第15話 戦激の舞
ケンジ達三人が到着してから、早数日が経過した。
何もないかと思いきやそんな暇になるようなことは全くなく、暇なときなど片時もない日々をその日も過ごすだろうとケンジは思っていたのだが、そんな彼の考えを打ち消すかのように
『……で、なんだ
……いや、
『お前らの仲間の「メカノイス」を殺してるかもしれないんだろ?』
「それはそうなんだがな、チーフ」
『だったら、行かせろ。あのクソッたれの連中がいるってだけで俺は我慢ならねぇ。それもあの時と同じように「要塞」の内側と外側に分断されてるとありゃ、早いところ始末しねぇと』
静かに、だが、激しく燃え上がる想いをケンジは隠すことなく言った。そんなケンジの想いを分かっていながら、
「確かに、そうなんだ。……そうなんだよ。だが、今はダメだ。いくら
『……………………………………どういう意味だ、
彼女の言い方を不審に思った彼は思わず訊いてしまう。彼女は彼の疑問の声にニヤリと口元を歪ませる。
「なに、簡単なことさ。今は『メカノイス』の他に、『ヒューマン』の集団もいる。『メカノイス』だけなら、あんたの存在を隠せるんだが、『ヒューマン』もいるとなると話が別だ。……分かってくれるか、チーフ?」
彼女の言葉にケンジは彼女がどの様に考えているのかを理解した。
今の
だが、『ヒューマン』が加わるとなれば話は別だ。あくまでも、
とすれば、『ヒューマン』の勢力を無力化する位しか出来ないのだが、そもそもそういうつもりはケンジたちには全くない。なので、姿を見せるつもりはないし、彼女が言う見せるなということも分からなくはない。
…………………………………………分からなくはないのだが。
『だがな、
「そうだな。それは確かに、
ケンジの言葉に
『
まぁ、厄介というよりかなり分かりやすい関係ではあるのだが、これの厄介なところは対話というありもしない選択肢もあると思い込んでしまうことが厄介と言えた。戦うことに慣れていない平和ボケした日本人であれば、そういう第三の選択肢があるかもしれないと思ってしまうのも考えられなくもない。そこに隙を見出して、『プレイヤー』が、それを守ろうとした数少ない『スパルタン』が
だが、今はそうした平和ボケしたバカな連中は、誰一人としてここにはいない。いないのであれば、そうした第三の選択肢を選ぶこともないわけで。
……だったら、大丈夫か。
そうケンジは思うことにして
『……………………………………了解だ、
「……何する気だ、チーフ?」
彼の言葉を聞くとすぐに何かをする気なのかが分かったのだろう、彼女はケンジに訊いた。
そんな彼女に振り向くと背を向けて背後にいるはずの彼女に向けて片手を上げた。
『この前、ちょいと消費が激しくて装備を消耗しちまってな。……ちょいと借りるぞ』
「はっ、あんたら『スパルタン』に貸せねぇ武器なんざねぇよ。持って行きたいだけ持っててくれ。こっちとしちゃ使わないのが多くて処分に困ってたとこなんだ」
『……ったく、よく言うぜ。……だが、ちゃんと言質は取ったぞ、
「あんたら、『スパルタン』に? ……はははっ、言うかよ。言っても止まらねぇのを知ってるのに」
『……止まる時は止まるぞ? ……まぁ、その時はいねぇだろうが』
はははっ、とどこか投げやりな様子にも聞こえるその言葉を残しながら、ケンジはその場を後にした。彼女はそんなケンジの背があった廊下をぼんやりと眺めて……。
「さて、と。
気合を入れる様に
一つ一つ銃器を手に取っては『チャージングハンドル』のレバーを引いてはパッと手を放して初弾を装填しては明後日の方向に武器を向けて発砲するといった謎の行動をとっていた。
適当に撃っているだけのようでいて弾は跡が付いた銃痕に当たるといった有り得ないことが起きている。普通であれば、目標を定めぬ限り同じ場所に何発も当てることなど奇跡に等しく、それが起きることは有り得ないのだが、ある程度発砲すると、その行動に飽きたのか銃器を山の様に積んでいる場所に視線を送った。
『とりあえずはこれだけでいいか。一応、弾は撃てるのは分かったし、ここに置いてある銃器の整備は出来てるみたいだな。……レオナたちもこれ位やってくれたりすると楽でいいんだが』
