第11話 明緑のとある一日
『日常と戦撃の箱庭亭』にある地下倉庫で、白い装甲に身を包んでマントを羽織っている男性が器用に分解して本人曰く整備している……とのことらしいが触っているとしか分からない姿を見ながら、彼の対面に座っている緑色の短く切られた髪を揺らしながらケイトは、その作業を眺めていた。
『……』
目の前に座って作業をしている彼はケイトの視線を気にすることなく……敢えて気にしないだけかもしれかったが、ただ黙々と作業をこなしていた。
彼の脇にはもう既に整備が終わっている何丁、
いや、
何十丁もの銃が置かれているのだが、ケイトにはどれがどの様に使えるのか、全く分からなかった。
こういうのを見るだけで彼がいかに几帳面なのかがケイトにはスゴイな、と思えるところだった。
ケイトにとってはただ単に殴り飛ばせればそれでいい、という考えを持っているので別にその過程で使えなくなったとしても問題などは全くない。だが、目の前にいる彼はそういう考え方ではいられないらしい。
ふと思い出してケイトは手元に視線を落とす。
今、ケイトが装備しているグローブも、元はと言えばただ使えればいい、ただその理由で使っていたものでどれ位耐えることが出来て、どれ位で壊れるのか、そういうところは彼女にとってはどうでもいいことだった。
だが、彼は違った。
あの時言った言葉をケイトは今も鮮明に思い出せる。
彼は拳を守るために付けられているが既に砕かれている『ナックルガード』を見ながら言ったのだ。
『……あのさ、ケイト。これ、一応、この世界の中ではクソ硬い素材で作ったんだぞ? それがなんで砕けるのか、お兄さん、ちょっと理解したくないんだけど』
ため息を吐きながら彼はそう言った。
その言葉にケイトは反論しようとしたのだが、言葉が出ては来なかった。
話そうとはした。
だが、出来なかった。
そう、その時はまだ。
彼はその事が分かっているのか、片手を上げて左右に振りながらグローブを作業台の上に置くと、椅子に座って作業を行った。
彼女は、その様子をただ見ていた。
何か言われればすぐに何処かへと行こうかと思ったが、彼は彼女がそう思って立っていることも気が付かない様子で淡々と作業をしていた。
『……耐久力……の問題じゃねぇな。耐久力はコイツが一番だ。となると、どうして割れたって話になるんだが……。う~ん……分からねぇな……』
どうして砕けたのか、それが分からない様子で彼は独り言を呟きながらグローブを手の上に乗せて、検分していた。
だが、原因が分からない様子で解決されることなく時間はただ淡々と過ぎていくだけだった。
その間も彼女は一人、立ったままで彼の様子を見ていた。
それは、自分の眼に、記憶の中に焼き付けようと、自分の主たる彼の姿を忘れない様にしているようにも見えた。
そして幾らかの時が経った時に。
『…………………………………………あん? ……………………………………ちょっと待てよ?』
何かしらの案が思い浮かんだのか、そう呟くと、机の上に置いたグローブをもう一度だけ手に取って観察し始めた。
『「ナックルガード」は何のためにあるものだ? ……それはもちろん、拳を守るためだ。そのために耐久力は必要だ。……なんでだ? それは、耐えるためだ。……当たり前だろう……。……いや、ちょっと待て。……拳を守るためには「ナックルガード」は必要だ、それは分かる。……となれば、耐久力は必要だ。耐えるためになかったら、ガードする意味がないからな。……そうだ、拳を守るためには「ナックルガード」は必要だ。……それがなかったら意味がない。……ああ、そうだ。意味がない。……意味がない……?』
そう呟くと、ハッとした様子でもう一度グローブを見る。
『そうか……、そういうことか!!!! ……逆だ!!! ハハハハ、そうだったんだ!!! 逆に考えればいいじゃねぇか!!!!』
簡単じゃねぇか!!!!
