第10話 白銀のとある日常風景
『リシュエント帝国』、そう、名付けられている砦の内側に巨大としか言いようがない宮殿が建っており、鎧を身に纏った人々が通う様子のから察するに、彼らまたは彼女らはこの宮殿の守護に勤めている騎士だろうと推測できる。
だが、注意と言うか警戒心が足りていないようにも思えた。
何故なら。
鎧を身に纏う騎士たちとは全く変わった服装をしている人物が一人歩いているのにも関わらず、誰も気にした様子ではなかったからだ。
ただ一人、白一色のローブを着て、頭深くにフードを被っているその姿は非常に怪しいとしか言いようがないモノだった。
その姿はまるで人の中にいようとも存在を
その人物はその事に少し不満がある様に少し小さなため息を吐いた。
「……不満があるわけではないんですよ? えぇ、ありませんとも。マスターが与えて下さったモノを使っている私にも非はありますし」
ただ、一つあるとすれば。
「出来れば、『S』ランク相当のスキルがあるモノでなくてもいいとは思うんですよ」
……誰からも認識されないというのは私には有り難いですけどね。
その人物……言葉を話す口調などから察するに恐らく女性であると思われるので彼女と言うが、はどうしたものかと考える様に呟いた。
彼女はただ独り言を呟いたが、彼女の言葉が聞こえていないのか、道を歩く騎士たちは誰一人として見向きもしなかった。
彼女が着ているローブに原因はあるのだが、それを普段着ている彼女にも問題はあり、一番の原因は誰一人として認識できない様に隠密用に作った白い鋼鉄に身を包んだ男にこそあるというのだが……、それはさておき。
「……ですが、これは困りましたね」
うむむ。
「誰一人として私を認識できないとなりますと、流石に練度が低すぎると言いますか」
……まぁ、私には関係はないのですが。
誰も認識していない事実に彼女は一人、そう呟きながら城内を守護するために立っている衛兵の脇を何事もない様に普通に、通り抜け城内へと入って行った。
流石に至近距離であれば気付かない者などいないはずなのだが、城内に入った不審者を咎める声がないということは、彼女のことを認識できた者はいなかったようだった。
これで彼女が『帝国』に対してなにか悪意を持っているのであれば、非常に問題があるのだが……、そもそも彼女個人としては『帝国』になど悪意は持っておらず、どちらかと言えば、『帝国』などどうなろうが知ったことではないといった存在であった。
彼女のローブ、『
……特別製とは言えどもとある人物の単なる気まぐれであり、ただの趣味で作った代物でしかないのだが。
その趣味も単なる気まぐれでしかなく、彼曰くは『アサシン装備ってなんかロマンじゃね?』との事だった。
そう言うのだったらその人物が装備すればいいという話になるのだが、『アサシン装備で戦うより、俺、物理特化だから魔法封じの装備の方がマシじゃね?』とのことらしい。
その言葉が何を指しているのかは、彼女にはおおよそでしか推測し、理解することは出来なかったが。
だが、彼女にとって一番であり、全てでもある彼がそう言ったのなら、恐らくはそうなのだろうと彼女はそういうことなのだろう、と納得したために、深く考えることはなかった。
そう彼女が考えながら歩いていると、彼女にとって珍しいことに、彼女を呼び止める声が聞こえた。
「……お? おぉ!!! レオナ殿ではありませんか!!! こんなところでお会いできるとはなんたる偶然!!!!」
大きな声を出しながら、ずかずかと大きな歩幅でひげを蓄えた騎士は彼女にそう言いながら近付いてくる。
老騎士が近付く先に誰がいるのか気になったのであろう。彼女に、レオナに視線が集まって来るのを布越しで彼女は感じていた。