……そうは言っても俺が趣味でやってることに関わらせるわけにはいかない、か。
なかなか難しいとこだぜ、全く、と言うと、ケンジはため息を吐いて持ち運びがしやすい様に作られている金属の箱、
ケンジがちょうど仕舞った時にタイミングよく背後から声が掛けられた。
「マスター、……終わりましたか?」
女性の声でその様に話すのはケンジが知る限りは一人しかいない……と言ってもここにいる三人のうちケンジのことをそう呼ぶのは一人しか思い浮かばなかったが。
そう思いながら、ケンジは後ろを振り返るとそこには彼の予想通りのフードを被って顔を隠している女性がそこにいた。
『よぉ、レオナ。……見たまんまだ。とりあえずは、なんとか揃ったぜ。と言ってもコンテナ付きのミサイルが一発もないのが心もとないが……』
「そうは言いますが、マスター。この前の
『大丈夫だとは俺も思うぜ? ……だけどなぁ。
心配そうに言う
「だ、大丈夫ですよ、マスター。ここにはケイトもエルミアもいます。それに、
『けどなぁ……。「
「ですが、マスター。……こうは言いたくはありませんが、今あるモノでどうにかしなくてはいけませんよ? 戻るのも手ではありますが、今から戻るとしても……間に合うかどうか」
『そうだよな……』
そうだ。
レオナの言うこともケンジには分かる。
今から『ミサイルコンテナ』を取りに、『日常と戦撃の箱庭亭』に戻りに行ったとして果たして、
いくら、『エクスメカノイス』とは言えども、かつて『
であれば、出来れば装備はほぼ完ぺきだと自信が持てる位には揃えておきたいというのがケンジの心境であり、本音なのだが、そうしていたら、間に合わないというレオナの意見もケンジには理解できなくもなかった。
とすると、彼女の言う通り今ある武装でどうにかしなくてはならないということになるわけで。
『そうだよな。……ここにあるモノでどうにかしなくちゃいけねぇ』
「ja。であれば、……どうにかなりそうですか、マスター?」
『……ん? ……まぁ、な。取り敢えず手持ちの
「そうなので?」
『おう。例えば……』
疑問の声を出すレオナにも分かりやすい様にユニットの中に仕舞った一丁の銃器を取り出す。黒く光る銃身で洗練された外見をしており、目標を定めるための照準器があるであろう場所には黒い色で塗られたさほど太くなくそこそこ長いモノ、『スコープ』が取り付けられていた。
『この「
「その問題とはなんです、マスター?」
そう訊いてくるレオナの疑問の言葉にケンジはコクリと頷いて答えた。
『さっきも言ったが、
「つまり?」
『弾幕が張れねぇんだ……』
「弾幕ですか……」
ため息交じりに応えるケンジの言葉にレオナは疑問符を浮かべながらもオウム返しの様に返す。
「マスター。その、弾幕とやらは貴方が持ってるそれではダメなのですか?」
分かりやすい様に左腕に取り付けられている盾を指差しながら彼女は訊いた。そこにはケンジ御愛用の『ガトリングランチャー』が付けられていた。
『……ああ。まぁ、コイツでも張ろうと思えば張れなくもない。……張れなくもないんだが、……コイツの場合はあんまり撃ち過ぎると
「成る程。……となりますと、マスターの言う通り難しいですね。」
『……だろ? 弾の方はこの前使うのに補充した分と今使うのに補充した分で心配はねぇ。……ないんだが、それでもなぁ……』
ま、もしもって時は、全部捨てて遊ぶからいいか、と考え方を変える様にケンジは言うと意識が変えろうとしたのか立ち上がった。
と立ち上がったその時だった。
事態が変化したのは。
倉庫の壁際に鎮座して壁をくり抜かれて外側に銃口を向けていた
「きゃ!!!!」
『近接用の「チェーンガン」が動いた? すると……「
可愛げな声を出して驚くレオナとは打って変わって彼女の様子を気にしない様にしてケンジは事態を悟る。
外に出ているはずの
『ヒューマン』の集団がいなくなったか、消されたか、その二択になる。
『……ったく、「ヒューマン」でも止めらねぇか。
「……であれば、どうしますか、マスターっ!?」
返ってくる返事は分かっているだろうにレオナはケンジに疑問をぶつける。何をしたいか、どうしたいのか、それを明白にする為にわざわざ訊いてくるのは従者としての本能かあるいは義務か。