『守るための耐久力なんざいらねぇんだ!!! 壊せばいい、それだけじゃねぇか!!!!』
ハハハハ、と彼は何かが解決したかのように大きな笑い声を出しながら笑う。
……彼女には全くその理由は分からなかったが。
それからの時間は早かった。
拳全体を護っていた装甲はある程度のモノしか残ってはいなかった。
あの時、渡されたグローブは異様に軽かった印象が強く残っている。
そこまで、思い出すとケイトはあの時の事について彼に確かめる様に口を開いた。
「……ねぇ、チーフ。……一つ、訊いてもいいかな?」
『……あっ? どうした、ケイト。腹の調子でも悪くなったか? トイレだったらうちにはないぞ? ……ま、行こうと思ってもこの世界はトイレ自体がないんだがな?』
ケイトの話に彼は作業する手を止めずに聞いてくれる。
……彼が言っている言葉の意味がケイトにはよく理解できなかったが。
「……ああ、うん。……その話じゃないの」
『……あぁ、知ってる。……まぁ、作ろうと思っても「旅団」の連中でも作り方とか知ってるヤツいなかったし。……そもそもの話、この世界には、排尿とか排便とかそういうモノ自体がないからな』
「……何それ?」
彼が話したワードにケイトは反応するが、彼は『なんでもない』と言いながら片手を上げると左右に振った。
排尿や排便などと言ったモノは人間という生き物であれば、誰もが持つ意識ではあるはずなのだが、この世界にはそもそもの話、そんなものはない。
なので、ケイトには彼が何を言っているのか、全く理解が出来ず、ケイトにはいつもの様に、また変なこと言ってる、と思っただけだったわけだが。
そんなことを思っていると、手元で整備していた一丁の銃を器用に回して、取り付いている取っ手付きの長いレバーを一回引くと、二人が座っている場所から離れている『試射場』……彼曰くに向けると、引き金を引いてみせた。
タァーン。
乾いた銃声と共に煙が銃口から上がる。
その様子を彼は見ると、軽く口笛を吹く。
ここからでは見えないが、『試射場』の標的の一つに小さな穴が空いているのだろう。……距離があるために、詳細を見ることは叶わないが。
『何丁か、整備して撃てるのはわずか数丁……って、腕が鈍ってるな、ルーキー?』
ま、整備してりゃその腕も良くはなるだろうさ。
そう呟くと、整備し終わった銃を脇に置き、逆の場所に貯める様にして纏めて置いてあるところから新しい銃を手に取ると整備を始め出して……、そのわずか数秒後、何を思い出したのか手を止めるとケイトの方を見て彼女に訊いた。
『……なぁ、ケイト。確認なんだが』
「……ja。……何、チーフ?」
『……お前、さっきなに訊こうとしたんだ?』
「……さっき?」
『……そう、さっき。俺がまだ整備してた時に訊いてきたじゃねぇか。「一つ、訊いていいかな?」って』
ケンジの言葉に理解が出来たのか、ケイトは、あぁ、と一言だけ呟くとその言葉に答えた。
「……いや。……別に、大したことじゃないんだけど」
『大したことなくはないだろうが。いつも質問とか疑問とか訊いてこないお前が質問してくるんだ。「大したこと」で片付けられはられないだろうさ』
彼はそう言うと、彼女に発言を促す様に片手を彼女に向けた。その仕草にケイトは観念したかのようにして口を開いた。
「……昔。……うん。……昔のことなんだけどさ」
『お前に、』
いや、
『……お前らにとって、はな』
ケイトの言葉にケンジは修正を入れる様に呟いた。
だが、彼女はただ一瞥するだけで修正することなく言葉を続けた。
「……チーフが私に作ってくれたグローブ」
『ああ、あったな』
あったな、と答えると、ケンジは何を思ったのか、身体を勢いよく起こした。
『まさか、お前……また壊したのか!? お前、あれ作るのに俺がどんだけ苦労したと……まぁ、いいんだが。……よくはないんだけどさ』
そう言うと、ケンジは片手をケイトに差し出してただ、ん、とだけ言った。その彼の動作の理由が分からずに彼女はただ見ていた。彼女の反応を見て、何かが違う、と思ったのかケンジは彼女に確認を取る様に訊いた。
『……ん? ちょっと待て。壊したんじゃないのか?』
「……誰が?」
『お前が』
「……何を?」
『俺が手間暇かけて作った