と言っても、そこにあるのは殺意などではなく、ただ純粋な興味によるものだと分かり、レオナは誰にも聞かれないように静かにため息を吐く。
次の瞬間、レオナがいたことに驚いた様に宮殿内にいた騎士たちが一斉に剣を抜いた。
「……き、貴様!!! いつの間に!!!」
「将軍、お下がりください!!!!」
慌てた様子の騎士たちに老騎士が豪快に笑いながら言った。
「ガッハッハッハ!!! 大丈夫、大丈夫だ!!! あのお方には戦う意思などないから安心して剣を収めろ!!!」
「し、しかしっ!!!」
老騎士の言葉に若い騎士が食い下がろうとするが、彼はそれを強く鋭い眼光で蹴った。
「戦う気があれば、私が言う前に全滅しておる。……私があのお方を呼び止めて初めてお前らは気が付いたであろう? であるなら、貴様らとあのお方との間にはそれほどまで埋められない実力差がある。……分かったら剣を収めろ」
な? と聞き返す老騎士の言葉に騎士たちは渋々ながらといった様子で剣を鞘に納めた。
「それでいい。……すみませんなぁ、レオナ殿!!! 最近の若い者の指導が出来ておらんのが知られてしまいましたな!!! ガッハッハッハ!!!」
先程の様子とは打って変わって老騎士は笑い飛ばす様に豪快に笑いながら、彼女に近付いてくる。
彼女はそんな老騎士が手を伸ばせば届く距離まで歩いてくるとわざとらしくにもう一度、ため息を吐いた。
「そんなことはないでしょう。気配を察しられていなかったのは彼らのミスですが、私の気配に気が付くのは並の者ではできません。彼らの反応が自然かと思いますが?」
「ガッハッハッハ!!! いやぁ~、不甲斐ない!!! 我々、騎士の練度がこうも分かりやすく見えてしまうとは。それを責めずにしてくれたこと、感謝いたしますぞ?」
「nein。いいえ、お気になさらず」
レオナはそう言うと、思い出したように顔を上げると、彼に訊いた。
「それで、将軍。私に話があるとのことでしたが……、如何様で?」
「……いやぁ、ここだけの話なので、まだ決まってはおりません。故に、ただの独り言とさせて頂きたいのですがな?」
彼の言葉に、彼女はja、と一言だけそう言うと、言葉の先を促した。
「……近々、『メタノイス』の排除のために、『ヒューマン』全軍で例の砦に総攻撃を掛けるという話になっておりましてな?」
「ja」
「……私は、貴方方には嘘は吐けないので正直に言いますが。お力添えなどしては……」
「nein。無理ですね」
「ですよねぇ~……」
レオナがそう答えるのを分かっていた様に、彼はそう言うと、気になったのか訊いてきた。
「……その理由、御聞きしても?」
「ja。そうですね。まず『騎士団』の練度。つまり、レベルですね。圧倒的に不足してます。仮に私が加勢したとしても全滅……はしないでしょうが、壊滅はするでしょうね」
……そもそもそうなってしまう可能性はありませんが。
レオナが言う全滅とはその文字通りの意味、全ての兵士が死ぬ意味を指す言葉である。
だが、全滅させる気はそもそもないし、少数は生き残るだろうと予想して壊滅という言葉を使ったのだが、彼女の言葉を聞いて老騎士は唸った。
「つまり、レベルが低すぎていざ戦いとなれば壊滅すると分かっているので加勢はしない、と?」
「ja。それもあります。……まだありますが」
いいですが?
「『メタノイス』の多くは、かつてこの世界にいた神々の力によって作り出された要塞の中にいます。……彼らは剣は使いませんが、近距離、中距離もしくは遠距離の全距離での戦闘を想定した武装を持っているでしょう。それに対し、貴方方『騎士団』含めた多くの『ヒューマン』は超近距離での戦闘しかできない剣のみ、となっています」
分かりますか?
