第20話 いざ、地獄へ
『
ありったけの重火器によって完全に武装され外敵を全く寄せ付けないかのような姿をしているその要塞から少し離れているその場所に、長いレールが敷かれた上に一つの『
その『コンテナ』の後ろにはこれもまた分厚く太い巨大としか言いようのない
鎮座している
『……う~ん、いつ見ても思うことだが。こんなもんを作ろうって思ったのはバカだろ。普通にロケットなりで良いだろうが』
とは言っても、
『ロケットに使う分の火薬を作るにしても作り方とか分からんし、面倒くせぇんだよな……。ミサイル飛ばすのとロケット飛ばすのは全然訳がちげぇし。
ま、そこが難しいんだが……』
はぁ、
『
……まぁ、だからこそ世の中、上手く回ってるんだろうがな。
呟く様に言っていた彼であったが、唐突に何を思ったのか虚空を突いた。
すると、その虚空に突如として平たい画面が宙に現れた。その画面について彼は何も疑問を持たない様子で画面を指で手早く操作していく。そして、『Mk-216B』と書かれた文字に指を置き、数回タップする。
すると、また何の前触れもなく小型の『コンテナ』が二つ、虚空から現れて目の前の地面に落ちて来た。
『いやぁ~……。「メニュー画面」が生きてると持ち運びが楽でいいな。戦闘時にはいちいち操作しないといけないというデメリットがあるが、こうした暇を持て余した時だったらいつでも出せるから。……そうは言っても時によるっていうな』
なかなか難しいもんだ、と呟きながら落ちて来た二つの小型『コンテナ』を手に取ると、そのまま何の躊躇もなく腰に回した。そうすると。
カチリ。
なにかがなにかに、噛み合った音が聞こえるのと同時にズシリとしっかりとした重さが自身の身に掛かってくることに彼は声に出さずとも心の中で狂喜乱舞した。
『フハハハハハ……ッ。やっとだ……っ。ああ、……やっとだとも。今日この日というこの瞬間を待ちに待ってた甲斐があった、ってもんだぜ』
ハハハハ……ッ、
『待っていやがれ、「
……いや、
『俺らが一匹残らず殲滅してやるぜ……っ。フハハハハ……ッ』
ああ、
『最高の気分だ……っ』
両腕を広げながら喜ぶようにそう呟いていた彼にどう声を掛けるべきか、背後に二人の人物が目を合わせていた。
「……………………レオナ。………………チーフ、喜んでるんだけど。……どうしたらいいの?」
レオナと呼ばれた全身が白一色でフードを深く被っている人物は、シッ、と言ってはいけないという様に隣にいた女性に注意した。
「やめなさい、ケイト。……あれはマスターにとって全身で喜びを表現しているだけです。そこに変な意味などはないはずです。……ですので、変な人を見るような目で見るのはよしなさい」
「………………してないけど。………………ja。………………気を付ける」
「ja。その方がいいでしょう」
『………………で。お前ら二人はなにやってんだ?』
レオナとケイトの二人が自身を指して何かを話していることに気が付いた彼、『ケンジ110』は後ろを振り向くとそう二人に訊いた。
「おや、マスター。……もうよろしいので?」
「………………チーフ。………………気にしなくても、いいんだよ?」
何がだよ、とケイトにツッコミを入れたくなる気持ちをぐっと堪え……、
『………………ハハハ、何のことか、俺には全然分からないな』
「………………何のこと? ………………さっき、チーフが喜んでたことじゃないの?」
「シッ、ケイト。それは言ってはいけないと先程……っ」
ケイトの言葉を聞いてレオナはすかさず訂正を求める様に言うが時すでに遅く……。
『……………………………………………………えっ、ちょっと待って。まさかとは思いたいんだけど、さっき俺がしてたの、最初から見てたのか、お前ら?』
「……………………ja。………………見てたけど?」
