第33話 不穏な空気


「おい、準備出来たかァ?」


「うん。出来た」


 俺の腰には剣が、胸には革の防具が装備されていた。

 目の前にいるのは3人の男。


 そう、『夜狼の爪』のメンバーである。


 1人は大剣を持っており、他の2人は一般的なロングソードを装備していた。


 そして、その3人の横にもう1人、フードを来た人物がいた。

 例のヤツだ。

 ゼファーの言っていたとおり身長は俺と同じくらい、いや、少し小さいか。顔はフードで隠れてよく見えなかった。


 正直、コイツがいるとは思っていなかった。

 確信が無いとはいえ、このフード被ったヤツは重要人物なのだ。それを初対面の俺に見せるなんて警戒心が無いにもほどがある。


 いや、わざとか?

 でもなんのために?


 少し考えたが保留することにした。夜になれば全部分かることである。



「よし、じゃあ魔物狩りに出かけるかァ」


 大剣を背負ったリーダーの男の後に続いて、俺たちは街を出発していった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 昨日、メルは『夜狼の爪』に接触を図っていた。


『あぁ? なんだぁ、ガキがなんか用かァ?』


 メルが近づくと、リーダーの男が威圧するように言い放つ。かなり酔っているようで強烈な酒臭さがメルを襲った。

 メルはそれに動じない。


『私を1日だけパーティーに入れてほしい』


 メルがそう言うと、隣の刺青をした男が反応する。


『その黒目黒髪。もしかして『熊の蜜嘗め亭』に新しく入ってきたってウワサのメリナってガキ……子どもか?』


『ん。もし入れてくれたら私の奢りでそこで食べても良い』


 それにもう1人の男が食いつく。


『お、マジかよ!? あそこクッソ高ぇから食ったことねぇんだよ。良いよな、兄貴?』


 リーダーの男は少し考えた後、


『あぁ、調度良い頃合いだしなァ。良いぜェ? 集合は明日の10時の噴水前ってことでェ』


「分かった」



 こうして、メルは3人と別れた。

 これ以上なく予定通りに話が進んでいると、メルは小さくガッツポーズを作った。


 ただ。

 1つ誤算があったとすれば、リーダーの男がということだろう。



 事態は、メルの預かり知らないところで、最悪の方へと進んでいた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「そうだなァ、今日は黒浪こくろうの洞窟にでも行くかァ?」


 いきなり、リーダーの男がそんなことを言い始めたのは外へ出てすぐのことだった。


「良いと思うぜ」

「俺も賛成だ、アニキ」


 仲間の2人はその言葉に賛成する。

 フードのヤツも頷いた。



──黒浪の洞窟。

 

 セルカの講習で少しカジっていたので知っている。洞窟と呼ばれているものの、しかしその実、正体はであるらしい。

 

 

 ダンジョン。

 別名、魔物の母マザー


 その名の通り、中では日夜魔物が産み出され、外へと放たれている。


 ダンジョンは1つだけではなく、階層がいくつもあるものもある。深くなればなるほど、産まれるモンスターは強くなっていくらしい。

 

 ダンジョンもであるが、いくら内部を傷つけてもすぐに再生してしまい、外傷による活動の停止は不可能。

 ただ、そんなダンジョンであるが魔物と同じように魔石があり、それを破壊するとダンジョンも消滅する、らしい。


 分からない人は、『ダンジョンやべぇよダンジョン』と思ってくれれば良いだろう。


 発見されたダンジョンにはランク付けがされており、この黒浪の洞窟は最底辺のEである。

 しかし、この黒浪の洞窟は不気味であった。


 魔物も産まれる、傷つけられてもすぐに再生する、というダンジョンの性質を持っているにも関わらず、、という奇妙な特徴があった。


 だが、産まれるモンスターはゴブリンだけ、階層は一階層のみ、という何とも拍子抜けなダンジョンである。


 まあ、入ってもなんの問題もないだろう。


 俺もリーダーの男の言葉に反対することはしなかった。

「いいよ」と素直に頷く。


 黒浪の洞窟は白亜の森の奥にある。白亜の森も出る魔物はほとんどゴブリンなのでなんなく進めた。


 30分もしない内に俺たちは洞窟の入り口に到着する。



 中を覗き込むと、真っ暗ではなくほんのりと明るくなっているのが分かった。ダンジョン内に自生するヒカリダケやヒカリゴケのおかげだ。


 セルカから聞いたときは、ホントにそんなので明るくなるのかと思っていたのだが、杞憂だったようだ。

 奥まで見通せるほどに視界は確保されている。


「よし、行くぞ」


 急に声色がマジになった気がするリーダーの男の後を、俺達はついていった。

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