「……nein。まだ壊れてないよ?」
そう言うと、……ほら、とケンジに確かめさせるようにグローブを手にした両手を机の上に出した。
彼は机の上に出されたグローブを手に取ると、細かいところを観察するように見始めた。
『ほんとか? ……どれどれ~……どこか壊れてないかなぁ、っと』
「……だから、チーフ。……それ、まだ壊れてないって」
ケイトがそう言うと、ケンジは突然怒ったかの口調で言った。
『……あぁ!!?? 壊れても何も言わないお前が壊さねぇはずがねぇだろうが!!!!! それにな!!! お前、これだって、俺がわざわざ壊れやすい様に作ってるんだぞ!!!! 壊れてないわけないだろう!!!!』
「……でも、チーフ。……それ、壊れてないよ?」
『見た感じはな』
ほれ、と言いながらケンジは彼女にグローブを返し、ケイトは彼から渡されたグローブを両手にはめ、見やすい様に目の高さまでグローブをはめた片手を上げた。
そうすると、初めて分かるが、手の甲を守る様にあるはずの手甲と指の関節部に当たる部分のほんのわずかな隙間にはごく僅かな隙間があり、その隙間には鈍い金に近い色をした円柱に近いモノがこれでもかと言う程の量が埋み込めれていた。
「……チーフ。……一つ、訊くんだけど」
『ああ。どうした?』
彼女が見始めたのを察したのか、ケンジはまた先程と同じ作業を別の銃でやり始めた。
「……この間にあるのってなんだっけ?」
『それか? ……それな、バネって言って伸びたり縮んだりするすげぇヤツなんだぜ? 俺が作ってる銃にも使われてるな。こっちのとそっちのは、同じ用途で、弾を弾くのに使ってる。弾く力に一番適してるのがバネのうま味ってわけだな、うんうん』
そう言うと、細かい部品の中から一つ小さな円柱の様なモノを取り出して彼女に見せた。
それを摘まんだり、放す様にしたりする度に伸びたり縮んだりと変化しているのが目に見えた。
『バネってのは結構面白い構造をしててな?片方から力を受けると、もう片方に力を流すって構造になってる。つまり、受けた力をそのまま流すってわけだな』
わかるか?
『つまり、何が言いたいのかって言うと、お前が殴ろうとした力がそのまま相手に当たった拍子に弾かれる……倍になって相手に当たるってわけだが……』
わかるか? と訊いてくる彼の言葉に頷きながら答えた。
「……倍になるの?」
『ああ、倍になるぜ? 俺が使ってる銃器類の類はバネのそう言った特性を生かしながら火薬の力でさらに倍加させて威力を底上げしてるってわけだな』
うんうん、と頷きながら彼はそう答えた。
ケイトは脳内でその言葉を整理しながら、言った。
「……それって、何かの魔法? ……だったりする?」
『いいや?』
強いて言うなら、そうだな。
『……物理かな?』
「……なにそれ?」
『なにそれって言われてもな……。近代技術への道筋を付けた先人たちの知恵の結晶としか、言えねぇかなぁ……?』
「……近代技術?」
疑問に思ってそう訊いてくるケイトにどう説明したものかと、彼は悩むように頭を掻いた。
近代技術とは言っても、それはあくまでもこの世界で言うところの近代ではなく、
そこで近代と言えば、実際のところ、この世界とは大して変わりはない。
……とは言っても、刀剣の類は全く使ってないとは言えないのだが。
刀剣ではなく、あくまでも銃器に込める弾が無くなった時のため、もしくは近接戦闘をしなければならなくなった場合に備えて銃に取り付けるための銃剣と言われるモノがある。
それは、あくまでももしもや万が一と言った状況下での使用を想定しているだけであって常時装備しているわけではない。
であれば、ケンジも使った方が良いのでは? と思われるであろうが、ケンジはケンジで銃は遠距離~中距離専用の武器という考えがあり、近接戦闘には近接用に備えているので別にあろうがなかろうが大したものではないという考えがあるために銃剣の類は全くと言い程作ってはいなかった。
話を戻そう。
近代技術とケンジは言ったが、別の世界の住人であるケイトには全く知らないことであり、彼女の眼には彼は魔法でも使っている様に映っていた。
それもそうだろう。
とある言葉がある。
『高度に発達した科学は魔法と区別がつかない』