「ja。その、非常に申し上げにくいのですが……、最初から見ておりました、マスター」
ケンジの問いに臆することなく答えるケイトと言い難そうに答えるレオナ。その二人の返答はそれぞれの性格を写しているような返答だったが、当の本人であるケンジはと言うと。
後悔のあまりに頭を抱え、その場に蹲ってしまった。
『マジかよ………………。やっちまったな………………、俺………………。コイツは流石にダメージがデカいぞ、ああ、デカい………………。誰かに慰めてもらわないと立ち直れそうにないぞ、これ………………』
独り言の様に聞こえはするが、レオナとケイトの二人にちゃんと聞こえる様に言ってる辺り、もはや確信的ではあった。
それはそうしてもらわないとうまいことやってはやらないぞ、という意味が含まれており……。
チラッ。
動こうとしない二人の様子を見るように顔を上に上げ……、二人が何か話すよりも前に再び顔を下へと向かせた。
「………………レオナ。………………チーフが待ってるけど?」
「いえいえ、先に振ったのは貴女でしょう? ならば、先にするのは貴女なのではありませんか、ケイト?」
「………………いやいや。………………その理屈はおかしいよ、レオナ」
「いえいえ、ここは貴女が行くべきでしょう、ケイト。それに貴女が行かないものを私が行くとなれば変ではありませんか。そう思いませんか、ケイト?」
「………………nien。………………ここはレオナが行かないと、……………………私が行けないよ?」
「だから、私が行くと言えと? そう仰るのですか、貴女は。そうなれば、貴女が行くと言うのでしょう?」
「………………ja。………………そうだけど?」
「『そうだけど?』ではありません。ここは貴女が行くと言うべきでしょう? なぜ貴女が退くのですか。前に出なさい、前に」
「………………そうなると、レオナが可哀そうだし」
「可哀そうだと言うのであれば、私が行くと早く言ってください」
「………………なんで?」
「いや、何故かと理由を訊かれてもですね……っ」
なかなか来ない二人にケンジは痺れを切らしそうになっていたのだが。ここで救世主がやって来る。
「あれ? なんで、チーフ頭抱えて蹲ってるの? 体調が変なの?」
肩まで伸ばした蒼い髪を揺らしながら、背にケンジから貰い受けた槍を持つ女性、ウルナはやって来ると先程まで立っていたケンジの様子がおかしいことに気付いたのか、レオナとケイトの二人に訊いていた。思わぬ乱入者にレオナは舌を打ちそうになるが、ここは主であるケンジの手前、そんなことは自分の立場から出来ない。それ故に、そう訊いてきた彼女に素直に答えてしまっていた。
「どうやら、その様でして。急に蹲まれてしまったのですよ」
「へぇ~……。…………急に?」
「ja。……急に、です」
「ふぅ~ん。……何の前触れもなく急に?」
「………………ja。そうです。何の前触れもなく急に、です。」
ウルナの度重なる問いに、あっ、コイツ分かってて訊いてるな、とレオナはすぐさま察することが出来たが、ケイトは二人は何の確認をしてるんだろう、とそのやり取りを訳も分からずに眺めていた。
「う~ん。そうなると、誰か寄ってみた方がいいよね?」
それだと。
「レオナ。……行ってみる?」
ウルナの問いにレオナは、しまった出遅れたかっ!!!、と内心で後悔の念に駆られていたがそれを口にすることなく。
「確認を取りたいのはやまやまですが、ここはケイトが行くべきかと」
ケイト、
「行かれますか?」
と、レオナはケイトに確認するように訊いたのだが当の本人はレオナが行くと言うと思っていたので、彼女からその言葉を聞くとなぜ自分に訊いてくるのか疑問に思いながらも、首を横に振った。
