少年期 ジガート編
第24話 悔いがないように
ジガートに近づいていくと、人が並んでいるのが分かった。
「……わーお」
結構な列だった。朝早くだと言うのに行列は500人を越えている。見ると、冒険者らしき人や
「らっしゃいらっしゃい! ホーンラビットの串焼きはどうだい!」
「!」
……なん、だと。
それだけではない、祭りなどでよく見掛けたような屋台がずらぁっと並んでいたのだ。くじ引きなどはなく食べ物とか水しか売ってないが、美味しそうな匂いがこちらまで届いてくる。飯テロだろこれ。
お金を持ってなくて買えない自分にはキツい試練だ。なんで持ってないんだ、
「うーん、仕方ない」
俺は我慢して列の最後尾にならんだ。
「……」
それにしても、本当にバレないかどうか心配だな。もう一度ステータスを確認しておくか。
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種族:ヒューマン
名前:メル
状態:疲労(小)
Lv:15
HP:412/413
MP:371/452
SP:321/431
力:360
耐久:312
敏捷:521
器用:407
魔力:396
スキル:ステータス鑑定Lv3 キリシス語Lv10 シャンパーユ語Lv10 回復魔法Lv8 風魔法Lv10 土魔法Lv9 火魔法Lv4 水魔法Lv4 剣術Lv2 体術Lv2 ド根性Lv- 獣化Lv- 異次元収納Lv-
称号:転生者
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「よし」
ちゃんと種族がヒューマンになっているので大丈夫だろう、多分。
ちなみに、スキル欄にある『獣化』というのは『人化』から変化したものである。ラクーンの時は『人化』、ヒューマンの時は『獣化』という風に変わるのだ。
「ラクーンってタヌキじゃなくてアライグマじゃなかったっけ? なんで化けれんの?」というツッコミはここ1週間でしまくったのでもうしない。
そもそも、なぜこんなに人の姿に拘るのかというと、本能、というのだろうか、獣人の姿で人間と会うのは
まぁ自分はつい最近まで人間だったので人に化けれるのなら化けておきたい、という節もあるのだが。
ステータス鑑定で調べて見たが、称号にある『転生者』と同様、人化も他者からの鑑定では見えないらしい。まあ、見えたら意味無いしね。
異次元収納に関してはそのままだった。異次元に物を仕舞うことが出来る……というものらしい。
一見チートっぽいスキルでわくわくしたのだが、ビルドボアだけで容量のほとんどを持っていかれているようなので、容量はそこまで多くないようである。
その肝心の容量に関しては、恐らくだが魔力に依存してるっぽい。レベルが上がったときにちょっとだけ空きが増えた(ような気がする)のだ。
一応、この中に入れておくと時間による劣化は無いようだった。
「ふぅ」
さて、スキルの
「……全然動かないんだけど」
どうしたものか、全くと言って良いほど列が進んでいない。
もしかして、門衛寝てるんじゃないのかこれ。
などと心のなかで愚痴っていると、突然、後ろに並んでいた人から声を掛けられた。
「どうした嬢ちゃん、こんなところに1人で。親はどこにいる? ここら辺は色々と危なっかしいから1人でいると危ないぞ」
振り向くと、そこには
一番目を引くスキンヘッドに、服越しからでも分かる
そして何より、背がデカイ。ゴツい筋肉とスキンヘッドも相まって威圧感がパない。
よく話しかけられたな、俺以外の女の子だったら泣いてるぞ、くらいには威圧感がある。
だがそれでも、善意で話してくれているっぽい、というのは分かった。
「……」
しかし、どう答えるべきだ?
正直に「俺は転生者です!」なんて言おうものなら、変なやつ認定されてそれで
ここは一芝居打つが吉か。
「……パパとママは、来る途中に死んじゃった。おっきい魔物に教われて……ぐすっ……ぇ?」
あ、あれ……涙なんて流すつもりはなかったのだが、勝手に流れ始めてしまった。
そう言えば、
「あ、いやいやいや! すまなかった嬢ちゃん!」
そんな俺の様子を見て、男が謝る。やっぱり良い人だな、この人。
「ぐすっ……ううん、大丈夫」
袖で涙を拭いながら言う。
ひとまずは、信じてくれたらしい。
「な、なあ、嬢ちゃん。要らないお世話かも知れないんだが、お金、持ってるか? ここを通るには1000サリス必要なんだが」
「え」
どうしよう、持ってない。そもそも1000サリスがどんな価値なのかも知らない。というかサリスって何? お金の単位だと思って良いのか?
男は「やっぱりな」と、しゃがんでこちらに目線の高さを合わせつつ、口を開く。
「その様子じゃ、持ってないみたいだな」
「う、うん」
「それなら俺が払ってやろう。これでも顔が利いててな、ツテもある。本来なら他人が払うのは禁止されてるんだが、俺から事情を説明すれば大丈夫な筈だ」
「えっ、ホントに?」
……流石に優しすぎるような気がする。一瞬脳死で受けようかとも思ってしまったが、もしかしなくても俺、騙されてるんじゃないか?