どっちでもいいか、とケンジは内心苦笑しながら彼女に言った。
『決まってる。……潰すぞ』
「ja!! それが我が主たる貴方の望みならば!!!! 従者たる私は共に行きましょう!!!! 御許可を、マスター!!!」
許可を求める様に訊きながらも手を伸ばして来るレオナの手をケンジはしっかりと掴んだ。
『勿論だ!!! 来い、レオナ!!!』
「ja、喜んで!!!!」
彼の言葉を聞くと、彼女は実に嬉しそうな返事を返しながらしっかりと握り返したのだった。
時はそれから僅かに遡る。
鎧に身を包んだ人の集団と対峙するように、人とは異なる武装をしている異形の集団、ヒトデナシともいえるであろう集団が対峙していた。……ヒトデナシとは言えども、あくまでも外見上だけの話であって中には人の集団が持つ刀や剣を持つ者もいる。と言っても、ほんのごく僅かな少数しか持っていなかったが。多くのモノは黒く塗装され黒光りするフレームに包まれた銃器を持っていた。
白髪で隻眼の女性に光を受けて金色に煌めく女性が近付いて、声を掛ける。
「で、どうしますか、
「あっ? ……ああ、エルミアか。どう出るって言われてもな……。少なくても、こっちからは手は出さねぇよ。マスターにもチーフにも言われてるんだ。『手を出さなきゃいけないって時は必ず来る。だが、絶対にこっちからは手を出すな。相手の出方を窺って一発貰ったら容赦なく何倍にして返すんだ』ってな。……だから、手は出さねぇよ」
「でも、確かそれ相手方よりもこちらの火力が何倍もあった時のみの、限定条件でしたよね?」
「そうだよ」
そう、そうなのだ。
この条件を
同じ人類種とは言えども、『ヒューマン』と『メカノイス』の間には圧倒的な差が存在する。
どうあってもこれらを覆すことはできない。攻撃可能距離は近接距離で戦う剣しか持っていないのを見ればもう既に勝ったも同じであり、こちらは中~長距離を戦える銃器が主である。火力も向こうを遥かに超えているだろう。……
何故ならば、『エレメンタリオ』は詠唱を行わない無詠唱で魔法を使うことが出来るのだが、『ヒューマン』は一回一回使う度に詠唱が必要なのだ。つまりは、使用するのに時間が掛かるということであり、詠唱など#そういったもの__・__#なしでその魔法よりもはるかに早くて強い銃器を使う『メカノイス』には負ける要素はほぼないと言っても過言ではない。
……しかし、世の中そう簡単になるほどまでには世界は回っていないわけで。
身体の中に溜まっていた息を吐く様にため息を
「まぁ、普通に考えれば『
「そうですね、
「言うかよ……。マスター達がようやく外に出れたのに、一人だけ出れてねぇんだぜ?」
ハッ、
「誰が言うかよ……」
まぁ、今は居てくれることに有り難く思えるけどな。
どこか自嘲気味に言う
だが、それも一瞬だった。
対峙している両者とは違う第三者が両者が揃うその時を待っていたかのように現れたのだ。
うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!
『ヒューマン』たちが出す雄叫びよりも遥かに獣が出すモノに近い雄叫びを聞いて、
すると、そこには群れと表現するしかないモンスターの群れとモンスターを指揮するようにこん棒の様な何かを片手に握って天高く掲げている『人類種』に近い外見で、しかしそうではないと断言させるモノたちがいるのが目に映った。
「『
「仕掛けてくるなら、今しかねぇだろうが!!!! ……構えろ、エルミア!!!」
両側の太ももに掛けられているホルダーから出ているトリガーに指を軽く引っ掛けて上に放る様に放り出すと、ケンジが使うモノよりも短い銃身である『
「チーフが出てくるまでの短い時間だ。それまで、時間を稼ぐぞ!!!」
「それまでは、私たち二人で
「……はっ!!!! それも悪かぁねぇな!!!」
そう話している内にも彼女ら二人が率いる『メカノイス』と『ヒューマン』の集団を横から食らい潰す様に『バイオス』が襲い掛かり、両者の姿が見えなくなるのにさほど時間は掛からなかった。
『
なぜ、それほどの群れが消えたのか?