「………………………………nien。………………………………レオナが行かないのに、………………………………私が行ってどうにかなるの?」
「なります。えぇ、なりますとも」
「………………………………レオナが行かないのに?」
「ja。えぇ。どうにかなります」
「………………う~ん。………………レオナが行かないって言うならやめとこうかな?」
………………ウルナ。
「………………行ってくれる?」
「えっ、いいの? 私が行っていいの?」
わざとらしい態度にレオナは心の中で、お前最初から行きたかったんだろうが!!!、と腸が煮えくりそうな思いになりながらも頷いて答えた。
「………………ja。………………ぜひ行かれてください」
「………………………………ja。………………………………よろしくお願い」
「それじゃ、そのお言葉に甘えて」
どこかウキウキした様子でケンジの方へ向かって行くウルナとは裏腹に感情を押し殺した声音で話すレオナを不審に思ったのかケイトは疑問を抱いた様子で彼女を見ながらウルナに見送った。そのケイトの視線を受けてレオナはフードで顔を隠していたことにこの時ばかりは主であるケンジに感謝をしていた。………………そうでなくとも、普段から感謝はしているのだが。
そんな二人を他所にウルナはケンジに近付いていくと、身を屈めて彼の背を優しく撫でた。
「大変だったね、チーフ」
あの、ウルナさん。そこまで大変ではなかったと言いますか、これから大変になると思うのですが、それは如何なものかと思うのですが………………っ。
優しく手を置かれて更に撫でられるという、何も知らない第三者から見れば「うらやま……けしからん」といった状態であるのだが、ケンジは何も言うことが出来ずにその感触を味わっており、彼女もどこかでスイッチが入ったのか、更に身体を寄せてきていた。
「ねぇ、チーフ? 他の人たちのことなんか忘れて私たちだけで楽しんじゃってもいいんじゃないかな? ほら、他にいるって言ってもそんなにはいないんだし、さ」
ねぇ? とケンジに訊いてくるウルナの言葉は非常に甘い誘惑に聞こえた。
そうだ。
ここには、『プレイヤー』はいない。それに『旅団』のメンバーもいない。いたとしても、もう何年も経っている。であれば、死んでいても同じではないか? そう思えてくる。
どうせ、死ぬのであれば少しくらいは……そう、ケンジに甘い誘惑が聞こえて彼は顔を徐々に上げた。
『………………』
顔を上げたその時、彼の眼にはウルナではなく、ケイトでもない、暗い闇の中で自身を見つめる碧い色が見えた。その色はこう言っているような気がした。
貴方がそう決めるのであれば私はただ付き従うのみ、それが貴方がお決めになった道なのであれば、と。
その色にケンジは失い掛けた正気を取り戻すと、かなり至近距離にあったウルナの顔を離した。
『悪いな、ウルナ。……もう平気だ』
「ん。そう……、かな? まだ大丈夫そうには見えないけど?」
立ち上がったケンジに顔を寄せてくる様に背を伸ばしてくる彼女の両肩を彼は優しく触れるとゆっくりと押し返した。
『大丈夫だから』
「ん。ん~、ちょっと心配だけど……、チーフがそう言うなら……大丈夫かな?」
平気だと言うケンジをウルナは心配している様に言葉を返す。彼は言葉ではなく、心の中で冷静にツッコミを入れ、レオナたち二人を見る。
『待たせたな』
気合を入れる様に何かの役を演じる様にそう言ったケンジであったが、そもそもの元ネタが分からない二人は彼がなぜそう言ったのかについては何も言わずに、その言葉について冷静に言葉を返していた。
「nein。いえ、それほどは待ってはおりませんよ、マスター」
「…………nein。………………レオナと同意見。………………そんなには待ってないから、………………うん、大丈夫」
………………だからね、チーフ?