「つまり、貴方方は戦う前から負けているのですよ。そんな状態の貴方方に加勢したとしても、勝利を勝ち取るなど夢のまた夢」
ですので。
「『メタノイス』との戦闘は避け、対話での決着が好ましいと思われますが……。如何でしょう?」
彼女からの意見を聞いて彼は腕を組むと再び唸った。
「……う~む……。対話での決着ですか……。彼らが席に着きますかな?」
保証は出来ませんが、と前置きをしてから彼女は答えた。
「少なくとも、私たちの存在を彼らに示せば交渉は可能かと」
彼女は、自分一人ではなく複数人がいる様に、私たちと言った。
その言葉の裏には、かつていた『プレイヤー』であるケンジも含まれていたのだが、老騎士には知ることも理解できることも出来なかった。
彼が思ったのは、彼女のほかにあのじゃじゃ馬として恐れられているケイトも参戦することを示せば、それは応えざるを得ないだろうということだけだった。
まさか、消えてしまった『プレイヤー』、しかも『プレイヤー』の中でも遊び人として恐れられる『スパルタン』がその言葉に含まれていることなど全く想像が出来なかった。
それもそうだろう。
スパルタンという存在自体、とうの昔に、彼ら『ヒューマン』の記憶の中からは消えていたのだから。
あるとしても、普通の『ヒューマン』よりかは長生きな『エレメンタリオ』か、それよりかは多少長生きの『ハイエレメンタリオ』、人という枠組みから外れたごく少数しかいない『エクスヒューマン』、『エクスエレメンタリオ』くらいであり、更に絞ればそれより少数となる『ヒューマンEx+』、『エレメンタリオEx+』位になる。なお、『Ex+』にまで転生しているのは『旅団』に所属しているメンバーのサポートキャラしかいない。
因みに言うと、『メカノイス』は転生しようがしまいが、寿命は遥かに長い。己を直す知識さえあればさらに長生きは出来るだろう。……普通であれば、だが。
それが転生に転生を重ね、種族の枠を遥かに超越した『メカノイスEx+』という存在になれば、修理する必要もないほどまでに長生きとなる。
それを知ってか知らずか、彼女の主たる彼を含めた『旅団』と名乗った七人は全員、『エクスメカノイス』か、それより上となる『メカノイスEx+』であったが。
……それとは別に『転生できるなら出来るとこまで転生した方がカッコ良くね?』というただそれだけの理由で『メカノイスEx+』になるまで
「なるほど、了解しました!!! では、そういう路線で進める様に進言してみますぞ!!!」
「ja。お決まりになりましたら、また呼んでいただければ。」
「それは助かります!!!!」
最初に出会った時と同じく、彼は豪快に、ガッハッハッハ!!! と笑うと彼女に背を向けて歩き出した。
老騎士のその様子を見て、彼女は用事はそれだけなのか、と嘆息交じりに息を吐いて同じく背を向けて歩き始めた。
そう言えば、彼に何も言わずに出てきてしまったな、でも一応はケイトに言っておいたから大丈夫か。……大丈夫……なのかな? ……大丈夫……だといいなぁ。
はぁ、とまたため息を吐いた時、背後から彼女を呼び止める声が聞こえた。
「あぁ、そうだった!!! レオナ殿!!!!」
「……?」
老騎士が呼び止める声に彼女は振り返った。
「この間の件について感謝の言葉がまだでした!!!!」
「……この間……?」
はて、何かあったであろうか?
彼女は何があったかを思い出そうとする。……のだが、何があったのか全く思い出せなかった。
つい先日、彼女の主たる彼が帰還して……それ以来は『騎士団』とはほとんど交流はなかったはずだ。あったとしても、それは彼女にではなくケイトに掛けられる言葉だろう。
だが、感謝されるまでのことをケイトはしたであろうか。どちらかと言えば、彼女の面倒くさがりの性格からいえば感謝はされないだろうとレオナは考える。
とすれば、なんだろう?
そう思い、老騎士を見合った。
「申し訳御座いません、将軍。何か御座いましたか? 全く記憶にないのですが」
「……えっ?」
レオナの反応に彼は何かの冗談を言ってるように感じたのだろう、ただ一言だけそう言った。
その反応を見て、彼女は考える。
彼の反応を見れば、ただ事ではない何かがあったと推測は出来る。
だが、何があったのかが全く予想できない。
何が……と考えれば、多くのことが上げられるのだが、それはレオナが彼女の主と同じくただの気まぐれで行ったことが多くであり、助けを求められてのことではない。