両者を食らい潰すほど圧倒的に多かったのにも関わらず……。
その答えは至ってシンプルなもので。
『
一秒、一秒、一つの銃口から弾丸が放たれはまた別の銃口から弾丸が放たれる。一つ、一つをカバーするように壁から出ている『チェーンガン』は銃身を休むことなく放たれる。
仮に休んでいたとしても、その休みを補う様にまた別の『チェーンガン』がカバーする。休むことなく横殴りに放たれる弾幕を耐えることなど誰が出来ようか。
否。
そんなことなど誰にも出来ない。
『こんな弾幕張られちゃ、いくら「
「ですが、マスター。貴方ならば可能なのでは?」
襲い掛かろうと向きを変えようとしたモンスターが『チェーンガン』の弾幕を受けて消えていく姿を見ながらケンジは独り言のようにそうぼやいた。その彼のぼやきにレオナが反応した。
『俺か? …………………………………………どうだろうな。……………………いくらレベル四桁あるって言っても走ることはおろか歩いてみたいとは思いたくはねぇし、そんな風にも思いたくねぇな……。というかそんな遊びとかしたくねぇよ。』
「…………………………………………しないので?」
『………………………………あのね、レオナ。お兄さん、いくら遊びたがり屋でも、そんなことしてでも遊びたいとは思わないよ? ……そういうの、キチガイとかそういうのだけだぜ?』
いくらなんでもな。
そう言いながらケンジは外の光景を見る。
『
『いくら「
「どうしますか、マスター?」
皮肉げに呟かれたケンジの言葉にレオナは疑問を投げかけた。その疑問に、彼は笑う様に答えた。
決まっている、という様に。
『助けるぞ。こっから先はお楽しみの時間だってな』
「…………………………………………ja。…………………………………………それじゃ、お先に」
『あん?』
レオナではない女性の声が聞こえたと思ったらケンジの横を一つの突風が吹いた。彼がなんだ? と思った時にはもう既に戦場に一つの爆発が巻き起こった。
『……あのバカ。主の俺を差し置いて突っ走っちゃって、まぁ』
「そこが、ケイトのいいところであり、同時に悪いところでもあります。……果たして、誰に似たんでしょうね、マスター?」
レオナは誰かは言わなかったが、彼女の言い方はもう既に誰を指しているのか明白だった。それを理解してか、ケンジはわざとらしく大きな咳をしてごまかした。
『ウォッホン!! ……はて、なんのことかな? ……それはともかくとして、だ』
『先行しろ、レオナ。
「ja。分かりました、マスター。……それでは、後ろは任しますね?」
『分かってる。……俺以外の野郎の眼にはお前の尻は見せねぇさ』
見えもしないだろうがな。
聞こえない様に小さく出された彼の呟きは彼女の耳に入ることなく、レオナは一瞬だけ呆けた様にケンジの方を見ると、クスリと笑う様に口元を抑えた。
「ja。では、貴方以外の方に見せぬよう私の後ろを貴方に任せますね、マスター?」
『……おぅ。任されて!!』
そう言うと、駆け出していくレオナと打って変わってケンジは『
『
だが、放たれた弾丸は当たったことを示す様にモンスターの頭に当たり続いて胴体に、という具合に数体のモンスターを屠った。
現実の世界では、こんなことなど起こるはずはないのだが、この世界はゲームの世界であって、現実ではない。
このようなありえないことがこうして起きているのは、ただ単にケンジがそれだけの奇跡を起こすだけの能力を、
命中率補正を行うのは『
そして、有効射程を伸ばすのには『
つまり、この二つのスキルを持っている限りは、どの様な銃であろうともどの距離でも第一射は必ず急所に命中すると言ったモノだ。ただし、それも銃口が向いている相手に限る話ではあるが。
ケンジの射撃に何体かのモンスターが反応したが、『チェーンガン』の威力を知っているからか、ケンジの方に向かってくるこはなく、再び元の位置に顔をモンスターたちは戻したことに彼は舌を打つ。
『ちっ。流石に楽はさせてくれねぇってか。……お兄さん的には楽をしたいんだがねぇ』
泣けるもんだ、とケンジは肩を竦めた。
そうしている内に、爆風がモンスターの群れの中で巻き起こる。