「………………そんなに気負わなくてもいいんだよ?」
ケイトのその言葉を聞くと、ケンジは頬を掻きながら答えた。
『気負わなくていい………………って言われてもな………………』
そう言いながら、彼はレールの先にある動くことのない雲を見る様に顔を動かした。
『これから、たった三人で
そう言ったケンジの言葉を聞いてクスッと笑うような声が聞こえた。
「ですが、幸いなことにマスターは天下名高い『スパルタン』と自他共に呼ばれるお方であります。そのお方と共にするのであれば、何処に不安など持って行けましょうか?」
「………………ja。………………それはレオナと同じだよ?」
ケンジの不安を拭うように言われた二人の言葉にケンジも笑うように二人に向かって振り向きながら答えた。
『そうだな。その通りだ。お前ら二人の言ってる通りだ』
だからじゃないが、
『よろしく頼むぜ。頼りになるのはお前ら二人だけなんだからな』
「……っ。………………お褒めに預かり、感謝の極み。恐悦至極にございます。感謝します、
「………………レオナは少し大げさ。………………だけど」
そう言って言葉を切ると、表情の変化が乏しいケイトにしては珍しく笑うようにして表情を変えると続けた。
「………………嬉しいよ、チーフ」
表情を変化させながら放たれた言葉にケンジは嬉しくもあり恥ずかしいという思いを隠す様に再び頬を掻いた。
それからしばらくして経ってから、ケンジ達三人の姿は白い壁と外が見えるガラスが張られた四角い箱の中にあったその中にわけだが、その内部は決して広いとは断じて語ることは出来ず……。
「………………狭い」
その一言に尽きた。
『まぁ、狭いっちゃ狭いんだが三人入ってもまだ隙間があるんだぜ? その分は広いってことでいいじゃねぇか』
「あの、マスター。非常に言い難いことなのですが、私とケイトの二人はマスター程には乗り慣れてはいません。故に……、そう思ってしまうのは仕方がないことだと思うのですが」
『……まぁ、その通りだな』
そう言ったレオナの言葉も確かなもので、ケンジとレオナ、ケイトの三人だけでぎゅうぎゅう詰めとまではいかなくてもそれに近い状態である。その状態でまだ隙間があるからとは言えども、それを広いと言えるのかというのは別問題に等しく……。
『……そう言えば、「旅団」の連中で「
「……マスター。聞き間違えなどでなければ、それは『コンテナ』一つに二人という意味で合ってますか?」
『……あん? ああ、そういう意味だけど? どっかおかしいのか?』
ケンジの言葉に、どこかから言った方がいいのだろうかという指摘を入れたくなる気持ちをレオナは冷静に鎮めていた。だが、それは続けて出された彼の言葉で全てが無に返ってしまう。
『まぁ、「コンテナ」一つに火薬と武器をありったけ敷き詰めて半ば「特攻兵器宜しくのただの棺桶」になってて使おうとする度に「誰が
己の主の言葉をレオナは耳に入れると、それを理解しようとして考え込み……、答えを聴こうと改めて気付いたことを訊いたのだった。
「…………………………………………………………マスター。ふと思ったのですが、この『コンテナ』には座席などはないのですね?」
そうなのだ。
この『
『旅団』と呼ばれた者たちが作る乗り物にしては座席がない乗り物などは珍しいと言えた。……そう思い、訊いたのだが。
だが、何かを期待するレオナの気持ちを裏切る様にケンジは彼女の方に顔を向けると静かに、しかし冷静に答えた。
『あ? ねーよ、んなもん』
「…………………………………………………………えっ?」
自分がこれほど近くにいるのにも関わらず何か聞き間違えをしたのか不安の思いに駆られたレオナは再び訊く様に訊いたのだが。悲しいかな、現実は変わることはなく冷酷に事実を突きつけた。
『……だから、座席なんて豪華なものはないって言ったんだ。「
「………………それでは、マスター。…………この『コンテナ』というモノは…………」
『……ああ。「手の込んだとしか形容できない自殺手段」だな。……まぁ、ありったけ火薬とか敷き詰めて打ち込んでたから、そもそもの話が威力がある「棺桶」だから周りを巻き込むちょっとした集団自殺専用だったがな』
そんな必死の思いで戦いへと赴いていたのか、彼は。
そう感じると、何とも言えない気持ちに胸がいっぱいになる。そんな必死の思いで戦いへと赴き、更には自分らは死ぬことはないと意気込むように、あの言葉、「『スパルタン』は死なない」と言い続け、周囲を励まし続けていたのか、と。そう思うと、彼は自身が考えてるよりも遥か高みの存在と思えてしまう。
否。
この時、レオナは純粋に己の主はとんでもない存在だと思っていた。
そのレオナの反応では、全く考えてはいなかったケンジだったが、彼女が自身を見てくる雰囲気が変わってることに内心の中で疑問符を出していた。
……今の会話で思う点とか、どこかあったか?
