抵抗

「好き」

そう、一人でつぶやく。

彼女の前では、言えない言葉。

最近は、朝に家を出る前の日課になっていた。

「いつか、言えるのかな」


いつもの待ち合わせ場所。

いつも通り、私が先につく。

「待った?」

いつも通り、彼女が少し遅れてついた。

「少し」

「そっか。じゃあ、いこ」

彼女は私の隣に来て、歩き出した。

今日は、少し彼女の近くを歩いてみよう。

ささやかな抵抗、というやつだ。

ふいに、彼女が手を握った。

「今日はなんだか近いから、いいでしょ?」

屈託のない笑みが、うれしかった。

朝つぶやいた言葉が、彼女と私の手の中で芽生え始めている。

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