この言葉は、とある発明家が定義した法則の一つの言葉だ。
……とは言っても実際はSF作家が定義した法則ではあったが。
その言葉が示す通り、彼女の目に映っているのは魔法と言っても差し支えないほどの高度に発達した科学ではある。いくらそれを使っているのが魔法を一切扱えない『メタノイス』と言っても彼女には全く信じることが出来なかった。
だが、魔法などで体力を回復するなどといった行為はまず見ていないので恐らくはそうなのだろうと思えてはいた。
それでも、魔法使いかなにかだと信じていた。
……そんな風に思われていても、魔法などといった代物は一切合切扱うことが出来ないのでケンジとしてはあまりそう言った扱いをしてほしくはないと思ってはいたが。
そんなことを考えながら、ふと何かを思ったのか整備する手を止めて顔を上げる。
ケイトには彼が何を見ているのか全く分からないが、何かを見ているということだけは分かった。
『あんまり時間なんざ気にしちゃいなかったが……妙に腹が減ったと思ったらもうこんな時間か。たまには休んだりして脳みそ、休ませねぇと』
そう言うと、う~ん、と呟きながら大きく背伸びをした。
『ってなわけで、俺は朝飯食いに上に上がるが……、お前はどうする?』
「……チーフが行くなら私も行くよ?」
『そうかい。んじゃ、とっとと上がろうぜ。』
そう言いながら、彼は立ち上がった。
彼が立ち上がると同時にケイトも立ち上がると、ケンジの後を追うようにして、二人は地下倉庫を後にしたのだった。
そして、それからしばらく経った現在。
ケンジとケイト、それと先程戻ってきたレオナの三人は台所に立っていた。
その理由は簡単で。
『それじゃ、早速で悪いんだが火を付けてもらっていいか、レオナ?』
ケンジの言葉を聞くと、レオナは一瞬ケイトの方を向く様に顔を動かす……ただその顔はフードに隠れていたために見ていたかは分からないが。
「……レオナ、大丈夫。」
彼女のその反応を見てケイトは彼女を宥める様に言った。
その言葉を聞くと、彼女は覚悟を決める様に頷くと……コンロの前へと歩を進めた。その歩き方は処刑台へと進んでいく囚人を思わせるものだった。
レオナのその動きを見ていたケンジは何かを感じたのかケイトの横に身体を動かした。
『一応、訊くんだがよ。』
「……ja。……なに、チーフ?」
『いや、別に大したことじゃないんだが……。ほんとに爆発するのか、ちょいと気になってな』
「……それは見てのお楽しみ。」
『……なんだそりゃ?』
分からないという彼の言葉にケイトはため息を吐くことで返事とした。
二人の前には緊張した面立ちで立っているレオナがいるのだが、彼女は一向に触れようとしなかった。触れて操作すれば何が起きるのか、それを分かっているが故に、恐怖に怯えている様に見えた。
だが、そんな彼女の気持ちを長い間留守にしていたケンジには分かるはずもなく……。
『どうした、レオナ? 別にカチッと捻るだけだろうが。そんなにビビるこたぁないぜ?』
「……ですが、マスター」
恐る恐るといった具合でレオナは振り返りながら答える。
その彼女の顔はフードに隠れて見ることは出来なかったが、きっと怯えているのだろうとケイトは察した。
故に、助け船を出すことにした。
「……レオナ」
「ja。なんですか、ケイト?」
「……もしもの時には私が前に出る。……そしたら後ろに下がって」
ケイトのその言葉を聞くと、レオナは慌てたような声を出した。
「ですが、それだと貴女がっ」
「……ん。……そうだね」
……だけど。
「……ここには、チーフもいるから。……きっとどうにかなる。……だから」
うん、と一瞬言葉を切るとこう言った。
「……信じて」
ケイトのその励ましなのかよく分からない言葉に自信が付いたのか、レオナは怯えながらも身体をコンロへと向かせた。
「であれば」
その言葉。
「私も信じましょう。あとは任せますよ、ケイト。」
「……ja。……任された」
ケイトの返事に覚悟が出来たのか、レオナは数回呼吸をすると。
「いきますっ」
その言葉に合わせてコンロの取っ手が捻られる。
そして、目一杯捻られ、カチッ、カチッ、と何かが何かを叩く音が聞こえて……。
ドォン!!!!!