『……ったく、ケイトのヤツ、はしゃいじゃってまぁ。……ま、アイツがいるおかげで少しは楽出来るんだがな。』
そう言いつつも、ケンジは前に出ようと前へ足を踏み出す。
いつもある二つの『ミサイルコンテナ』がないとは言えども、それで軽くなったとは決して言うことは出来ない。左腕に付けている盾と先端部に取り付けてある『
そうしている内に弾倉の中の弾丸をすべて吐き出したのか、空になったことを知らせる音がケンジの耳に届いた。
『いくら
しゃあねぇか、と苦言を言うように独り言をケンジは呟いて……、
『
と言いながら、トリガーの上にある排莢スイッチを右親指で押して、『
そうしている内にマントの下から這い出る様にして、弾がたんまり目一杯に入った
装填されたことを確認するよりも、ケンジは足は出す速度を速め、次に
その姿もすぐに消えてしまったが。
「だぁぁぁぁぁぁ、クソッたれがぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 撃っても撃っても減りやしねぇぇぇぇ!!!!!! 減ってんのかよ、クソッたれどもがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
あああああああ!!! とほぼやけくそ気味になりながらも
だが、撃ち続けていることはできなかった。
カチッカチッと弾が無くなったことを知らせる音が彼女の耳に入ると、
次の瞬間、何の躊躇いもなく彼女は両手に持った
何も知らぬ第三者が見れば何をしているのか全く分からない行動だが、突如として回転を止めた彼女の手には空になった
回転を止めた
「
そんな彼女を呼び止める声が聞こえるのと同時に突っ込んできたモンスターの頭に一本ナイフが突き刺さり、モンスターは走る勢いを殺すことなく前のめりに倒れる。倒れてもすぐに止めることはなく、ズザザ!!! と身体を地面に擦りながら、モンスターの身体は彼女に向かってくる。だが、そこにはもう身体を操るだけの力はもう既になく。
初弾を装填するために『
撃つ準備が終わった
「助かったぜ、レオナ。……ちょうど、弾が切れちまってな」
ハハハ、と笑う彼女に対し、レオナは口を開いて言った。
「
「バカ言うなよ、レオナ。あんなクソ重たい武器持とうとする
そもそもの話、
「あんなクソ重いわ、すぐに
「ja。それはそれは。お誉めに預かり恐悦至極。出来れば、その様な感謝の言葉は貴女の口からではなくマスターの口から聞きたいですが。」
「嫌味か? ……おい、レオナ。それ、嫌味で言ってるんだよな? お? 喧嘩か? 喧嘩売ってんか?」
「貴女に売ってどうするのですか」
「……まぁ、お前から買ったとしてもいつの間にか後ろを取られてお陀仏になるからな。……で、レオナ?」
話をしつつも二人に向かってくるモンスターを
「お前なんでここにいんの? チーフは?」
今更になって訊いてくる
「ケイトがマスターを置いて先に突っ込んだので、私も来た次第です」
「ケイトが?」
「えぇ。……その証拠にほら」
そう言った彼女は何のことか分からないという
「あ~……、あれか。なんか妙にうるせえし、『ヒューマン』にはまだアレだけの爆発起こせねぇはずだけど、なんでかなって思ったら、……やっぱり
「敵にするのも味方にするのも簡単ですよ?」
「お前が言うな」
まぁ、とにかくだ。
「
「ja。ですが、油断大敵、ですよ?」
「ハッ、知るかよ!!」
レオナに対して、
単独で群れに当たっているケイトは心配する必要はそもそもない。なぜならば、心配したところで五体満足に帰ってくるからだ。
であれば、とレオナは考える。
この場は
そうレオナは考えると、エルミアを探すためにその場を後にしたのだった。
「くっ、しつこいですねっ!!!」
腰後ろに付いている……浮かんでいるといった方が良いかもしれないが、武装ユニットを手元に寄せながらエルミアは攻撃を行う。
三つの砲口から放たれるのは実弾ではない黄色く長い光だ。
その光に当てられて二体のモンスターの身体が焼け倒れるのだが、ただ掠っただけの一体は当てられた怒りからかエルミアから視線を外すことなく彼女に向かって突っ込んでくる。
