第14話 生温い天国のような地獄へようこそ
「んで、チーフ。あんた、今までどこ行ってた? 別に今の今まで死んでて生き返った、とかそういうんじゃないんだろ?」
今までどこに行ってた、か。……ハハハ、コイツもコイツもなんだかんで心配してくれてたのか。
彼女の思いやりに心の中で感謝しつつ、ケンジは答えた。
『いや? まぁ、行ったには行ってたんだがな……』
「どこに?」
『……「
彼女はそう言ったケンジの言葉を聞くと、しばらく動かなかった。それは彼にとっては大丈夫かどうか心配に思ってしまうことであったが、そんなケンジの心情を他所に彼女は無事に脳を再起動させると、確かめる様にケンジの右後ろを歩いていたレオナに訊ねた。
「おい、レオナ。今、チーフが言った事って、確かか?」
だが、レオナは
「それがなにか?」
疑問に疑問をぶつけられた事に
「あ~……、あ~……、そうだな。そうだよな、チーフが『不可侵領域』とかマスターたちが取り決めたとこに行くのは当たり前だよな。うん、悪かった。この通りだ。」
両手を合わせてレオナに謝る
「……ハァ!? 『
突然、怒鳴り散らす▽に抑える様にとジェスチャーをしながらケンジは言い訳を言った。
『落ち着け、
いいか?
『もう散々遊び尽くして何もなくなったとこに誰も行かねぇし、手掛かりもなかったろ? それにここらも、「
……厳密には、そこより更に下なんだがな。
彼女に言葉が理解できたかどうか訊ねるケンジを見ていた
「なぁ、レオナ。
彼女がそう思いたくなる気持ちが分かるのか、レオナは頭を抑える様に片手をフードが掛かっている額があるところに……フードを被っているためにおおまかな予想しか出来ないが、そこを押さえつけると、ため息を吐いた。
「……えぇ。
……ですが。
「貴女もご存知の通り、マスターを含めた『スパルタン』と自称していた方々は皆、少し、頭のネジがとんでもない方向に吹き飛んでいます。正気を疑いたくなるのを分からなくもないですが……、残念ながら、嘘偽りない事実です」
そう言ったレオナの言葉にようやく合点がいったのかは不明だが、数回頷きながら、昔を思い出す様に
「……あぁ、そうか。……そういうことか。マスター達が消える間際に、妙になにかに合点したのか、『チーフがやりやがったっ!! すげぇな、おいっ!!!』って
だからか。
「いつもの様に『「スパルタン」は死なない。ただ消えるだけだ』って、
理解が出来たのか、一つの瞳に粒になった涙を浮かべながら、
「……ありがとな、チーフ。あんたがいなかったら、マスターはまだこの世界に閉じ込められたままだった。あんたが居てくれたからだ。……重ね重ね言うぜ。……ありがとう、チーフ」
『お、おぅ。そいつは何よりだ、
「貴方は貴方で何、照れているんですかっ」
レオナは照れている様子のケンジの横腹を小突く。
『……ってぇな。んだよ、レオナ。感謝されたのに返事しただけじゃねぇか』
「そうは言いますがね、マスターっ」
いいですかっ?
「この世界を抜け出すために、
ですがっ。
「目的を果たすために行かれた方が出ることも出来ずにいるのであれば、普通は困るところでしょう!? 違いますか!?」
『ま、まぁ、そうだけどさ』
突然、怒り出すレオナに、ケンジは内心で、こいつは困ったな、と困ったように頭を掻いていると、そんな二人の様子がおかしかったからか、
すると、片手を上げ未だに笑いが収まらない様子の
「はっはっはっ。……あ~、悪い悪い。つい、懐かしいな、と思ってな。悪気はないんだ」
「つまり、好意で行ったことだから見逃せ、と。……そう仰るので?」
「んなこたぁ、誰も言ってねぇだろうが!!! 堅物のクソアマか、てめぇは!? ちょっとはだな……っ!!!」
強い口調で反論する
「……ヒッ!!!」
そこにいたのは……。
「ほぅ? つまり、貴女は私に喧嘩を売っていると。そういうことでよろしいのですね、
静かに、しかし、激しく闘志を燃え滾らせた一人の
「……ねぇ、チーフ。……チーフ達が『要塞』って呼んでるの。……あの、なんかでかいのでいいの?」
『……あ? ……ああ、そうだぞ。懐かしいなぁ~……。当時はいくら遊び慣れてるとは言え、「旅団」の連中でもなかなか作るのに手間が掛かったんだぞ? 全周囲、三百六十度を見るためにどうするか、「要塞」内部の装甲の厚さをどうするかって悩んだもんだ。』
懐かしいな、とどこか懐かしむケンジと彼が語る当時の情景に想いを馳せているだろうケイトは、レオナと