コンロは爆発した。
『…………………………………………………………………………………………は?』
何が起きたのか全く分からないという様に出されたケンジの言葉と打って変わって、先程の言葉通りにいつの間にかケイトが前に出ており、そのケイトを盾にする様にしてレオナがいた。
「……ってことが起こるんだけど。……なんで起きるのか分かる、チーフ?」
ケイトの質問にケンジは数秒そのまま動くことが出来ずにいた。
そして、服に付いた埃を払う様にパンパンと叩きながらケイトは彼の前まで歩いていき、彼の前に立つと、顔の前で意識を確かめる様に手を上下に動かした。
彼女が上下に動かして数秒、意識が戻ったのか、ケンジは彼女たちに大丈夫だと言う様に言った。
『……ああ、ケイト、もう大丈夫だ』
「……本当?」
『ほんとだ。大丈夫だ、意識は戻ったから』
「……ならいいけど」
『悪いな』
そう言って、改める様にしてケンジは咳払いをした。
『で、だ。……一応、確かめるんだが』
「ja。なんでしょう、マスター?」
『あ~…………………………………………、俺の勘違いとかだったら悪いんだが。……さっき爆発したか?』
「ja。しましたよ」
「……ja。……したね」
爆発したと言う二人の言葉にケンジは理解が追い付かなかった。
『幻とか夢の類じゃなくて、そのまんまの意味の爆発か?』
「ja。そのままの意味の爆発かと」
「……ja。……そのまんまだね」
『それじゃ、今、普通に爆発したんだな?』
ケンジが言う普通がどの様な意味なのか、二人には分からなかったが、二人は頷く。
「ja。普通に爆発しました」
「……ja。……普通に爆発したよ?」
『それじゃ、俺だけが見てる幻覚とかじゃなくて、俺は完全に覚醒した状態で、今起きたことは今現在ここで起きたことで、俺以外のお前ら二人も認識出来てることなんだな?』
しつこいくらいに念押ししてくるケンジの態度に嫌になることなく二人は答える。
「ja。認識できてます。」
「……ja。……出来てると思うよ、チーフ?」
『よぉ~し、分かった分かった。
ふむ、と何かを考える様にケンジは顎の下に手を置いて考え始める。
『つまり……、こいつはどういうことだって話になるんだが……。レオナとケイトは一切仕込みをしちゃいねえ。仕込んでいれば二人がいない内に使ってる俺が爆発に巻き込まれてるってことになるから、それはないとして……、だ。魔力の付与か? ……いや、それもないだろう。確かに魔力の付与であれば説明は付かなくもない。付かなくもなんだが、レオナは「ヒューマン」であって、「エレメンタリオ」じゃねぇ。ケイトだったら納得できなくもないんだがな。ケイトはいちいち殴る以外で魔力付与とか使わねぇしなぁ。う~ん、となると何が原因だぁ、こいつは』
問題の原因が全く思いつかないのかケンジは唸り声を出して考え始める。
その彼から少し離れた場所ではレオナとケイトの二人が静かに見守りながら水が入ったカップを啜っていた。
『……う~ん……、うん? ……ちょっと待てよ? こいつには何が使われてる? そりゃ、魔石……火属性の魔石だ。なんで火属性だ? ……火を点けやすくするため……あん? 火を点けやすくする?』
そう呟くと、天啓が閃いたのかケンジは自分の足を叩いた。
『そうか、分かったぞ!!!! ……そうか、そうか。そういうことか。……そういうことだったか。なんですぐにその可能性が考え付かなかったんだよっ。あ~、くそっ』
