二人きり

誰かがいっていた。

独りを寂しいと感じる時は、あなたが独りではない時を知っているから、と。

私はいま独りぼっちだ。

まぁ、待ち合わせ場所に三十分も前に来たのだから仕方ないが。

二人きりのディナーは、二か月ぶりだ。

ちょっといい店、ちょっといい服、ちょっといいバッグ。

彼女と会う時だけ、自分らしさを見せるのが怖い。

飽きられてしまうんじゃないか。

そんなことない、って知っているのに。

「お待たせ」

ふいに、彼女の声がした。

「待った?」

「全然」

「そっか。それ、いい服だね」

「う、うん」

「じゃ、いこっか」

彼女が腕を組んできた。

「今日のあなた、なんだかとってもいい」

「そ、そうかな。普通だよ」

「なんかね、ちょっと背伸びしてるところが」

彼女は屈託のない笑みを見せる。

もう、私から寂しいという気持ちは消え失せていた。

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