……と言っても、気付かない様にあえてしていると言った方がいいかもしれなかったが。
二人の態度を見て、こいつら……っ!! と静かに怒りを感じている
『……あん? でも、おかしいな。そうなると、だ。なんで、観測用のドローンが上がってる? 別にドローン上げなくても「要塞」内部からは十分に捕捉できるはずだぞ。なんでだ? ……おい、
「んだよ、チーフ!!?」
『なんで、上げる必要がないドローンを上に上げてんだ? 打ち上げなくても捕捉する位だったら十分に捕捉できると思うんだが?』
訳が分からないという様に訊いてくるケンジの言葉に今度は
「はぁ?何言ってるんだよ、チーフ? 捕捉しようにも捕捉できないから打ち上げてるんだろ?」
バカか、と言う口調で言ってる
『観測用のドローンを打ち上げないと捕捉が出来ない? ……ドローンを打ち上げなくても、十二分に捕捉が出来て待ち構えることが出来るのに? ……なんでだ?』
ケンジが悩むように独り言をぶつぶつと呟き始めたその時になって、何かがおかしいことに気が付いたのか、レオナは先程の殺気を抑えて、極めて冷静ないつもの状態になると、
「
というよりも。
「貴女と共にいたはずのエルミアは、何処に行ったのですか?」
レオナの問いに応える様に
「その説明も含めて案内するぜ」
「……
「ようこそ、地獄の一丁目へってな。……まぁ、チーフから言わせてもらえば生温いとしか言えねぇだろうが」
『そりゃねぇだろうが……地獄の一丁目? なんだ、それ?』
招き入れる様に片手を広げて招き入れる
彼女がその疑問に答えようとした途端に、内部から大きな怒号が聞こえた。
『クソッたれがっ!!!! また攻めて来やがった、「
怒りに任せながら放たれる機械音声を聞いた
「つまりは、そういうことだ。力を貸してもらえるかい、チーフ?」
『当たり前だ』
何故なら。
『
『あの「プレイヤー殺し」で有名なクソッたれがいる。「
ケンジの言葉を聞くと、レオナとケイトの二人とも戦う用意をする。その動きを察したケンジは二人を止める様に言ったのだった。
『レオナ、ケイト。お前ら二人はここに居てもいいだぜ?あのクソッたれどもは俺の……、』
いや、
『俺たちの仇敵だ。「プレイヤー」じゃないお前らには関係がない。……分かったか?』
ケンジは優しく二人に言った。
『プレイヤー』ではないお前ら二人には関係がない、と。だが、二人は頷くどころかその言葉を拒否するように鼻で笑った。
「nein。残念ですが、マスター。その提案は、お断りさせていただきます」
『……なんでだ?』
その答えはもう既に分かっていたがケンジは訊かなくてはならない気がしたので訊いてみた。……と言ってもそんなことを思うより早く口から出ていたのだが。
「なぜ、ですか。……そう、ですね」
何故ならば。
「私の
『…………お前の主が俺でよかったよ、レオナ。』
彼女の言葉を聞いて、ケンジは素直に思った気持ちをそのまま口にしていた。
だが、レオナはその理由が分からずに訊く様に口を開く。
「……? なぜです、マスター?」
彼女の疑問を聞くと、恥ずかしがるように頬を掻いて彼は照れている様に答えた。
『俺が主じゃなかったら、嫉妬で誰かを
彼のその言葉を聞いて彼女は、レオナはケンジの横顔を呆然と見た。
だが、それも一瞬のことでどういう意味で言ったのかを理解すると、彼女も素直に笑ったのだった。
「ははは。そうですか、妬けてしまいますか。ははは、そうですか、そうですか。嬉しいですね」
『……ハッ。言ってろ』
気まずさのあまりケンジは素直な気持ちで笑っているレオナから顔を背け、ケイトの方を向く。
『……ケイト。お前もレオナと一緒か。』
疑問ではないほぼ確定に近い言葉を聞くと、ケイトはコクリと頷いた。
「……ja。……そうだよ? ……チーフの敵は私の敵。……だから、私は戦う」
『オーケーだ、分かった。お前が加勢してくれるってだけで百人力だ。頼りにしてるぜ、
彼女は彼の言葉を聞くと、もう一度だけコクリと頷くと。
「……ja。……任されて」
自分の胸を叩く様に、ポンッと叩いてみせた。そこに後悔などは感じられないことを感じたケンジは
『ってなわけだ、
「はっ。誰が止めるかよ。仮に止めたとしても、止まらないことで有名な『スパルタン』様だろ? ……あいよ、それじゃそっちは
そう言いながら、彼女はケンジに向けて、拳を出してくる。その動作だけで彼女がどうしたいのかをすぐに察した彼は
『何言ってやがる、
いいか?