理解が出来た様にケンジは一人、そう言い始めるがケンジではないレオナとケイトの二人は全く理解が出来なかったので、飲んでいたカップを台の上に置くと、ケンジの近くの方に寄って行った。
「なにか分かりましたか、マスター?」
「……なにか分かったの、チーフ?」
二人の質問にケンジは二人の方に身体を向かせながら答えた。
『ああ、分かったぞ。……と言っても、お前ら二人が使えるかどうかっていう根本的な問題は解決できんが』
「そうなので?」
「……そうなの?」
『ああ』
二人の質問に彼は頷くとコンロを指差した。
『あれの火付けに魔石が使われてるのは……』
知ってるか? と二人に訊く様にケンジは二人の方に顔を向かせる。
ケンジが何を言いたいのかは理解は出来なかったが、二人はケンジの質問に頷いた。
「知ってます。確か、火属性の……でしたよね?」
「……ja。……よく議論してたの見てたから、……知ってるよ?」
二人の解答が合っているという様にケンジは頷いた。
『そうだ。アレには火属性の魔石が使われてる』
さて、と言いながら一瞬だけ言葉を切った。
『ここで
ケンジの言葉を聞くや否や、二人の目に爛々とした光が宿る。
だが、二人は回答が思い浮かばないのか、悩んた様子だった。
「火を起こすはずなのに爆発した理由ですか……、あの、マスター。一つ、質問してもよろしいでしょうか?」
『はい、レオナさん。なんでしょう?』
レオナの質問にケンジは妙に芝居かかった言い方で応える。
その事は、時折ケンジが芝居がかることはレオナたちにとっては至極当たり前なことなのでそこには特に触れずに改めて訊いた。
「その起きた爆発は、どんなものでも起こりうる現象なのでしょうか?」
レオナの質問にケンジはわざとらしく、一瞬だけ間を開けると唸りながら答えた。
『う~ん……どんなものでも……。……どんなものでもと言いますと、それは難しいと思いますね……』
「難しい……ので?」
『えぇ、難しいと思いますよ?』
「ja。ご回答、感謝いたします、マスター」
『レオナさんは分かったようですが、……ケイトさんの方は如何でしょうか?』
「……nein。……分からない。……ヒントとかあるの、チーフ?」
ケイトの質問を聞くとケンジは妙に芝居かかった動きで唸った。
『……ヒント。……ヒントと申されますと……現状がもう既にヒントなのですが、それでも、と申されますか?』
「……現状? ……それって……今の?」
『……おっと、これ以上はもう答えになってしまうためにこれ以上はお応えすることは出来ませんっ。すみませんね、ケイトさん』
「……ん。……気にしないよ、チーフ」
ケイトの返事を聞いてケンジはパンパンと両手を叩く。
『それでは、答えは出ましたでしょうか!!!!それでは、解答オープン!!!』
ノリノリのケンジに代わってケンジの言葉が理解できなかった二人は交互に顔を見合わせると、ケンジの方を見た。
「あの、マスター。ノリに乗っておられるところ申し上げにくいのですが、その、どうすればよろしいのでしょうか?」
「……チーフ。……私もレオナと同意見だよ?」
二人がどうすればいいのかと訊いてくるのでケンジは咳払いをすると唐突に口調をいつもの調子に戻した。
『……で。……何かわかったか?』
口調が戻ったことに二人はしてはいけないことをしてしまったのか、と交互の顔を見合わせた。
だが、そうしてみても分かることはないわけで……。
二人とも首を横に振ることで応えた。
「nein。一応は考えてはみたのですが、どうも難しく考えてしまって答えが出ませんでした」
「……nein。……分からなかった」
