チケット
「いらっしゃいませ」
そういう彼女の声が店内に響く。
毎日通っている会社近くの喫茶店で働く彼女に、私は恋をした。
来るのは、決まって会社帰りの夜七時。
コーヒーとパンをいつも頼んでいる。
「いつもありがとうございます」
彼女の屈託のない笑顔が嬉しかった。
その日も、私は喫茶店にいた。
「こちら、当店からのサービスでございます」
席に来た彼女はそういって、なにかを取り出した。
「来週、どこか出かけませんか」
見ると、映画のチケットが二枚あった。
「あなた、私がいない日は早めに店を出るんでしょ」
彼女のウィンクを、きっと小悪魔的というのだろう。
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