『「
だから大丈夫だ、という彼の言葉に
彼女の笑顔を見て、もう大丈夫だろうと思ったのか、彼はくるりと背を向けて、外へ、戦場へと足を向けたのだった。
ただ一人残された
「……生きて帰ってきてくれよ、チーフ。……今は、あんただけが頼りなんだ。……頼るべきじゃないのは分かってる。……分かってるんだが、今は。……今だけは、頼らせてくれ」
祈る様に呟かれた彼女の言葉を聞く者はそこには誰もいなかった。
『要塞』から出たケンジ達三人は『バイオス』がどこに現れたのか、確認するために周囲を見渡すと、すぐに戦闘らしき行動をとっている数名の『メカノイス』と、多数の『バイオス』が目に付いた。
ケンジはケイトに先行するように声を掛けようとし……。
『ケイト。行け……』
だが、当の本人はケンジの言葉を聞く前に飛び出していき、彼女の緑色の後ろ髪が揺れるのが二人の目に映った。
『……るか? って言い終わる前に出やがったよ、あのバカ』
「ケイトにとっては前に出ることが自分の役割だと割り切っている部分がありますし」
『そういうもんかねぇ……? ……って言ってる場合じゃねぇ。俺たちも行くぞ、レオナ』
「ja。それが我が主たる貴方の指示であれば」
ケンジの言葉を皮切りに、二人は駆け出していくのと同時に、二人がより早くに先行したケイトが接敵したことを示すかのように爆音と爆風が巻き起こった。
駆け出すタイミングは二人ともほぼ同時であったが、数秒、数十秒とレオナとケンジに差が生じ始める。その差を確認するようにレオナは振り返ろうとする。
だが。
『バカっ、レオナッ。俺のことはいいっ。先に行って、暴れてこい!!!!』
「ですが、マスターっ」
『軽装備のお前と違って、
「……っ。……ja!!! ……では先に行かせていただきます!!!!」
先に行くと言った途端にレオナは更に加速した。
『ったく、あのバカっ。俺がミサイル二発に「ガトリングランチャー」持ってるのに同じ速度出せるかって……』
言うんだよ、と言う前にぜぇはぁ、と呼吸が荒くなるのをケンジは感じた。
この世界がゲームだと言うのであれば、いちいちこういった具合に現実さ、リアルを再現しなくてもいいではないか。
その事に苛立ちを感じ、ケンジは怒りを糧として走って行った。
ケンジがその現場に着いた時にはもう既に終わっているかと思われた
なぜならば。
「くそっ!!!! このクソッたれがっ!!!! 何処から湧いて出てきやがった!!!!!」
「口を動かす前に手を動かして!!! 死にたいの!?」
「そいつはごめんだね!!!!」
ケイトが起こす爆音に紛れる様にそんな会話が耳に届いた。ケンジが声をした方を見ると、黄色い髪を揺らしながら一生懸命になって銃器を使い『バイオス』の集団に向けて弾幕を張り、仲間の『メカノイス』達を逃がそうとしている見知った姿がいたのが目に留まった。
左手に『ガトリングランチャー』のトリガーを握って、弾幕を張りながらその人物の方へと向かって行く。
『よぉ、エルミア。……盛況だな? 今日はなんかのイベントか?』
「……110!? なんで、ここに……ということはさっきから起こってるあの爆発は……」
『あぁ。お察しの通り、ケイトさ。……レオナもいる。「日常と戦撃の箱庭亭」、
んで、とケンジはエルミアの背後にいる『メカノイス』にチラリと視線を投げる。
『……時間が要るか? ……稼ぐぜ?』
「頼めますかっ!?」
『暴れるにしてはちょいと武装も数も少ないが……』
まぁ、やれなくもないか、と付け加えた矢先に、耳元に警戒音が鳴り響き、『ガトリングランチャー』の銃口から弾の代わりに蒸気が立ち上り、空回りした。
それを見て、ケンジは舌打ちをすると、後ろにマントを広げる様に右腕を背後に回した。
エルミアが何をするのかと問う前に、彼の横腹にその疑問の答えである『ミサイルコンテナ』が現れ……、
『地獄に落ちやがれ、「
言い終わると同時にケンジがコンテナの横を叩くと、一つのミサイルが放たれた。獲物を食らい潰さんとミサイルはただただ前にいる獲物に向かって飛翔していく。