「ちぃぃぃぃぃぃ!!!」
向かってくるモンスターが足を止めずに向かってくることに舌を打つと、武装ユニットを後ろに向けて投げる様に手を離し、それとは別に空を浮かんでいた他の武装ユニットを手に取ると、エルミアは躊躇することなく引き金に手を掛けて……引いた。
そのユニットからは先程よりも太く濃い色をした熱を帯びた光線、熱線が出た。熱線はその姿形を変えることなくただ突き進んでいく。熱線の熱さに焼かれたからか、発射されるまで生い茂っていた緑は焼け焦げた土を残すだけとなった。
それ故に。
「グアァァァァァァァァ……」
熱線に当てられたモンスターが悲鳴を上げようと口を開いたが、悲鳴が出る前にモンスターの身体が溶かされたからか、最後の悲鳴を言う前にモンスターは身体を失って倒れた。
「流石に量が多いですね……。
戦闘が始まる前に距離を取った白髪の隻眼をした女性の安否をエルミアは気遣うようにしてそう呟くが、その様に独り言を呟く彼女から少し離れたところから爆音が聞こえた。
今現在、爆発を起こせるだけの火力を持つ武器はエルミアの手元にも、両手に小規模な威力しかない『
とすれば、答えは一つ。
「……ふふっ。少しは待っていてくれてもいいというのに。なかなかどうして」
そう呟いたエルミアの耳に聞き慣れた音、『タタタッ、タタタッ、タタタッ』と規則正しい音が後ろの方で聞こえ、そちらを見る様に振り返った。
『無事か、エルミア!? ……
どこか慌てた様子のケンジにエルミアは疑問する。どうして、そんなに慌てるのか、と。
「nein。いいえ、110。彼女とは別行動です」
『あんのバカっ。一人の方が行動しやすいのは分かるが、いくらなんでも……っ』
エルミアと会話しながら彼は、左と右の両腕を大きく広げて左右のモンスターに向けて身体をゆっくりと回し掃射した。重い音を轟かせながら回転し弾丸を弾き出す『ガトリング』と規則正しい音を出しながら弾き出す『
その二つから聞かれる音は決して綺麗とは言い難い不規則な音であったが、それでも一つの曲を奏でている様にエルミアには感じられた。
そう。
それはまるで曲を奏でながら踊っている様にエルミアの瞳には見えた。
だが、それも長くは続くわけもなく。
数秒経つと、彼は舌打ちをすると、空の弾倉を変えるために『
『……くそっ。
そう言うが早いか、マントの下から
そうしている間も、左腕の『ガトリング』は動きを止めることなく弾丸を弾き続けていたが、ちょうどケンジが
その事に腹を立てることなく……内心では立てているだろうが、彼はエルミアの方に顔を向けると、訊く様に口を開いた。
『ってことは、
「ja。お力添えできずに、申し訳ありません、110」
『……いや、いい。気にするな』
彼の疑問に応えることが出来ない無力さを感じながらエルミアはそう答えた。しかし、疑問を投げかけた当の本人は気にするな、とただ一言だけを呟く様に言い、二人から距離が離れた場所で聞こえる銃音に耳を向ける様にエルミアから顔を背けた。
『……とすると、だ。……あんのバカ、少し無理してるんじゃねぇだろうな……? ちと助けてやるか……?』
だったら、と意を決した様に言う彼は続けるように言った。
『ここは頼めるか、エルミア!?』
「ja。出来ますが……。110、貴方はどうするので?」
『
それじゃ、任せた。
エルミアの返事を聞くまでもなく、ケンジは
レオナと別れて数分後。
もう何体倒したのか、数えるのが本格的に嫌になっていた
「……っ!!!!」
させるかっ!!! と接近を阻もうと手に持った『
「……っ!!! クソッたれがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
残弾が無くなったことに気付けなかった自身に対して向けた怒りをモンスターの横っ面に蹴りを入れることで発散させた。だが、それが不味かった。
弾が無くなるまで誰からの妨害もなく踊り続けていた彼女が踊りをやめた。その事実に彼女から距離を開ける様にしていたモンスターたちは一斉に彼女に身体を向けて走ってきてしまう。彼女は舌打ちを再び撃つと、まだあるであろう
だが……。
「……んだとぉ!!!
