第61話 吉報?


 こちらを向くクリフ。

 その顔は、先程よりも幾分か優しいモノになっていた。


「もしも君が、恨んでいない……なんてを吐こうものなら、少し、辛い待遇を受けてもらう必要があったんだけどね」

「────っ」


 こわい。

 やっぱり前言撤回だ。

 ガイコツフェイスと相まって、めちゃくちゃこわいです。

 誰だよ、ちょっと優しい顔付きだなんて言ったヤツは。

 こちとらまだ7歳だぞ。泣くぞ。ええんか。


 少なくとも、子どもに向かって言う台詞ではないことは確かである。

 

 だが。


(……)

 

 俺は、そう思わざるを得なかった。


『恨まない人などいない』

 クリフの言葉からは、そんな意図がありありと感じられた。

 全く、決めつけも甚だしい──そう言いたいところではあるのだが、実際のところ、否定も出来ないのが厭らしい。


 もし俺が、クリフと同じ立場だったならば。

 間違いなく同じことを、いや、それ以上の非情を以て『目の前の獣人』を対処したことだろう。


 その分、チャンスをくれたクリフは優しいとさえ言える。

 それほどまでに、今の俺は危うい存在立場なのだ。


「よ、よかったですね。メルさま」

「……うん」


 小さな呼び掛けに、俺は振り向きながら肯定した。

 当のエイミは少しだけ声を震わせながら、ほっ、と胸を撫で下ろしている。

 どうやら、俺よりも緊張してしまっていたらしい。

 ちょっとだけ、微笑ましいと思ってしまったのは秘密だ。


 クリフも、その様子を見て微笑を浮かべた。

 そして、視線を俺の後方へと向けて。


「結局、セルカさんの言う通りになりましたね」

「……え?」


 彼の視線の延長線上にいるのは、いつものように腕を組み、目を黙しているセルカだった。


 当の妖精は、その体勢のまま口を開く。


「…………伊達に生きてきた訳では無いからな。人を見る目くらいはある」


「流石ですね。セルカさんって確か、ボクの6倍は生きて──」


「(ギロッッッッ!!!!)」


「「「ヒエッ」」」


 先程のギルマスの威厳はどこへやら。

 失言を禁忌を犯したクリフは、俺たちと同じく、顔を蒼白にさせるのだった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「なるほどね……! これは後3日は寝れないぞぅ!」


 セルカの無言の圧力から解放された俺たちは、再開された質問の嵐に答えまくっていた。


 何を聞かれたかと言うと、聞かれた。



────何故、キリシス語を喋れるのか。

────何故、魔法を使えるのか(セルカがステータス鑑定を持っていたようで、バレたらしい)

 等々。


 隠す必要はない。

 でも、あのダンジョンでみた夢? に関しては言わなかった……というより言えなかった。

 無理に言っても、訝しげな顔をされるだけだろうし。


 だが、それ以外は全部答えた。

 ここは何より誠実さが大事だ。

……誰かに喋っておきたかった、というのもあるのかもしれないけれど。


 と、そんな訳で今に至るのだが。


 クリフは、悟ったような目で天井ソラを仰ぎ見ていた。


「これで、少なくとも15徹は決定事項。……ははへへへひにょん……」

「「「……」」」


 皆が皆、憐れみの視線を彼に送っていた。


……うん。

 ごめんよクリフ。

 貴方の勇姿は忘れるまで忘れない。


 因みに、この状況を作ってしまった原因としては、主に『メルに、魔法や言葉を教えた親は何者なのか』という質問のせいである。


 勿論これにも──『フィーネ、ローゼット、ユーインという冒険者とパーティーを組んでいたらしい』と答えたのだが、何かいけなかったのだろうか。

……いけなかったんだろうな(悟り)


「でも、まぁ、、かな」

「あぁ。あのも、そう考えれば辻褄が合う」


 思考を巡らす俺をよそに、エルフの2人はなにやら頷き合っていた。


……めちゃくちゃ気になる。


「何か、あったの?」


「ん? あぁ、そうだね。

────セルカさん。もう隠さなくても良いですね?」

「あぁ、どの道話すつもりだったのだ。説明の手間も省けた。いま話しても問題ないだろう」

「そうですね」


「……?」


「じゃあ、早速本題に入るけど──メルちゃんは、君と同じ種族の子達がこの街に連れてこられている、という話は聞いているかい?」

「……うん」


 知っている。

 この街に来たばかりの頃、ゼファーから聞いた。

 あの時は記憶が無くて、普通に流してしまったけれど。


「……っ」


 何も出来なかった自分を思い出してしまう。

 悔しくて、、唇を噛んだ。


「……そんなによ。少女が出して良いものではない」

「! ……ごめん、なさい……」


 クリフに指摘され、はっとする。


「いや、良いよ。気持ちは分からないでもない。

……話を戻そうか。その子どもたちが、全員、とあるパーティーにんだ。君が起きる6日前に、ね」


「!」


 もしかして────。


「で、そのパーティーって言うのが──」

「──『』。


 クリフの言葉に継ぐ形で、セルカの声が部屋に反響した。











◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


あとがき


※「フィーネとか、ローゼットとか、ユーインって誰?」


 と思った読者様は、【幼年期 6~8話】を読んでいただければ。

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