第34話 ダンジョン


 ゆっくりと、慎重にダンジョンの中を隊列を組んで進んでいく。


 一番前にリーダーの男。

 その次に刺青男。

 真ん中にメル

 その後ろに地味な男。


 肝心のフードを被ったヤツは一番後ろだ。


 出発前にさりげなく聞いたのだが、『そいつはただの荷物持ちだァ』と流されてしまった。


 だが、こうして後ろを任されているということは強い可能性が高い。


 やはり、ドワーフの線が濃厚だろうか?


 俺は前を向くと、改めてコイツらのステータスを確認する。



 まずはリーダーの男。


ーーーーーーーーーーーーーー

種族:ヒューマン

名前:ゼン

状態:普通


Lv:23

HP:320/322

MP:78/78

SP:256/270


力:275

耐久:232

敏捷:176

器用:177

魔力:43


スキル:キリシス語Lv8 火魔法Lv2 剣術Lv3 体術Lv1 ステータス閲覧Lv3


称号:Eランク冒険者

ーーーーーーーーーーーーーー


……色々ツッコみたいところはあるが、一旦スルーする。


 ステータス鑑定のレベルが4になったことで、スキルや称号が見れるようになった。


 他の2人も見てみるが、リーダーの男(以後ゼン)とほとんど変わらないステータスだった。


 スキルに目立つものも無い。


 問題はフードのヤツだ。


ーーーーーーーーーーーーーー

<鑑定が阻害されました。Lv4では閲覧出来ない情報です>

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 どうやら、一筋縄ではいかないようだった。


 原因として考えられるのは、『魔力が高い』ということ。あるいは『鑑定妨害(仮)』を持っているか、のどちらかである。


 何故、魔力が高いと鑑定が出来ないことが分かったのかと言うと、受付嬢を失礼ながらもこっそりと鑑定させて貰ったときに、エルフの人には鑑定が効かなかったのだ。

 