とすれば、軽蔑はされども感謝の言葉を掛けられる理由が彼女には思い浮かばないわけで。
うむむ、とレオナが思い出そうとしていると彼は助け舟を出す様に言った。
「この前起きた!!!! 氾濫のことですよ!!!!」
「……氾濫……? ……あぁ、
彼の言葉でレオナはようやく合点がいった。
合点はいったのだが、残念なことに先日はレオナはあまり働いてはおらず、感謝の言葉を掛けられるのなら、彼女の主であるケンジか、或いは静かなる轟爆風として名高いケイトのどちらかであるはずなのだが、その両者とも今この場にはいない。
なので、彼女はぺこりと頭を下げて言った。
「お言葉は嬉しいのですが、将軍。先日は私だけの力では対処できなかったのです」
「ほぅ。つまりは、ケイト殿もいらっしゃったということですかな?」
ja、と言いかけてふと思う。
あの現場にはケイトの他にいたのだが、それを彼に言うべきか否か。
彼は信頼は出来ると言えるくらいには出来る人物であるのだが、信用が出来るとは言えない。
もし、『メカノイス』たる彼のことを話せばどうなるだろうか。
彼女はそう考え、一旦言葉を切ると答えた。
「確かに、ケイトはいましたが、別のお方のお力もあって出来たことです」
「ほぅ? ケイト殿の他に、ですかな?」
「ja」
「ちなみに、それはどなたか御聞きしても?」
「nein。それは断固としてお断りいたします」
「そうですか……」
彼女の反応に老騎士は考える。
彼女が言えない人物とは何者だろう、と。
だが、大真面目にとしか言えない遊びをしていた連中がいたということを知らない老騎士はただ考えるだけですぐに放棄した。
まぁ、別に誰でも彼女が信用も信頼できる人物であるならば問題はないだろうと、彼は、その時はまだその程度にしか考えていなかった。
なので、彼は感謝の意を表して仰々しく彼女に対して腰を折る様にして頭を下げた。
「ですが、助けられましたのは事実にございます。……ご足労、お掛け致しましたことを……。……感謝いたします。ありがとうございました」
「ja。こちらこそなので、あまりお気になさるのは宜しくないかと」
彼女の言葉にガバッと勢いよく彼は頭を上げた。
「何を仰いますか!!!!!! 貴女方が我々の要請にお応えしていただいたからこそ、なのです!!!! つきましては、後日改めて感謝の意を表しての祭りを企画しているのですが……ご参加いただけますかな?」
「……nein。お気持ちだけ受け取っておきますが、参加は断固として断りさせていただきます」
「……理由を御聞きしても?」
理由を訊いてくる彼に対してレオナはどう答えた方が良いか少しの間、悩んでしまったがすぐに答えが浮かんできたのでこう答えた。
「一身上の都合、と申しておきましょうか」
「はぁ」
レオナの言葉に彼は曖昧な返事をする。
それもそうだろう。断る理由が『一身上の都合』というただそれだけの理由で断れるとは思っていなかったからだ。
『一身上の都合』とはどの様なモノか、それを訊くのはいいモノだろうか、と老騎士は考える。
彼女は、『ヒューマン』の最上位種である『ヒューマンEx+』である。
どこにでもいるただの『ヒューマン』ではないとは言えども、こうして足を運んで話しているだけでも、普通では有り得ないことなのだ。それなのに、その理由を訊くというのはどうなのだろうか。
そんなことを考えていた老騎士であったが、ふと思い出したように顔を上げた。
そこには彼女の姿はなく、ただ風が静かに吹いていただけだった。
「……足が早いお方だ。もう少し、話を詰めたいところではあったが」
うむむ、と唸りながら老騎士は城へと足を向けた。
そんな彼の姿を近くの屋根上から覗く姿があった。
「……将軍のお気持ちも分からなくはないですが、私にとってはマスターこそが第一であり、こんな守る価値もない国と名乗っている集落などとは関係ない話ですし」
ですが、と白いローブに身を積んでフードを被って顔を隠している彼女はそう言いながら背後に振り返った。
「
……その方が簡単ではありますけど。
そう言いながら、静かに数歩歩き出すと、彼女は人々が歩く街道へと身を隠す様に静かに飛び降りた。
『日常と戦撃の箱庭亭』。
『リシュエント帝国』からさほど離れていない場所にその店はある。
店の建物自体はどこにでもありそうな一軒家と言えるのだが、その店の周りを固める様に『ガンズタレット』と……彼女の主を合わせて今この世界にはいない七人が呼んでいる四基の巨大な塔が建っているために何かしらの城塞かあるいはそれに近いなにかと思わせる。
