第25話 理想+現実=カオス
現在俺は、街の中を進んでいた。
向かう先はもちろん、冒険者ギルドである。
「……本当に大丈夫か? まだまだ時間は沢山あるし、もっと考えて良いんだぞ? 冒険者で稼ぐのはもう少し経ってからでも遅くはないからな?」
そう俺の隣で言うのは、先程からずっと親切に接してくれているゼファーだ。今はギルドまでの案内をしてくれている。
いつもの例に漏れず、この言葉も純度100%の善意で出来ている……のだが──、
「……大丈夫」
「そ、そうか」
一方で、俺の内心は複雑だった。
別に不満があると言うわけではない。寧ろ、ゼファーが優しすぎるが故の
あんなことがあった手前、「あの提案したのはゼファーじゃん」と言いたいところではあったのだが、彼の気持ちも痛いほど分かってしまうのである。
というのも、あの選択は本来、
下手をすれば今後の人生全てに関わってくるような、そんな重大なヤツである。
剛毅果断と言えば聞こえは良いが、悪く言えば見切り発車だ。
ましてや、今の俺は7歳ほどの女の子。間違いなく後者だと思われているだろう。
冒険者云々を提案したのがゼファー自身だったとは言え、こんなに即決してしまうとは思ってなかっただろうしな。事実、「え、もう決めたの?」的な顔をされたし……。
けれど、もう俺は考えを変えるつもりはない。というより、一度決めたことだ。ここで変えてしまうと
思想は現在『ビバ、冒険者!』だ。
「冒険者になるなら、早めになった方が良い」
「まあ、そりゃそうなんだがよ……」
俺の主張に、ゼファーは不承不承に頷いた。
だがやはり心配なのだろう。顔が全力で物語っている。
「それに、1000サリスも返さなくちゃいけない」
そう、このこともある。
俺は今、ゼファーに借金している状態なのだ。良い人なのは分かっているが、借金は早めに無くしておきたい。
だが、ゼファーは
「いや、それは良いんだよ。
ナニっ!?
「それに、薬草集めは危険が少ない分、報酬も討伐に比べて安いし下のやつらは結構この依頼を受けるから競争も激しい。食っていくのが精一杯になるだろう。俺への借金のせいで生活に困るなんて本末転倒だ。だから、返さなくて良い」
ダメだこの聖人、早くなんとかしないと……。
ま、まぁ、返せるだけ集まったら返す。こういうことにしておこう。
それに、ホーンラビット程度の魔物なら狩れる。それなら、そんなに困ることもない筈だ。
「っと、着いたな。ここが冒険者ギルドだ」
「!」
ゼファーが立ち止まる。その視線の先には一際大きい建物があった。
入り口は馬車でも入れるほどに広い。階数は窓から考えて2階しか無いみたいだが、その窓がエゲツないくらいに大きい。少なくとも4mはある。
冒険者ギルドと聞くと野蛮なイメージがあったが、そんなことはなかった。寧ろ、辺りの建物よりも綺麗である。
「大きい……」
俺の感嘆に、ゼファーが答える。
「ああ。冒険者は山ほどいるからな。今はまだ
これだけの広さがあっても混むのか。結構人数多いんだな。
「さ、入るか。嬢ちゃん」
「うん」
そう言って、俺とゼファーはギルドの中へと足を進めた。
「おはようございます、冒険者ギルドへようこそ!」
まず目に入ってきたのは、受付嬢らしき女性達である。
「……わーお」
スゴかった(小並感)。
何がスゴいって、その全員が美人さんだということだ。そこはイメージ通り、受付嬢は良くも悪くも綺麗な人にしかなれない職業なんだろう。
「……」
一応探してはみたが、獣人はいなかった。
んー、奴隷という単語を聞いた時点で想像はしていたが、やはり獣人の立場はこの世界では低いのだろうか。
得られた情報は少ないが、ひとまずはこれで良しとしよ……!?
その時、視界の端に『それ』が映った。
思わず2度見してしまう。
「……やっぱり」
見間違えじゃなかった。
時が止まる。
『異世界で』
『美人で』
『耳が長い』
この要素を持つ人種を、俺は1つしか知らない。
もしかしなくともこれは……!
「あ、あそこの、耳が長い人って……」
確認のため、
「ん? 嬢ちゃんは見るのは初めてか? ああ云う耳が長い人種は
え、エ、
街で全く出会わなかったから、もういないのかと思ってたが……!
ずっと夢見てたあのエルフ!
ナニとは言わないが、あの、ボン、キュッ、ボンなあの………。
その時。
「──あ」
それは、俺の視界に
そして、俺は気付いた。
──否、気付いてしまった。
「……うそ」
ナニとは言わないが、
キュッ、
キュッ、
キュッ、
で、あることに。
俺は堪らず膝をつく。
「じょ、嬢ちゃんどうした!?」
ゼファーが何か言っているが、耳に入ってこない。
クソッ、こんなところに孔明の罠が! 耳に目をとられて気付かなかった!
そうだ、何故思い至らなかった。
エルフの『アレ』については、
確率は50%
俺はそれに、負けたのだ。
そう思った途端、俺の意識はブラックアウトした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「──はっ!?」
目が覚めると、俺は噴水の腰掛けにいた。
お、俺は今まで何を……?
まるで、何かに取り憑かれてたみたいだ。
ガバッと、俺は寝かされていたらしい体を起こす。
「うおっ……!?」
「ん?」
なにやら声がしたのでそちらを振り向くと、ゼファーが驚いていた。
「ゼファーさん、どうしたの?」
「お、起きたか、嬢ちゃん。い、いやすまん、いきなり飛び起きるもんだから驚いたんだ」
あぁ、そういうことね。
「どうやら、疲れが溜まってたみたいだな。なら、これを食べると良い。バトルボアの串焼きだ」
そう言って、隣にいたゼファーがバトルボアの串焼きなるものを俺に渡してきた。
「あ、ありがとう」
それにしても、そうか……。
俺は
気を取り直して、俺は意識をそれに向けた。
バトルボアには良い思い出が無いが、食べないわけにもいかないので、串焼を口に運ぶ。
「……おいひい」
なにこれすごい。
あの嫌な臭みも無くなっており、調味料でちゃんと味付けされている。そして噛んだ瞬間に飛び出す肉汁。噛むほどに美味しさが増していくそれは正に絶品(小並感)。
あっという間に食べてしまった。
「はっはっは! そんなに美味しいか? なら、わざわざ買いに行った甲斐があるってもんだな」
「──あ」
借金増エタ。
すると、そんな俺の心情を読んだかのようにゼファーが口を開く。
「あぁ、金のことなら気にしなくて良い。たかが300サリスだ」
……ずっと思ってたけど、何でこんなに優しくしてくれるんだろうか。ここまで来ると何が理由があるのではないかと疑ってしまう。
俺は意を決して聞くことにした。
「何でこんなに優しくしてくれるの?」
すると、ゼファーの顔つきが急に神妙になる。もともと強面だったのが、余計に怖くなった。
「……聞いてくれるか、嬢ちゃん」
え、なんか話し出したんですけど。いやまあ聞くけど。
「実は、俺には嬢ちゃんと変わらないくらいの年のメリルって娘がいたんだが、2年前に妻もろとも
「 」
え……?
獣人に……殺された?
「さあ、辛気臭い話は終わりだ! 忘れてくれ!」
無茶言うな。
俺にクリティカルヒット過ぎるんですが!?
しかし、何となく分かった。
俺が思ったよりずっと、ヒューマンと獣人の溝は深いようだ。
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