ケイトが暴れて巻き起こす爆音に交じって、飛翔していくミサイルに気が付いたモノはそこには誰もおらず……。
やがて、ケイトから距離を取ろうと背後に跳んだ二本の角を生やした一体の『バイオス』に当たった。当たったことを示す爆発に今の今まで突如として現れた
「オォ。オォォ、『メカノイス』ゥ。ダガァ、コノ火力ゥ……ダッタラァ……」
ケンジの姿と何をしたのかを察した『バイオス』の顔に絶望が浮かんだ……様にケンジには見えた。
……と言ってもそれほど大した変化はなかったので分からなかったが。
『ああ。……ああ、そうだとも。「スパルタン」の御帰還ってな。地獄の果てから舞い戻ってきたぜ。……お前ら、クソッたれどもをこの世界から消すためにな』
そう言い終わるのを待っていたのか、銃口から立ち上っていた蒸気が消えているのを確かめると、『バイオス』の群れに『
『一列に並んでください!!! お一人ずつに弾をぶち当てて差しあげますので!!! 焦らないで!!!』
重い銃音と共に弾丸が勢いよく吐き出されていくのに合わせる様に、『バイオス』も一体、また一体と倒れていく。
「退ケェ!!! 退クンダァ!!!! 『スパルタン』ニハ勝テンゾォ!!!! 死ニタクナケレバ、退ケェ!!!!」
『おいおい、退くなよ。これからが楽しい楽しいお祭りの時間だろぉ!? なぁ、おい!!』
撤退しようとする『バイオス』に向かってケンジはトリガーボタンに親指を押したまま前進する。一歩一歩踏み出す度に、後ろに、ただ後ろに退こうとする『バイオス』一体、一体の命を刈り取っていく。その姿はまるで生者を刈り取る鎌を持った死神を思わせるモノだった。
だが、それも長くは続くこともなく。
蒸気を出しながら、再び『ガトリングランチャー』は空回りする。
『あん? またかよ、クソ。……
ま、ないモノは仕方ない、とそう言うや否や再び背後にマントを広げる様に右腕を大きく振るった。それが隙だと思ったのかたまたま長生きした『バイオス』達は背を向けよう一斉に振り向いた。
それが『バイオス』達の最期であった。
何が放たれたのか背を向けた『バイオス』達は理解など出来なかっただろう。
なにせ、ミサイルコンテナを二つも持ち歩くなど普通ではあり得ないのだから。
その為、もう既にミサイルなどあるわけがないと思っていた
ミサイルが当たったのをなぜか遠目に見たケンジは傍にいたエルミアに訊く様に呟いた。
『……で、エルミア。お前なに、
「それを説明するのには少し長い話になるのですが……。聞きます?」
『長い話なの? 「
「マスター。確かに、『バイオス』には多くの『プレイヤー』が、……『スパルタン』の方々を消しました。……ですので、エルミアは何も言わなかったのだと思いますよ?」
ケンジ達二人がいるところから離れた場所の駆除が終わったのか、レオナがケイトの襟首を掴みながら現れた。二人の会話に何気なく入ってきたということは二人の話を聞いていたと判断するしかなく、二人がいたところから遠かった場所にいたはずなので聞こえていないと思われるのだが……。
まぁ、そこはレオナのことだから気にしないでいいか、とケンジは気にしないことにした。
『お疲れ、レオナ。……でもよぉ、連中は俺の、「
「お心遣い、感謝します、マスター。・・・・・・・・だから、ですよ。貴方のことですから、『「バイオス」を一匹残らず殲滅するまで帰れまTEN』などくだらない遊びをして、また何処かに行かれてしまうでしょう?」
『そう言うがよ……。あいつらを一匹残らず殲滅するってのは、俺らで、「スパルタン」全員で決めてたんだぜ? 別に一体も残らずに消し炭にする位いいじゃねぇか』
「良くはありません。ただでさえ、装備が十分でない
『えぇ~……。別に
「そうは言いますがね、マスター。貴方がそう言う度に私がどんな気持ちでいたと……っ」
話の論点が変わっていることを指摘することなく論点がすり替わってる話を聞きながら、話に参加することのなかったケイトは何時になったら終わるんだろう、と襟首を掴まれたままぼんやり考えていた。
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