レオナ自身はどの様にして作られているのか、全く知らない……そもそも知るつもりも知ることもないのだが。
彼女の主たる
レオナは彼が言っていたあいつとは誰の事なのか、非常に気になるところであったが、近くに寄ってきた時はこちらで対処できるから別にいいかと思うことにしていた。
だが、とふとレオナは思う。
先日、目の前に建っている『ガンズタレット』は普段とは違った動きをしていた、とレオナは感じていた。
遠くの距離のモンスター目掛けて遠距離……と思える砲撃を行ったのだ。その際に何のためかは分からないが気球に似た何かが浮かんでいた様にも思う。
レオナは、彼ではない。
だが、あの時、彼があいつと呼んでいる何者かへと要請したと考えればあの時のことが納得できてしまう。
……なぜ出来たのかは、なんでも知っている『旅団』と呼んで呼ばれていた遊び人の集団だから、と思っていたために、きっと自分が知らない技術を使ったんだろう程度にレオナは考えていたのだが。
そんなことを思いながら、レオナは店の入り口に手を掛けて、扉を開けた。
開けると同時に香ばしいなにかの匂いが彼女の鼻に寄ってきた。
その匂いから察するに何かしらの野菜を炒めたような香りで、彼女があまり使うことのない香辛料……と呼ぶらしいモノと分かると、彼はまた遊んでいるのだな、と理解できて安心した様にほっと息を吐いた。
レオナのその様子に気が付いたのか、厚く黄色いなにかに赤いモノを付けたモノと大雑把に切られた上で炒められたであろう野菜らしきものに箸をつけて食べているケイトと彼女の主が彼女に向かって手を上げていた。
『おかえり、レオナ、お疲れさん』
「……ん。……おかえり」
「ja。ただいま戻りました、マスター。……ただいまです、ケイト」
「……ん」
『……あ~、勝手に使って勝手に食ってるけど、なんか使っちゃダメなモノとかあったか? ……俺、全然知らなくて使っちまったんだが。』
「nein。問題ありません。そもそもの話、自慢できる話ではありませんが、料理などはマスター程の腕は持ちえませんし。何もされずに生のままで食べられるよりかは野菜たちも感謝しているかと思われますよ?」
そう言った彼女の言葉に彼は引いた様子で答えた。
『……あの、レオナさん?』
「ja。なんでしょうか、マスター」
『料理できるって言っても簡単なので野菜炒め程度しか出来ない俺が言えた義理じゃねぇのは分かってる。……ああ、分かってる』
けどな?
『遊びで作ったとは言え、せめてコンロ位は使えよ。折角あるんだから。』
ケンジがそう言うと、彼女はややため息交じりにこう答えた。
「そうは仰いますけどね。……いいですか、マスター?」
『……あん?』
「使い方が分からない複雑な構造のモノを理解しようにも理解できないのですよ。壊すだけのケイトとは違いますから。」
彼女がケイトをそう呼んだことにケイトは少し嬉しそうに頬を赤らめてケンジに言う。
「……なんか褒められた」
『……うん、ケイト。今、レオナはお前の事、褒めて言ったわけじゃないから。そこのとこ、理解しようか』
「……褒めてないの?」
『褒め言葉には、お兄さん、聞こえないかなぁ~』
ケンジがそう言うと、その言葉を確かる様にしてレオナの方に顔を向けて彼女に問い質す様にして言った。
「……レオナ」
「ja。なんでしょうか?」
「……さっきの。……褒めてないの?」
「ja。……褒めてませんが?」
さも当然だと答える彼女の言葉にケイトは頬を膨らせた。
「……褒めてない。……レオナは意地悪」
『いや、さっきのをどこをどう捉えたら褒め言葉に聞こえるのか、お兄さん、全然分からないんだけど?』
「ja。そこはマスターに同意します。どう解釈をすれば、褒め言葉に聞こえるか。私にも理解が出来ません。」
二人の言葉を聞くと、膨らませた頬を元に戻した。
「……でも。」
『でも、……なんだ?』
「……チーフは。……レオナに感謝してるから」
ケイトの言葉を聞いて、そういうことか~、とケンジは納得して彼女の誤解を解く様に言った。
『あ~、そりゃあれだ』
「……どれ?」
『……アレだろ、アレ。「皮肉をどうもありがとう」ってヤツ』
「……ja。……感謝して言ってるんでしょ?」
『……言ってねぇよ』
「……違うの?」
確かめる様に言うケイトを正す様に、彼は彼女の方を向く様に身体の向きを変えると言った。
『あのな、ケイト。』
いいか?
