第11話 決闘


 洋上の海軍船の甲板で、あたしと隊長は向かい合っている。周囲には海軍の兵が集まって見物していた。余興を楽しむようにはやし立てる奴もいる。


「泥棒猫が赤っ恥をかくところを鑑賞しますの」


 観客に混じって、聖女がクマと一緒に缶詰を開けて食べていた。それうちの船の食料だよね。あとで絶対沈めてやる♡


「え、エクレールさん!」


 泣きはらした顔のフィガロが叫んだ。


 フィガロの側にはまだ兵士がいて、解放されてない。怪我はないみたいだ。あたしは彼の前にしゃがみ、抱きしめた。涙の匂い。あたしまで悲しくなる。


「泣くんじゃないよ。あたしと会った時はもっと度胸があっただろ」


「で、でも、僕のせいで……」


「気にすんな。それより絶対助け出すから少し待ってて」


 フィガロから離れ、隊長の所に戻る。隊長は細身の剣の切っ先をあたしに向けた。


「覚悟はよろしいか。貴族に二言はありませんぞ」


「いつでもよろしくってよ。あたし、嘘をついたことがないのが自慢なので」


 それも嘘だけど。


 隣接しているあたしの船から剣を渡してもらう。その際に船員に合図を送った。ぐーちょきぱー。これだけでわかるはず。


「背中の魔剣は温存ですか?」


 隊長はいかにも不服そうな顔。役者だね。


「まともな人間には使えないんだ。これで満足させてあげる」


 あたしの得物は小振りの鉈だ。船内で戦闘になった時に長いと邪魔になるから、こういうのが重宝される。


 隊長がコインを投げる。戦いの合図。磨かれた床に落ちた途端、あたしは踏み込み、隊長にめがけて剣を振るった。隊長は剣の腹で受ける。激しい金属音が鳴る。


『戦闘のどさくさにお逃げ下さい』


 隊長はさっきそう言った。それを踏まえていつでも船を出せるよう指示を出した。後はフィガロを連れて逃げれば。


「良い剣筋です。お父上を思い起こさせる。だが」


 隊長の剣があたしの剣を巻きとるように動く。剣がはじかれ、胴ががら空きになる。危険を感じ、後ろに飛んだ。


「力が足りません。それでは私には勝てませんよ」


 話が違うよ! この人、本気になってない? 目怖いし。


「お嬢ー! がんばれー!」


 ライオネス号から声援が聞こえる。あたし、耳がいいから誰が何言ってるかわかる。


「ほらほら、腰が引けてますわよ! いつもみたいに野蛮になりなさいな」


「エクレールさん! 負けないで」


 一匹余計なのが混じってるけど、おかげで吹っ切れた。魔剣がなくてもあたしは戦える。


 左手を後ろに隠したまま、隊長めがけて再度突進する。大振りの一閃は空振り。でも続けて足払いをかける。かわされたけど、怯ませることに成功した。さらに下段から上段に切り上げる。


「くっ……!」


 隊長は辛くもかわす。さすが警備隊隊長。でもこっちは聖女と毎日のように殺し合ってるんだ。船の上ならあたしの方が戦いなれてる。


 ライオネス号から轟音が上がる。大砲を洋上に発射したのだ。走ってる最中にサインを送っておいた。仕事が早くて助かる。皆の注意はそっちに向くよね。もちろん、隊長も。


「今のあたしは悪い海賊なんだ。ごめんね」


 心にもない前置きの後、鉈の柄で隊長の顔を思い切りぶん殴った。

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