そこにあるはずの感触がないことに
弾がなく、目の前には自身よりも大きいモンスターの群れ。
どう考えても、目の前にいる群れから逃れる手は今の彼女にはない。とすれば、ただモンスターの群れに食われて、ただ死ぬのみという事実。
「……ここまでか」
ただ、計算を怠った。最期の最期で残弾の計算が出来ていなかったとはなんという皮肉か。
これで彼女のマスターがいれば、後でどんな目に遭うのかは全く分からない。
だが、彼女の主はここにいない。であれば、自身の最期を誰にも知られることなく終わることは出来るだろう。
……どうせ生きていても出会うことが出来ないのであればいっそ……。
一体のモンスターが角を構え、
『……っ!?
彼女が上空に打ち上げられた姿を見たのだろう、自身の主ではないが彼女には聞き慣れた声が聞こえた。
彼の名前は何だっただろうか……。
彼の名前をつい最近呼んだ気もするしそうでない気もする。だが、分かっていることもある。
彼は彼女の主ではないということと、彼はまだ生きることを諦めてはいないということ、その二つだ。
「……がっ!!!!」
空高く打ち上げられた
強制的に出された空気の分を自身の身体に取り込むように彼女は深く息を吸おうとする。だが、ここは戦場であり、彼女にはそのようなことに時間を割くことは許されてはいない。その事を知らしめるかのように何体かのモンスターが群れを作って
逃げるべきなのだろう。
身体を起こしてその攻撃を避けるべきなのだろう。
しかし、
いや。
動こうとはしなかった。
どうせ生きていてもただ時間が過ぎるだけで、あの頃みたく何か楽しいと思うこともない。生きていても、ただ時間が過ぎていくだけだ。
あの頃いた『
そうだ。
自身の主も言っていたではないか。
『「スパルタン」は死なない。ただ消えるだけだ』と。
とすれば、会いに行くためにただ消えることもいいのではないだろうか。
途端に生きるために、抵抗する意欲が削がれた様に動かなかった
『いつまで寝てるつもりだ、
怒鳴りつける様に言いながらも、彼は地面に倒れたままの
地獄の底から這い出てきたように低く重い音を唸らせて六つの銃身を回しながら一体、また一体と屠っていく。その姿は地獄からやって来た死神かそれに近いなにかを彷彿とさせるものだった。
彼が背に付けているマントが風に靡く様に舞う様子からそう思ったのかしれなかったが、今の
「……なぁ……、あんた」
いつも呼ぶはずの愛称では呼ばなかったことに、彼は不信感を抱いた様子で背後を振り返った。
『どうした、
「なんで、あんたは戦うんだ? ……あんたが戦う意味なんざない戦いだろうに。……なぁ、なんでだ?」
彼の疑問に彼女は疑問で返した。
その疑問にどう答えた方が良いべきか悩むように彼は頬を掻くと、答えた。
『意味、意味か。……どうだろうな。意味があるかもしれないし、ないかもしれん。そもそも、んなもん、考えながら戦おうともしなかったしな。』
ただ、と言葉を続けた。
『頭に来る
ま、要するにそういうことだ。
そう彼は言うと
『……立てるか、
彼はそう言った。彼の言葉を聞きながら手を掴んで彼女は身体を起こした。
「……あんたはどうするんだ?」
『……俺か? 俺は……ケイトのヤツがほとんど平らげちまったから暴れ足りねぇんだよな。……とは言っても肝心の弾は全部使っちまったし。いっつも持ち歩いてる「コンテナ」もねぇときやがる。これ以上はもう無理とか無茶の領域ってのも分かってる。……分かってるんだが、暴れ足りねぇ。』
そうだな、
『もう少し、遊んだら戻る』
そう言った彼の言葉に、
「ja。……了解だぜ、チーフ。……無理はすんなよ?」
『はっ、誰がだっての。それに、だ。お前だって知ってるんだろう、
「死なない……、ってか?」
『ああ、そうだ。「
ケンジはそう笑う様に言いながら、彼女の頭を乱暴に撫でた。そんな乱暴に頭を撫でられているのも関わらず、彼女は、
