第26話 冒険者登録が簡単じゃなかった件


 あの後、俺たちは再び冒険者ギルドを訪れていた。 

 今度こそ冒険者登録をするためだ。


 道中でのゼファーの話のよると、冒険者になるためには色々と段階を踏まなければいけないらしい。

 冒険者もちゃんとした職業なんだなぁと思った瞬間である。


「こんにちは! 冒険者ギルドへようこそ!」


 受付のお姉さんは相変わらずニッコニコで他の冒険者と話していた。


 受付嬢は朝の時よりも増えていて20人くらい。そして当たり前のように全員が美人である。

 それぞれのところに大きな列が出来ていた。


 男女の割合は男性7、女性が3くらいか。女性の冒険者も結構いるんだな。


 と思っていると、俺は一番左端の受付嬢のところには、あまり人が並んでいないことに気付いた。他に比べて異様に人が少ないのが気になるが……


「ゼファー、あそこ空いてる。あそこ行こう?」


 因みに、ゼファーと呼び捨てにしているのは本人からの要望のためである。いや、要望っていうか呼び捨てで良いって言われただけなんだけどね。


 当のゼファーは、俺の提案に首を横に振った。


「いや、あそこは新人養育ための場所だから時間もかかる。列が長くても他の方が結果的には早くなるだろう」


 なるほど。

 前世でいうところのレジ打ちみたいな感じか。


「そうだな……あそこのエルフのところにしようか。一応知り合いだしな」


 と、いうわけで俺たちはそのエルフのところに並ぶことになった。

 ゼファーの言った通り、その列はどんどん進んでいった。

 一見若く見えるが、やはりエルフなだけあって熟練ベテランのようである。


 なんと、10分もしないうちに俺たちの番になった。

 あれだけの人がいたのだが、流石としか言いようがない。


 当のエルフは俺たちを視認すると、(営業)スマイルを止めて少しだけ厳しい表情になった。


……あれ、どうしたんだ?


「ゼファーか、久し振りだな。ようこそギルドへ。本日はどんな用件だ? その少女を誘拐している途中であるならば今すぐ通報するが」


 どうやら、メルが誘拐されていると思われているらしい。


 しっかし、綺麗な人だな。

 背も170cmはあり、髪は流麗な瑠璃色をしている。体型は……うん、例にたがわずと言ったところだけど。


「ち、違いますから! まあ、その来た理由ってのもこのお嬢ちゃんについてのことなんですが……」

「ほう」

「実は──」


 ゼファーは顛末を話し始めた。最近彼に頼りっぱなしな気がするが、まぁ、今は任せておくべきだろう。

 それにしても……


「──と言うわけでして、──なんですよ」


 ゼファーが敬語を使って説明している。

 知り合いと言っていたが、一体どんな関係なんだろうか。

 いや、気にはなるのだが、あまり踏み込むべきではないだろう。カウンターを食らって自分のことを聞かれればちゃんと答えられる自信ないし。


「ほう、なるほど?」


 エルフの人も結構砕けた(?)口調だ。今までの人には(営業)スマイルよろしく、敬語よろしくしていたので綺麗なお姉さんという感じだったのだが、素はこっちのようである。

 字面だけ見ればかなり高圧的だが、やはりそこはエルフ。しっかり絵になっている。


 エルフは皆こんな感じなのかとも思ったが、どうやらそうでもないらしい。

 回りを見ると、普通に優しそうなエルフもいる。いや、営業(以下略)と言われればそれで終わりなのだが。


 結論、職場って恐ろしい。


 と、そんなことを思っているうちに説明が終わったようである。


 エルフさんが口を開く。


「──つまりはゼファー、貴様はこんな少女を冒険者にさせようとした……と?」


「え」


 く、雲行きが怪しい。

 ゼファーは一体何を言ったんだ……


 て言うか怖っ、エルフ怖っ!

 めっちゃ表情怖いんですけど……!