 MPが高いから、という可能性も無きにしもあらずだが、まあ同じような物だろう。


 というより知ってはいたが、男3人が弱過ぎるような気がする。


 俺よりもだいたい100くらい低いのだ。


 まぁ、ここはゴブリンしか出ないから大丈夫だろうが。


 ちなみに、この直前にセルカに追加の地獄の講習を受けて分かったことだが、魔物のランクと冒険者のランクは、大体同じようになっているらしい。


 簡単に説明すると、


G 1~100

F 75~200

E 150~300

D 250~425

C 375~625

B 550~900

A 700~1150

S 1100~1600

SS(未確認)1601~


 という具合だ。


 数字はそのランクの魔物のステータスの平均を表している。


 もちろん、スキルが厄介な魔物や、ステータスが一点特化した魔物などはこの数字に関わらず、ランクが上がっているらしい。


 冒険者はこのランクで判断して魔物を討伐する。


 しかし、冒険者のランクはギルドへの貢献度で上がっていくため、Cランク冒険者だったとしてもBランクの実力を持っている人も希にいるようだ。


 ランクが上がる際には昇級試験というものがあるため、BランクなのにC、ということは無いようだが。


 ゼンはEランク冒険者のため、Gランクのゴブリンは余裕だろう。


「出たぞ! ゴブリンだ!」

「!」


 噂をすればなんとやら。

 お出ましのようだ。


 目を向けると、ゴブリンが5体迫ってきていた。


 俺より少し小さいかというくらいの体躯。

 がさつき、汚れた緑の肌。

 手に棍棒を持っているその姿はまさしく、俺が知っているゴブリンそのままだった。


 想像通りの姿に、少し興奮ワクワクしてしまう。


 しかし、今日はパーティーに入れて貰うだけとなっている。

 そのため、俺は魔物も狩ることができない。

 セルカとの約束もあるしな。


 刺青の男(以後アントン)は「ガk……子どもは下がってろ!」と言ってゴブリンの前に立ちはだかった。


 地味な男(以後フール)は、


「あ、兄貴たち! 応援してるッス!」


 と、俺の後ろに隠れながら応援を始めたが、「アホか! テメェも手伝え!」と言われて「ヒエェーーッ!」と言いながら前に出ていった。

 なんか面白い。


 3人はゴブリンの前に立ち、それぞれの得物武器を構える。


 最初に動いたのはアントンであった。


「ふんっ!」


 真っ先にゴブリンに近づいたアントンは腕に力を籠め、剣を斜めに振り下ろす。


 肉が断ち切れる音。

 先頭のゴブリンを真っ二つに切断したのだ。


『ピギッ!?……カ……』


 切られたゴブリンは、間抜けな声を出して崩れ落ちていく。


 この一瞬の間に仲間を殺されたゴブリンは、硬直ののち、慌てふためき始めた。


 そして、その隙を狙ったフールの剣が1体のゴブリンの脳天をカチ割る。

 頭から割かれたゴブリンは、その体から『バキッ』と音を立てると、体が灰になって消えていった。

 魔石が砕けたのだろう。


 残るは3体。


 状況に気づいたゴブリンはやっと逃げ始めるが──、


「どこに逃げるつもりだよォ? 雑魚が」


 その先にはゼンがいた。

 ゼンは待ってましたと言わんばかりに身の丈ほどある大剣を横に思いっきり薙ぐ。

 同時に、3体のゴブリンの体から首が飛んだ。


 戦闘終了である。


「ふぅ、楽勝だったなァ」


 勝ち誇るゼンを横目に、俺はゴブリンの死体に目を向ける。

 滅茶苦茶グロいが、これといって心に来るものは無かった。


 と、いうのも。

 魔物に対して、のだ。例えるなら、無機物を壊しているような感覚に近い。


 なんか言ってることサイコっぽいけど、勘違いはしないでほしい。セルカに聞いたが『そういう風になっている』らしいのだ。


 簡単に言うと、

 『魔物を殺す』のと、

 『人を殺す』とでは、全くの別物ということだ。


 まぁ、殺しへの恐怖が無くなってしまえば街中で殺人が大量に起きそうではあるし、これが自然のように思われる。


「おい、ゴブリンの魔石を引き抜いとけェ」


 ゼンがフードのヤツに指示をする。

 当のドワーフ(仮)はコクりと頷いて、ゴブリンの死体に近づき、それを漁っていた。


「…………」


……フードのヤツの、このパーティーでの立ち位置が未だに掴めないのが不安要素だ。

 本当に荷物持ちなのか?

 ここまで全てが演技ブラフという可能性もある。

 とにかく、気を付けるに越したことは無いだろう。


「どうだった、ガキ。かっこ良かっただろォ?」


 そんな俺の不安なんぞ知ったことかと、自慢気なゼンがドヤ顔で言ってきた。


 正直ウザい。

 前世で言うところの、小学生の目の前でPCゲームの最弱AIエーアイをボコって自慢している中学生にしか見えない(ド偏見)。


 俺は出かかっていた、「ゴブリンが弱すぎるだけだけど」という言葉を飲み込んだ。


「うん。かっこ良かった」


 まぁ、他人の戦闘を見るのは初めてだったし、少しだけかっこよく感じたのは事実だ。


「オ、オレは? どうだった? 頭からズバッと! かっこ良かっただろ!」


 調子に乗ったフールが聞いてくる。


「アホかお前。テメェが魔石割らなかったら今日の報酬は500サリス余計に入ってたんだろうが」


 アントンに言われてフールはしょぼんと俯く。


 そうこうしている内に、フードのヤツが魔石を取り終わったようで、こちらに近づいてきた。


 ゼンはそれを見て言う。


「よし、じゃあ出発するかァ」


 その言葉に、アントンとフール、そしてフードのヤツが頷く。


 え、これ以上潜るの?(※ダンジョンに潜るとよく言う)とも思ったが、まぁ、ゴブリンだけだし大丈夫だろう。



 そう思った俺は、特に疑いもせずゼン達の後をついていった。


 ゼンの口端が吊り上がっていることにも気付かぬまま……

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