
課題は時間が決められているので、見つけられなくても時間がくれば終了となる。
無事に課題を終えたパーティーは半分くらいで意外と少なかったね。
皆が集まったところで、携帯食が渡されて自由に食事(親睦を深めるため)をとることになる。
ほとんどの生徒はパーティーメンバーで食事をしているが、外面のいい王子の周りは相変わらず人が多い。
特に鼻の下を伸ばす王子のすぐ隣にはアルジェ様たちお胸の大きないつものメンバー(取り巻き)の女性たち。
それで僕はというと、トワと二人で仲良く食べようかと思っていた、のだが、
「クライ様、ご一緒にどうですか?」
「え、はい。ありがとうございます」
ルイセ様とセシリア様とマリア様とリーディア様が場所は確保していますからと僕を誘ってくれたのだ。
パーティーメンバーだから気を遣ってくれたのだろうけど、マイン先生との会話を聞かれていると知る僕の居心地は悪い。
というもの、間違いなく僕の印象は悪くなっているはずなのだ。
それなのにルイセ様たちは普通に接してくる。人がいいというか、なんというか。
——あれ? どうして好感度が下がるどころか少し上がってるの? 分からない。
これは、ひょっとして僕が見えているこの好感度というものは僕に都合良く見えるただの幻想なのでは? マイン先生はたまたまうまくいっただけ? そう考えると、そんな気もしてきたな。
心の中では首を捻りつつも、何食わぬ顔でルイセ様たちが確保しているという場所まで移動する。すると、
「俺たちもいいだろうか」
途中でマルク皇子に、マルク皇子の護衛騎士であり従者でもあるセシル様とキイン様。あと、リンにトワが合流してきた。
トワはうれしさを隠そうともせず僕に手を振ってくる。もちろん、僕も小さく手を上げて応えるんだけど。
「もちろんですわ」
なかなかの大人数になってしまった。
休憩時間はたっぷりとってあるようだから、トワと一緒にスープでも作るか? 素材はもらえばあるようだし。
僕がそんなことを考えていた時だった。
——あれ?
グラグラと地面が揺れ始めた。
「きゃー」
「な、なんだ」
はじめこそ小さな揺れだったが、時間と共にだんだんと大きな揺れへと変わる。
大きな揺れに戸惑う生徒たちから悲鳴が上がるが、先生が大声で指示を出したことで、腰を落とした生徒たちが、丈夫そうな大木の側まで移動する。もちろん僕たちもだ。
——これはおかしい……
夢の中の男の記憶通りならば、次に魔物が現れるはずだが、この世界の魔物はダンジョンにしかいないはずだ。
ならば、考えられるのはこの森のダンジョン化。
——そんな事にならなければいいが……
僕はすぐに影狼を数体彼女たちの影に潜ませ守らせる。
周囲には影鼠を数十体放って情報を収集することにした。
『あああ』
『きゃああ』
大木の側に避難して、身を屈めていると、地面が突然激しく波打った。
——なっ!? まずいっ!
途端に周囲に生い茂っていた木々が地中へと沈み出し、巻き込まれそうになっていた生徒に向かって僕は細く伸ばした影『影糸』を伸ばして引き上げる。
『助けてくれぇぇ』
——くそっ、おかしくないか!?
夢の中の男の記憶では、ここで消息不明となるのは僕、クライだけだったはずだ。
それがなんだ、ダンジョン化なんて聞いてない。これではかなりの生徒が犠牲になってしまう。
——間に合うか。
嘆いているだけじゃ何も解決しない。気持ちを切り替えて、僕が今できることをするしかない。
——影狼……
しゃがみ込んでガクガク震えているルイセ様たちを、いち早く安全な場所を見抜いて避難していたマルク皇子の側に運ぶように影狼に命じる。
マイン先生の影にも影狼を潜ませていたから時期に合流できるだろう。
あとは……アンナやレイナやトワが、木の上を飛び回り動いてくれているので、今のところ犠牲者は出ていないようだが、ダンジョン化現象はまだまだ収まりそうにないから気を抜けない。
『いやぁぁ』
『なんだよこれっ!』
——あっちか!
こんな揺れでも素早く動ける影鼠から送られてくる情報を頼りに、巻き込まれそうになっている生徒たちに影糸を飛ばしては次々と安全そうなところに引き上げていく。
もちろん他の生徒たちからバレないように引き上げた瞬間に素早くその場を離れる。
——次はそっちか、って、あれは!
意外だったのが、突然の激しい揺れに体勢を崩して、陥没していく地面に巻き込まれそうになっていた王子をアルジェ嬢が庇い、代わりにダンジョン化現象に巻き込まれそうになっていたのだ。いや、もう落下している途中だった。アルジェ嬢は本当に王子の事を愛していたんだね。
間に合いそうになかったので強めに影糸を飛ばしてどうにか引き上げた。
ただ引き上げる際、強めに放った影糸と飛び出ていた小枝で制服が所々破けてしまって申し訳なかったけど、後は王子にどうにかしてもらってください。あんな王子でも上着くらい貸してくれるはずだ。
しばらくすると揺れが収まるりはしたが、地形がかなり変貌していた。
そうダンジョンだ。魔素濃度が濃くなり、いつ魔物が現れてもおかしくない危険な状況になっている。
嫌な予想が当たってしまった。
問題は異様なほど木々が密集してダンジョンの壁のようなものを形成し、生徒たちが分断されてしまったこと。
暗部の者(影人)ほど身体能力が高ければ木々を登り飛び越えていくことは可能かもしれないけど、それが今できる者は僕たち闇影組(僕、アンナ、レイナ、トワのこと)くらいだろう。
「クライ様」
「クライ殿」
「クラスくん」
「クライ様〜」
自然と僕の周りには同じ班だったルイセ様、セシリア様、リーディアス様、アリア様が集まる。
「クライくん?」
マイン先生は突然影狼によって連れて来られたから状況がつかめず少し戸惑っていたけど、僕の姿を見つけると安堵の表情をしていた。
その側にはトワとリンが、いて、マルク皇子の側にはセリス様とキイン様が周囲を警戒していた。
影鼠から届く情報によると、この場には僕を含めて11人。
あとは先生たちと一緒になったグループと、王子と一緒になったグループに別れてしまったらしい。
通路っぽいところにいる僕たちや先生たちと違って、大きく開けた場所にいる王子たちのグループのところに、ほとんどの生徒が固まっているようだ。
大丈夫なのか少し心配になるが、護衛を務める先輩方が3人もいるし、その場から動かなければ、先生たちのグループと合流できそう。きっと大丈夫だろう。
問題は僕たち。遠回りしないと王子たちの方に行けそうにない。
それなら出口を目指した方が早いと思うけど、ダンジョンは異空間にあるので、木の上に登って方角を確認したところで出口なんて分からない。
地道に出入り口になっている空間の歪みを見つけて脱出するしかないのだ。
「セシル、キイン」
マルク皇子たちはさすがだね。たぶん、この森がすでにダンジョン化していることに気づいている。気づいて、通路の先を警戒してくれていた。
もしかしたら帝国ではダンジョン化現象がすでに起こっていたのかもしれない。
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