それは昔を懐かしむ様にも、また今を楽しむかのようにも見えた。
二人がそんなことをしている間にも遠くの方では爆音が聞こえる。
『とっとと。こんなことをしてる場合じゃねぇ。早く行かねぇと全部平らげられちまう。そういうわけだ、
「ja。分かった、分かった。無理はするなよ、チーフっ」
『無茶はするけどなっ!!!』
ハハハッ、と笑って駆け出していくケンジの背を
『ったく、遠くの方まで行き過ぎだろ。もう少し手前の方で暴れろっての。向かってく身にもなれっての』
クソッたれが、と呟きながら走るケンジの目の前では未だにケイトが処理をしているのか、爆発が起こっていた。この様子では後数分も経たないうちに、モンスターの
そう思うと、ケンジは走る足の速度を徐々に遅くしていくと、とぼとぼと歩き出すしたのだった。
『……あのバカ、何が楽しいのか、
ただの独り言を呟く様にしていたケンジだったが、近くにいる誰かに訊く様に疑問をぶつけた。
答えが返ってこないことに疑問符を浮かべケンジはそちらを見る様に顔の向きを変えた。
すると、そこには。
「たす、たすけ……」
「ガッ、ガッ、ガッ。助ケ、呼ンデモ、無駄。ココニハ、誰モ来ナイ。大人シク、シロ」
「そ、そん……」
獣の様に横たわる何かに覆い被さる様にする何かがそこにはいた。
だが、その獣は何かを食べるのに夢中なのか、すぐ傍にいるケンジのことなど気にした様子もなかった。
やがて、食べ終わったのかゲフゥとげっぷと出し顔を上げ後ろを振り返す様に顔を向けて、…………………………………………ケンジと目が合った。
「ナッ!? オ前、『メカノイス』カッ!?」
『そういうお前は、「
驚いたという様に驚く『バイオス』に対し、ケンジはクソはやっぱりどこまで行ってもクソだなぁ、と思いながら右手の親指にワイヤーが掛かっているリングを掛けた。
「ダト、スレバッ。ドウ、スルッ!?」
『こうする』
もう既に興味が失せたのか、そちらから視線を外しながら、右腕を向けるとリングを掛けた右親指を押し込んだ。
その直後。
一つの乾いた銃声が周囲に鳴り響くと、何かに覆い被さっていた『バイオス』の額に一つの穴が空いた。
やがてその獣は力を失ったのか力が無くなった様子でただ後ろに倒れていき……完全に倒れる前に姿が消えた。
『仇は取ったぜ。………………………名前も知らない誰かさん』
そう言いながら、ケンジは地面に落ちて散乱している装備を拾う様に近付いていく。
そこには破損が激しい鎧と兜、半ば折れていた西洋剣があった。
それだけを見た様子でこの誰かは恐らく『
そこから導き出される答えは…………………。
『……「バイオス」が「ヒューマン」と「メカノイス」の両者を潰すためにモンスターの群れでこの場を乱そうと暴れた……? 何のために……? 両者を潰しても、まだ「人間種」がいなくなるわけじゃねぇ。「
答えは出ていても更なる疑問が脳裏に浮かんでくる。そして、出てこない答えを求める様にケンジがただ茫然とした様子で遠くを見たその時に、それが目に映った。
ケイトの様に『ヒューマン』がする装備よりも遥かに軽装な外見をしている騎士風の男。
どこか悔し気に口元を歪める男。
そして、男はなにかを唱える様に口を動かすと、その姿が消えた。
何も道具を使ったようにはケンジには見えなかったので、『ヒューマン』ではなく『エレメンタリオ』だと推測が出来る。『ヒューマン』であれば、何かしらの魔道具を使わなければあんなに早く魔法を扱うことなど不可能だからだ。
とすれば、答えはただ一つ。
『「
どういうことだ、とケンジはただ疑問に思っていた。
その遠くでは未だに爆音が聞こえており、後方では
その時、ケンジの脳裏ではなにかとんでもないことが起きているのではないかという考えが渦巻いていた。
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