『俺がそう言ってるのは皮肉に対しての嫌味であって、感謝はしてないの。……分かるか?』
「……皮肉に。……嫌味?」
どういうことか分からない様にして言うケイトにケンジは頭を抱えて助けを求める様にレオナの方を見た。
『メーデー。……助けてくれ、レオナ』
「ja。それが我が主の願いであるならば応えましょう」
レオナはそう言うと、ケイトの傍まで歩いていくと、彼女の肩に手を置いて言い聞かせた。
「いいですか、ケイト。マスターが仰るお言葉は、主たるマスターとその従者たる私がいることで成り立つことです。」
いいですか。
「ですので、貴女がどうしようなどと浅はかな感情で行ってはいけません。貴女はマスターの従者ではありません。……分かりますか?」
「……ん。……なんとなく?」
「ja。それは良かった」
『いや、良くねぇだろ』
二人の様子を静かに見ていたケンジはついツッコミの言葉を言ってしまった。
だが、レオナたち……ケイトは若干反応しようとしていたがレオナは普通に流していた、はその言葉には反応することはなかった。
「……それで、何の話でしたっけ、マスター?」
話が随分逸れていたことにレオナは気が付くと、ケンジに確かめる様にそう訊いてきた。
『……あ~、なんだっけ。なんでコンロをお前は使わないのかって話じゃなかったっけ?』
彼の言葉に彼女は手を打った。
「そうです、それそれ。流石ですね、マスター。助かります」
『あ~、はいはい。皮肉をどうもありがとよ。……で、なんで使わないの、お前?』
「……少し長くなるのですが、よろしいですか?」
おずおずといった様子で訊いてくる彼女にケンジは違和感を感じた。
……その違和感が何であるのか、それまでは理解できなかったが。
『ああ、構わないぞ』
「ja。それでは」
そう言うと、彼女は昔を懐かしむように話し出す。
「あれは、マスターが『プレイヤー』と呼んでいた方々の姿が見えなくなって数日の事だったでしょうか。」
……そう、だったと思います。
「あの時は、たまたまマスターが使っていたものを使ってみようと思ったそんな時でした。……それが起こったのは。」
彼女の話にケンジはごくりと息をのんだ。
『……なにが起きたんだ……?』
「ja。マスターが使っていた時と同じように使おうと、コンロの取っ手を捻ったんです。……マスターが火を出したいた様に、火を出そうと思って。」
そしたら。
「そしたら、……それが起こったんです。」
引きのばそうとする彼女の言葉に次を急かす様にケンジは再び息を呑んだ。
「コンロが……、それが爆発したんです」
『………………………………………………、…………………………………………は?』
一瞬、ケンジの脳内には『おまえは何を言ってるんだ』と言っていることを示す字幕とそう言っている外人の姿が映っていた。
だが、話をするべきことはそんなことではないのは分かっていたので、ケンジは確かめる様にレオナに訊いた。
『…………………………………………うん。…………………………………………うん、お兄さんの気にせいかな? レオナ、今お前、なんて言った?』
「ja。コンロが爆発したと言いました。」
『…………………………………………うん。あのね、レオナさん。爆発するのは火を使うんだから当然でしょ? 火属性の魔石と魔石をぶつけて火を起こすんだから。』
「ですが、マスターっ!! ……あの時は本当に爆発が起きたんですよ!?」
『う~ん、でもな、レオナ? 石同士をぶつけて火を起こすんだから火は起きると思うぜ? それが爆発に見えるかもしれないけどさ。』
そう二人が話しているといつの間にか#彼__・__#の傍に立っていたケイトがマントを引っ張った。
「……チーフ。」
『あん? どうした、ケイト?』
なにかを言いたそうにしているのをケンジは察するとケイトに訊いた。
「……私も一回使ったんだけど。……爆発したよ?」
『…………………………………………なにが?』
もうだいたいの話の流れで分かりそうな流れだったのだが、ケンジはそう訊かなければいけない様な気がした。
話の流れでまぁ、そうなるだろうな、と予想出来ているのも関わらずに、だ。
「……コンロが。」
『…………………………………うん、オーケー。………………………ちょっと待とうか。…………………………………うん? 何が爆発したって言ったのかな? お兄さん、分からなかったんだけど、もう一回言ってくれるかな?』
「……ja。……だから、爆発したんだよ」
彼女の言葉にケンジは相槌を打った。
『…………………………………………なにが?』
彼の疑問の言葉にケイトはそのまま、いつもの様子で答えた。
「……コンロが」
『…………………………………………うん? …………………………………………何がだって?』
確かめる様にケンジはもう一度彼女に訊いたが、同じ言葉が返ってきた。
「……コンロが」
『………………………………………………コンロが?』
もう既に分かっているはずなのに、彼は理解したくないのか訊き返してしまう。
だが、返ってくるのは同じ言葉だった。
「………爆発した」
『………………………………………………うん。………………………………………うん、オーケーだ。………………………………………………オーケー、オーケー。成る程、成る程』
理解したという様に彼は頷きながら言葉を噛み砕いていた。
そして、数秒立つと、彼は冷静をできるだけ装いながら、言った。
『お前らは何を言っているんだ』
彼は我慢しようとしていたのだが分からないが我慢が出来ない様子でそう言ったのだった。
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