第5話

 色眼を宿してから一週間が経った。


 制御を失敗してアンナには両手で数えきれないほど襲われてしまったが、ようやく僕は色眼を制御できるようになった。


 でも、それは本当に偶然、たまたまだった。


 僕が精も魂も尽きてぐったりとソファーの背もたれに寄りかかっていると、申し訳なさそうな顔をしたアンナが紅茶を淹れてくれたんだけど、その時、紅茶を飲もうと手を伸ばした先にある魔法書が目に入ったのだ。


 それは僕が幼いころ、魔法の基礎を学ぶために何度も読み返していた初級の魔法書。


 ・この世界のどんな生物でも、魔力は身体中に満たされている。


 ・魔法とは、体内の魔力を巡回させつつ練り上げ体外に放出することで望んだ効果を生み出す。

 望んだ効果が鮮明であればあるほどその効果も大きくなる……


 ・魔法は……


 何度も読み返した魔法書の文面が僕の脳裏をよぎり、ふと思ったんだ。魔眼も魔法の一種ではないのかと……


 物は試しにと僕は意識せずとも身体に流れている魔力を、右眼だけ流れないように意識して止めてみた。


 するとどうだ、あれほど制御に苦労していた色眼があっさりと制御できるではないか。


 僕の瞳は赤眼から黒眼に戻り、黒眼に戻った時には色眼の使い方を理解していた。


 色眼は右眼にゆっくりと魔力を巡回させていけばいいのだと。


 僕が色眼を宿したあの日、父上は「自分の力で制御してはじめて魔眼を理解できる、私は制御するのに一ヶ月ほどかかったものだ。クライも頑張りなさい」と懐かしそうに語ってくれた。


 だから父上よりも早く制御できるようになった僕は嬉しさのあまりアンナの手を取り一緒になって小躍りしてしまった。


 貴族の嫡子として、常に冷静であるよう心がけていたのに、その時ばかりは感情が抑えきれなかったのだ。かなり反省した。


 でも、父上に報告するにはまだ早いと思う。


 色眼を制御できるようになったが、その効果がイマイチ理解できないでいるからだ。


 とはいえ理解できている部分も多少はある。

 それは、相手に色眼の効果を発揮させるには相手の瞳を捉えないといけないということ(ここ重要)。


 だが、それは一瞬でいい。一瞬でも視線が合えばパスのようなモノが繋がり、あとは視線を外されようが、パスが繋がっているため、そこに僕の魔力を流していくだけで簡単に操ることができるのだ。


 流した魔力量によって相手を操れる時間が変化する。


 一度で時間にするとどれくらい長く操れるのか、それとも時間は関係なく僕の魔力が尽きるまで操れるのか……僕は色々と試してみた。


「ぁあ! あああ……んん……ん〜っ!」


 とうわけでアンナを三時間ほど色眼で操ってみた。ただソファーに座らせていただけだけど、するとアンナは、突然身体を小刻みに揺らしたかと思えば、達したような色っぽい喘ぎ声を上げた。


「アンナっ!?」


 身体や膝をガクガクさせ、僕が操っていなければ間違いなくアンナは倒れていただろうと思うほどに身体を脱力させた。


 これはまずいと思い僕はすぐに色眼を解除したんだ。


「あぐっ……」


 案の定、アンナは、糸が切れた人形のように力なくソファーに倒れてしまった。


「大丈夫か! アンナ」


「はぁ、はぁ……は、はひぃ」


 アンナは大丈夫だと言うが、その顔は赤く火照り、肩で息をしては一生懸命呼吸を整えようとしている。


 操れる時間の限界を把握しようと思った結果がこれだ。アンナにはかなり無理をさせてしまったのだ。もう少し慎重にやるべきだった。


 アンナの身体を心配した僕は当然アンナに近づくのだが、


「あ、あっ、クライ様、まま待ってください」


 アンナに止められ、なぜ? と疑問に思っている間にアンナはクリーン魔法を使っていた。


「クリーン?」


 不思議に思った僕が首を傾げていると、アンナが恥ずかしそうにその理由を教えてくれたんだけど、


「じ、実は……」


「えっ、そんなことになってたのか……」


 結論から言うと、アンナは本当に達してしまっていたらしいのだ。

 しかも自分でも信じられないほどの量が溢れ出していたのだとか……


 だからアンナは慌ててクリーン魔法を使った。


 でもそのおかげで分かったことある。僕が操っている間は、意識がハッキリしているということは前から分かっていたことだが、身体を制御されている(操られている)間は、とても心地が良いそうなのだ。


 まるで僕の両腕に抱かれているかのようにと、恥ずかしいことをアンナが言う。


 けど、時間が経てば経つほど高揚感が増していき、僕と行為をやっているかのような感覚が襲ってきて、気づけば快楽で満たされ達してしまっていたのだとか。


 そこまでの時間が約三時間くらい。


 アンナとは色々とやり尽くしているため、お互いにオープンで行こうと決めていたのだが、さすがに先ほどの快楽からの激しい絶頂は予想外だったらしく、慌ててしまったのだとか。


「そうか。それは使用の際は、よく考える必要があるな」


「はい。私の体感では一時間くらい? それなら問題ないかと思います。

 その……三時間だと一人でイッしまって恥ずかしいですし、二時間を過ぎますと……その、クライ様が欲しくて欲しくて欲求不満になりそうなんですよ。

 あ、でも、そのあとにクライ様がお相手してくれるのなら私は二時間がいいですけどね……ふふふ」


 アンナが悪戯を思いついた子どものような笑みを浮かべる。

 達したあとだからだろうか、アンナがすごく色っぽい。おかげで……


「あはは。アンナとなら僕は毎日だっていいと思ってるぞ」


 僕の一部が元気になっているのだ。


「へ?」


 僕の言葉が予想外だったのか、アンナはきょろきょろと目を泳がせた後に、真っ赤な顔のまま俯いてしまった。


「ははは……」


 やっぱり可愛い。アンナがとても愛おしく感じるぞ。


「笑うなんて酷いですよクライ様。どうせからかったんですよね。私本気で言ったんですけどね」


「あはは……僕も本気だよ」


「またまた。ご冗談ですよね?」


「本気だよ?」


「え……」


 その後、アンナと行為をしてしまったが、すぐに検証も再開。

 二人で何度か試してみて一時間ならば、相手の身体に負担がないことがわかった。


 あとはパスを繋いだ後だな。


 複数人同時でも操れるのか検証したいし、同性や魔物、動物なんかにも効果があるのか試してみたい。


 なんとなく窓の外へと視線を向ければ綺麗に剪定された庭木に野鳥が止まっているのが見えた。


 ――野鳥か……野鳥ね。ちょうどいい。


「ねえアンナ。野鳥にも色眼の効果はあると思う?」


「うーん、どうでしょうかね? 試されてみますか?」


 ――うーん、やって損はないと思うんだけど……


 少し迷ったが、何事もやって見ないと分からない。そう思った僕は、



「よし、試してみよう」


 それからすぐに僕たちは野鳥が止まっていた庭木に向かった。

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