第2話 ごーほー的な海賊
みんなのものは、あたしのもの。あたしのものは、あたしのもの。そう言ったら信じる?
小さい頃、親戚の女の子の人形を取ったら怒られた。当たり前だ。泥棒だもの。
でも、大きな権力が弱者から何かを奪っても罰せられない。
あたしのパパは国に全てを奪われた。そして死んだ。ママもいなくなった。
あたしは死んでない。何故なら海があるから。
三本マストの大型帆船を操って、貴族が着るような白のスカートにブーツという最新モードを楽しんでいる。
あたしのライオネス号が大砲をちらつかせれば、商船は怖がって白旗を上げる。泥棒じゃない。だって敵国の船を襲ってもいいって、国が許してるから。
あたしは政府から認められた、"ごーほー"的な海賊。
なんのことはない。あたしから大切なものを奪った大嫌いな権力を利用して、奪う側に回ったのだ。
「お嬢ー! 来て下さい」
船楼で寝てたら、船員の声が聞こえた。商船から奪った荷物を運び終えたらしい。
柱に抱きつくようにして、スルスルと降りていく。甲板では部下達が整列している。三十人くらい。みな熟練の水夫だ。
「お嬢! お疲れさまです!」
一回り以上年の離れたおじさんたちにそう呼ばれると、背中がむずがゆい。船長の方がカッコいいんだけどな。
それはともかく重そうな木箱が山積みだ。わくわくする。中身はなんだろう。香辛料、宝石、銃器、どれも高く売れる。出資者に半分渡して、残りはうちらの取り分。ちゃんと公平に分配して不満が出ないようにしている。
バールで木箱の一つが開かれると、光が漏れ出す。やった! 宝石かも。
「……、ってこれなにー?」
箱の中には、くびれのある大きな壷が入っていた。見たことない鳥の絵が描かれてる。鶏に似てるけど尾が長くてカッコいい。壷の表面は暗い緑色でつるつるしている。
「これは東洋の陶磁器ですね。最近、貴族がこぞって買い集めてるらしいですよ」
物知りな船員が教えてくれた。流行と聞いたら黙ってられない。
「これ、飾ってみたい。壊さないように部屋に運んで」
「了解です!」
他の箱も、絵画とか美術品ばっかり入っていた。ざっと鑑定してもらったらかなりの額になるという。潮風で痛むといけないから早めに運んでもらった。
力仕事させてばっかりで悪いけど、あたしの仕事はもっと野蛮だ。背中の大剣がそれを物語ってる。
壷は甲板の下にある船長室に運んでもらった。明り取りの窓と事務机、ベッド。殺風景だから調度にいいかと思ったけど波で揺れる、倒れる、どうしたらいいの。
「はあ……、やっぱ売り払うか」
毎度こんなの集めてたらきりがない。船の維持費だって馬鹿にならないし、思い切って売ろう。良い値がつきそうだし。
寝かせた木箱の蓋を閉じようとした時、変な音が聞こえた。うめき、みたいな。波の音じゃない。大剣の柄に手をかける。何かがいるなら、あたしの出番だ。
注意して耳を澄ますと、やはり壷の中に気配を感じる。間違いない。そーっとのぞきこんで見たら、
子供が入ってた。男の子。なんで?
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