グリードエンプレス〜魔剣の海賊と白クマ聖女、悪役令嬢もみんなまとめてかかってきな!〜

濱野乱

第1話 海の女帝


 私が知る海は略奪の場だった。大国が覇を競い、海賊船が横行したのをつい昨日の事のように思い出す。


 凪いだ海を前にした娘は、ピンとこなかったようだ。岬の柵に手をつき、白い海鳥を目で追っている。


 海は奪った思うと、与えることもある。


 一枚のゴシップ新聞が潮風に吹かれて足下に飛んできた。見出しには、この国の大海軍卿エクレールの写真が載っている。


 赤毛に、ふてぶてしく唇を尖らすその姿はマスコミの格好の餌食だ。記事も、彼女の新しい恋人の話題を熱心に報じている。


 この彼女より年下の実業家は何人目の恋人だったか。忘れてしまった。彼についてあまり良い噂は聞かない。私は陶磁器の輸入販売をしている。広いようで狭い世界だ。悪評というのは嫌でも耳に入る。すぐ別れるだろう。私が目を光らせるのも妙な話だが。


 妻はエクレールに良い感情を持っていないらしい。娘にはおしとやかに育って欲しいと願っている。


 今でこそ海軍の女帝と呼ばれているが、かつてエクレールは海賊だった。侯爵家の令嬢だった彼女は、父親が亡くなった後、海賊の世界に身を投じた。


 巷でよく語られるのは、炎の魔剣で聖女と戦ったとか、敵の艦隊を一人で吹き飛ばしたとか、虚実入り交じった話が多い。


 本当の彼女は甘いものが大好きな、寝相の悪いどこにでもいる女性で、


 そして私の大切な――――

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