特には言っていないはずだとケンジは考える。安全装置云々など全くと言い程付けられていない『
しかし。
いくら使う必要がないと言ったところで二人が、現状中にいる時点でケンジの言葉に耳を貸すとは思えない。そうなると、無理にでも外に出すなどといった手段に出るしかない。
だが、それはやめておこうとケンジは考えていた。
レベルがまだ三桁もなければ二桁でもないというのであれば、無理にでも追い出すのだが、レオナとケイトはケンジよりも劣るとはいえ、レベルは三桁の域に達している。まぁ、レベルが三桁あって、自殺願望でもあるのかと思われてもおかしくはない程までに強いモンスターなどと普通に殴り合っているケンジの補佐に付いていれば、レベルが三桁の域に達していてもおかしくはない普通でしかないのだが。
……ま、大丈夫だろ。
ケンジはその時、油断に繋がってしまうことを考えていた。
もしや万が一といった事態が発生したとしても、自身がいるから大丈夫だろうと。
その考えが油断に近いモノだと分かっているはずなのに、だ。それが今後どうなるのかはこの世界にいるかもしれない神のみぞ知る。
『よし、準備は良いな』
ケンジの確認をする声に二人は頷いた。その事を確かめると、ケンジは『メニュー画面』に書かれている『アイテムボックス』から通信機を手に取って外との連絡を取った。
『こちら、110。本日は晴天なり、本日は晴天なり。感度はどうか。
そう言うとケンジは通信機から手を離し応答を待つ。すると、時間を置いて応答が入った。
『こちら、エルミア。感度は良好。よく聞こえます、110』
相手もケンジの応答を待つために手を離したのだろう、何も聞こえなくなる。通信機横にあるボタンを押してケンジは言った。
『こちら、110。……
ザッ。
『こちら、エルミア。……ja。二番、了解。変更します、110』
エルミアから了承したとの連絡を受けて、ケンジは通信機の連絡番号を『1』から『2』へと切り替えると、再びスイッチを押した。
『こちら、
今度もエルミアが返事をするであろうと思っていたレオナとケイトであったが、その二人の思いは自分たちの知らない声が聞こえ、裏切られることになる。
『こちら、
「…………………………えっ?」
「……………………チーフ?」
突然自分らが知らない女性の声を聞いて、レオナとケイトの二人はケンジに訝しいモノを見るような目でケンジを見てくる。だが、ケンジはそれには何も答えず、片手で制することで応えた。
『こちら、110。……いやな? 「
ザッ。
『こちら、
『こちら、110。ちと小耳に挟んだんだが、「
ザッ。
『こちら、
『こちら、110。ああ、必要だ。そうなると、思って今入ってる。因みに
ザッ。
『こちら、
『こちら、110。多分、外に槍持ちと二丁持ちがいるはずだ。エルミアもいると思うぞ』
ザッ。
そう言ってスイッチから手を離してしばし待つことにしたのだが、片方を待つということはその間もう片方の相手をしなければいけないということであり……。
両側から寒気を感じそちらを見る様に一歩下がって見てみると。
「マスター。先ほど、女性の声が聞こえたのですが、いったいどこのどなたか御聞きしてもよろしいでしょうか?」
「………………チーフ。………………さっきの………………誰かな?」
黒いオーラを纏わせた白い服にフードを被って顔を隠している従者と短い緑の髪をゆらり、ゆらりと静かに揺らす轟爆風がそこにいた。
『ま、待てよ。ちょっと待ってくれ』
後ろへ後ずさりするケンジであったが、ここは行き場が限られた小さな『
その願いが通じたかどうかは不明だが、その時奇跡的に通信が入った。
『こちら、エルミア。聞こえますか、110?』
助けが入ったことに喜びながら通信機横にあるスイッチを押して、ケンジは返事をした。
『こ、こちら、110。助かったぜ、エルミア!! 恩に着る!!!』
だが、その言葉に対して何も知らないエルミアは事態を理解するためか、少し間を置くと、返答した。
『こちら、エルミア。……はぁ、どういたしまして?』
エルミアの返答を聞いたのか二人は少しの間固まり、それがケンジの命を繋げることとなり、エルミアは言葉を続けた。
『ああ、そう言えば。……110。先ほど、ナターシャから連絡を受け取りました。彼女の方でも事態を確認できたとのことであと数分でタイムカウントに入るとの事です。どうぞ』
ザッ。
『こちら、110。
ザッ。
『こちら、エルミア。いえ、そこまでは聞いてません。どうぞ』
ザッ。
『こちら、110。
そう言ってスイッチを離すとすぐに返事が聞こえて来た。
『こちら、
ケンジは一瞬、彼女が何を言ったのか理解が出来なかったが、時間が少しずつ経つごとに理解が出来てきた。
この『発射台』には電気が必要であり、その電気を有効的に使うために暖機運転をして
つまりは。
『………………こちら、110。………………つまりアレか。
ウルナにコードを繋げて、流し込んでもらえばいい、と。そういうことか?』
バカバカしいと思っていたケンジであったが、その言葉を否定することなく彼女は言った。
『こちら、
そう彼女が言った直後、外でガッチャン、となにかが引き絞られた音が聞こえた。
その音を聞くと、それが何の音であるのかを訊く様に二人は互いの眼を見て、ケンジの方を見た。
「………………あの、マスター。出来れば答えてほしくはないのですが、先程の音が何を示すのか御聞きしてもよろしいでしょうか?