『だろうな。俺も分かったの、さっきだし』
ケンジの言葉に二人は一瞬だけ殺気を宿らせた目でケンジを見た。
『ヒッ!!』
その殺気にケンジは怯んだ。
彼の怯みに二人とも怒りを覚えていたことを自覚し、すぐに殺気を消すと、柔らかな目で見つめた。
「……大丈夫ですか、マスター? どこか痛みます?」
「……大丈夫、チーフ?」
心配そうに訊いてくる二人に内心で怒りに似たモノを感じたケンジだったが、すぐに先に喧嘩を売ったのは俺だ、落ち着けケンジ、と自身を宥めながら、片手を二人に向けた。
『だ、大丈夫だ。……問題ねぇ。』
「そうですか? ですが、あまり無理はいけませんよ、マスター? たまには休まれないと」
「……チーフ。……いくら遊びたいって言っても。……限度があるよ? ……たまには身体を休めせなきゃ」
『……そのうち、な。その内』
内心で「何言ってるんだこいつら?」と思うケンジであったが、声に出すことはなかった。
『それでなんだったか。』
何の話だったかを忘れたケンジは二人に訊く様にそう言った。
すると、すぐにレオナが答えた。
「たしか、コンロがなぜ爆発するのか、という話だったかと思われますが?」
『ああ、そうそう。それそれ。それな。』
そう言うと、身体を二人の方へ向けてコンロの方を指差しながら言った。
『最初に言ったと思うんだが、アレには火付けに火属性の魔石が使われてる。その理由は簡単で……』
「石同士を擦った時に起きる火花の火力を上げて火を点けやすくする……ということで合ってます、マスター?」
ケンジの言葉を引き継ぐ様にレオナはそう答えた。
彼女の対応に拍手を送ってやりたいという心を抑えながらケンジは言葉を続ける。
『そうだ、レオナ。レオナが言った通り、火を点けやすくするために魔石を使ってるわけだが……俺も気が付かなかった問題が起きた』
「……それは?」
先程の流れにならない様に自制しながら言葉を続けるケンジに対し、ケイトは質問をぶつけた。
彼女の意図したかどうか分からない反応にパチン、と彼は指を鳴らした。
『そう。それは「
そう言うと、ケンジはコンロを指していた指を手前に戻し自身を指差した。
『「旅団」のメンバーのほとんんどは「メタノイス」ってのはお前ら二人にはもう分ってることだろうから特には言わないんだが、「メタノイス」とお前ら、「ヒューマン」と「エレメンタリオ」の二種族との分かりやすい違いってなんだ?』
「分かりやすい……違い……ですか?」
レオナは彼の言葉がどう言った意味を含んでの言葉なのかが分からずに訊く様にただ言った。
だが、そんなレオナと違ってただ一人ケイトだけはその答えを言った。
「……魔力」
彼女の言葉が正解だという様に再び指を鳴らした。
『そう、魔力だ。厳密には魔法が使えるか、使えないかってとこなんだが、この際にはどうでもいいことだ。大事なのはケイトの言う通り魔力の有無。これだけだ。』
ケンジが言い終わると、ハッとした様子で……顔は隠れていたがレオナはケンジの方に顔を向けた。
「となると……。つまり……、魔力に反応して……ですか?」
疑問に思ったレオナの言葉に彼は頷く。
『そうなる。……んま、データが少なすぎるんで実際には違うかもしれんが』
「となりますと、私とケイトは使わない方が……」
『いいだろうな。残念ながら』
「そんな……」
ケンジの言葉にレオナは静かに項垂れた。
その背にケイトは同情するように静かに手を置いたのだった。
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