 美人は何をしても様になるとは云うが、これは別種だ。

 様になるというよりは『鎌』になっている。言うまでもなく、死を刈り取るほうのヤツだ。


「セルカさん、からかうのは止めて下さいよ。嬢ちゃんも怖がってますから……」


 え、これからかってるの?

 今にもゼファーが殺されそうな勢いだったんですけど。


「ふっ、すまない。謝罪しよう。長耳冗談エルフジョークと云うヤツだ」

「「…………」」


 いや、ふっ(ドヤ顔)、じゃねぇよ、めっちゃ怖かったんだけど!


 何がエルフジョークだ。

 グロテスクジャック死の一撃の間違いでしょ。


 しかしエルフの受付嬢ことセルカは、そんなことはもう気にしていないという風に話し始めた。


「ところで、名前はなんと言うんだ?」

「「あ」」


 不意のその質問に、ゼファーと俺は見事にハモった。

……そういえば、名前言ってなかったわ。


 それをセルカは察したらしく、溜め息をつく。


「名前も知らないでおいてよく今まで来たな……まぁ良いが。で、そこのヒューマンの少女……名前は?」


「……メル、です」


 ちょっと心配だったが、嘘を吐く必要は無いだろう。

 この世界にはステータス鑑定があるみたいだし、偽名を使ったことがバレてしまっては元も子もない。寧ろ色々とめんどくさいことになりそうだ。


「良い名前だな────そうか、メルちゃんっていうのか…………」

「……?」


 言葉の最後に、そうボソッと呟いたゼファー。


 あ、あれだ。

 似てるというのは、昔いたという娘さんの名前のことだろう。


 メリルとメル。確かに似ている。

 そう考えると、なにか居たたまれない気持ちになってくるが、そこは自分の名前なのでしょうがない。


「メル……だな。よし、こちらでカードは作っておこう。明日にはできている筈だ」

「ありがとうございます」


 礼を言うと、セルカは少し複雑そうな表情をした。


「……あぁ。言い忘れていたが、敬語は要らん。成人もしてない子どもに敬語を使われるのは、どうにもむず痒い」


……そういうもんなのか?

 ま、まぁ、そういうことなら……。


「わ、分かった。カード、ありがとう」


 俺が礼を言うと、セルカは頷く。


「これも仕事だからな。礼ならゼファーに言ってやれ」


……確かに。

 ここまで来れたのは全て彼のお陰なのだ。

 俺はゼファーに向き直った。


「ありがとう、ゼファー」


「良いってことよ。これからも頼ってくれて良いからな!」


 大音量の声がギルド中に響いた。周囲の目線が一気にこちらを射ぬく。


「……五月蝿うるさいぞゼファー、気持ちは分からんでもないが、少し黙れ。……そうだ、メル。まだ時間はあるだろう? 今から簡単な講習を受けていくこともできるが、お前はどうする? もちろんこれはギルドの支援だ。お金は取らない」


「え、講習があるの?」


 俺がそう聞くと、セルカは不思議そうな顔をした。


「当たり前だろう。ギルドは冒険者を支援し、冒険者はギルドに魔石や素材を持ってくるという相互関係で成り立っている。無知で死なれては目覚めが悪いし、ギルドにも損失が出る。だから冒険者には最低限の知識はつけてもらうことになっている。そしてそれはメル、お前も例外ではない」


 と、いうことらしい。ゼファーの言っていた段階ってこれのことか。


 冒険者になるには、どの道受けなければならない。だったら、早めに受けておいたほうが良いだろう。


 よし、やるか。


「じゃあ、お願い」


 セルカは頷いた。


「よし、では私は交代してくる。お前はあそこの椅子で少し待っておけ」


……ん?

 なんで交代するんだ?

 講師みたいな人がいるんじゃないの?


  ハッ!?


 そこで、俺の思考は最悪の結論に行き着いた。


 も、もしかして……


 俺の思考を読んだかのように、セルカは俺に向かって言った。


「私が直々に教えるんだ。マスターするまで開放されないと思え」


 あ、これオワタ丸水産。

 

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