………………嫌な予感がしますので出来れば答えて欲しくはないのですが」
「………………レオナと同意見。………………だけど、一応訊くよ?
………………チーフ。………………答えて」
『………………なぁ。それって答えなきゃダメか? お兄さん、答えても答えなくても嫌なことされる予感があるんだが』
もう既に答えなど出ているのだが、二人は事実から目を背けたいのだろう、僅かな希望を抱いてケンジにそう訊いてきたのだが、ケンジに訊かれた所で現実は変わることなどはない。その事を証明するかのように無線機に通信が入った。
『こちら、
カウント、10……』
覆ることのない事実に二人はケンジに詰め寄る。
「答えて下さい、マスター!! 先程の音はなんなのですか!?」
「………………答えて、チーフ」
『9………………8………………7………………』
「マスター!!!」
「…………チーフ」
『6………………5………………4………………』
もう既にカウントは4に入ってしまった。その事に内心の中で二人に謝罪しながらケンジは答えた。
『お前らも聴いたろ………。
………………弾を込めたのさ』
「弾………………ですか………………?
それは一体………………?」
「………………何の弾なの?」
『3………………2………………1………………』
二人の言葉に答えるかのようにケンジは一度天を仰いだ。
『それは………………』
「それは? なんです?」
「………………なんなの?」
再度訊いてくる二人を見る様に顔を下すと、彼は言った。
『………………俺たちだ』
『………………0。………………
ケンジの言葉を聞くと疑問するかのように言おうとした二人であったが、その言葉は放たれることはなく彼の耳にも入らなかった。
何故ならば。
何倍にも力をためた
「………………うわぁ。いつ見ても思うけど、アレ凄いね」
ドン引きした表情で肩まで伸ばした蒼い髪を手で払いながらウルナはそう言った。その彼女の言葉に彼女の近くで立っていた白い一色の白髪をした隻眼の女性は笑うように答えた。
「まぁな。魔力がないから仕方なく、ああやったって、マスターやチーフ達からは聞いてるぜ」
けどまぁ。
「自分が弾丸になって弾かれる気分なんざぁ……、出来れば味わいたかぁないね」
「ja。ははは、それには同意見、かな? それをしないのであればいくらでも電力供給するよ。……どう、
「……ハッ。バカ言うな。チーフ達が上がったんだ。これ以上は、上がる必要なんざ、ないだろう?」
「……そうだね。……確かに、その通りだ」
そう言うと、ウルナは背後を振り返る。
「だったら、私たちがここを守って、こいつらを倒さないといけないね」
「ああ、そうだ。……ったく、面倒くせぇったらありゃしねぇぜ」
そう言うと、
そこには。
天から降り注いできたかの様に黒一色となっている群れがそこにいた。
「ったく、チーフ達がいなくなった丁度のタイミングを狙ってきやがって」
「知ってたのかは分からないけど、タイミングがいいよね」
「だな。ま、知ってるかは分からないってのは確かだが」
そう言った
「さぁ。
「さぁ。
二人がそう言った直後。
一つの稲妻が。
二つの銃声が。
群れを駆け抜けた。
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