牛丼

「ただいま」

玄関を開ける。

「あ、おかえり」

奥で、彼女の声がした。

荷物を下ろして、着替える。

「もう大丈夫なの」

「うん。明日には会社に行けるって、先生が」

「そっか」

「今日は牛丼だから……、ってこれしか私作れないけど」

彼女と向かい合って座る。

机には、いい香りの牛丼が二つ。

「明日、ついてく」

「いいって。あんたはいつも心配しすぎ。そんなに心配するなら、牛丼あげない」

「……、それは嫌」

「だったら食べた食べた。あんまり人生心配し過ぎるもんじゃないよ」

昨日、やっと彼女のギプスが取れた。

階段でこけてできたのだから、彼女らしい。

「いやーそれでさ、今日見たテレビで……」

彼女は相変わらずだ。

羨ましくて、でも、ありがたくて。

ぎゅうっと抱きしめたくなる彼女の体温は、どんなものなのだろう。

牛丼を食べながら、そう思った。

「今日どうする?一緒に寝る?」

「いいの?」

「先生からはオーケー出てるし、いいよ」

小さくうなずく。

「りょーかい。じゃ、早く食べないとね。これでやっと元の生活に戻れるよ」

猫舌の彼女が、ふーふーと牛丼を冷ます。

消えていった熱が、少しずつ私の胸に流れ込んでいた。

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