いや、もしそうだとしてもここを通るにはこの提案を受けるしかないんだけど……
「……お願いします。ありがとう」
「お、おう……礼儀正しいな、嬢ちゃんは」
「……?」
頭を下げた俺に、男はちょっと引いていた。
え、なんで引かれたんだ?
そんな俺を見て、男は(髪のない)頭を掻いた。
「ただ……感謝して貰えるのは嬉しいんだが、嬢ちゃんは人を疑うことをまず念頭においた方が良いぞ?」
あ、そゆことね。「大丈夫ですよマッチョマンさん、ちゃんと疑ってましたから」とは口には出さないが。
「ここら辺はあまり見ないが、奴隷商のヤツらがわんさかいるところもあるんだ。国営の奴隷商はヒューマンには手を出さないが、もちろんそうじゃないヤツらもいる。これからは気を付けた方が良い。……俺も、疑われると思って、金だけ置いて最後尾に戻ろうと思ってたんだがな……」
……なんだこの聖人は。人は見掛けに依らないとは言うが、まさかこれほどとは。
映画のジャ○アン理論なんて
それにしても、この話の通りなら獣人は合法で奴隷に出来るってことだ……なかなかにエグい。やはり人化して正解だったな。
だが俺も安心出来ないぞ、これは………。
無いとは思うが、気を抜いて人化が解けてしまったりしたら洒落にならないしな。
「………分かった、ありがとう」
言葉とは裏腹に不安が降り積もっていくが、一応頷いておく。
男は「ああ、それが良い」と言った後、更に話を続けた。
「それでこれは提案なんだが」
「……?」
「俺は、お嬢ちゃんは冒険者になることを勧める。ギルドなら曲がりなりにも身分は証明してくれるから奴隷商に狙われずに済む。毎日薬草採りとかの安全なクエストこなすだけでも食ってはいけるしな。……孤児院という選択肢もあるにはあるが、お勧めは出来ん。あそこは金が無いからな。まず、受け入れてくれるかどうかも分からん。まあ、決めるのは嬢ちゃんだが」
相変わらず親切である。申し訳無いけどロリコン疑惑が浮上してくるレベルだ。
というか、この2つしか選択肢が無いのか……いや、それもそうか。こんな7歳にもなってない子供を雇ってくれる人なんてそれこそロリコンだろう(個人の意見)。
「うーん……」
俺のなかではもう冒険者と決まっているのだが、7歳にもなってない女子がやる気満々で冒険者になるとか即答したらオカシイと思ったので、一度迷う振りをした。
「……決めるのは嬢ちゃんだからな、悔いの無いようにすると良い」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それから2時間が経ったところで、ようやく順番が来た。あと1組で俺たちの番である。
いや、めっちゃ疲れた……。
体力的には動いて無いためあまり疲れてはいないのだが、精神的に滅茶苦茶キツかったのだ。正直に言おう、飯テロのせいである。あれはダメだろ、犯罪的だ。
門衛も3人いるし、500人くらいなんだから1時間も要らないと思っていたけど、当の門衛がクソ丁寧に調べているお陰でその倍かかってしまった。
いつもこんな調子で間に合うのかとも思っていたが、どうやらそうでも無いらしい。
どうにも
新種の獣人、ねぇ……。
「……っ!?」
その時、頭に痛みが走った。
内側からジンジン来るような、鈍い痛みだ。
何か違和感がある。
「……もう順番だぞ。嬢ちゃんのことは俺が説明しても良いな?」
「え? あ、うん」
ゼファーが話しかけて来たので意識をそちらに向ける。まぁ、この違和感も気のせいだろう。
因みにゼファーというのは、スキンヘッドの聖人さんのことである。話している内に結構仲良くなったと思う。
ゼファーは胸から何やらカードを取りだして、門衛に見せた。
「ゼファーさんですね………え、Bランク冒険者!? もしかして、あの『鉄拳』様ですか………!?」
門衛の1人が声をあげる。すると並んでいた人達からも、
「え? 鉄拳って、あの鉄拳?」
「マジ?」
「すっげぇ、サインもらいたい!」
「キャー! ステキー! 結婚して私を養って~!」
「あの隣の女の子とはどんな関係だ?」
「え? もしかして子供?」
「イヤァァァァ!?」
などの声が聞こえてきた。
モッテモテじゃん、ゼファー。
それにしても『鉄拳』って二つ名か!? しかも、Bランク冒険者、ということらしい。皆からの反応から察するに(多分)スゴいんだなこの人。
Bがどんな立ち位置かは分からないけど、AかSが最高ランクだとすると結構な上級冒険者なのだろう。
「おじさんってスゴい人だったんだね」
「おじっ!?……俺はまだ28なのに……」
どうやらダメージを受けてしまったようである。
うーん、ゼファーが良いのならゼファー呼びするけど……。いや、今度からはゼファーさんでいくか。
あ、因みにお兄さん呼びはダメね。この人にお兄さん呼びは犯罪臭がスゴくなるし。
ゼファーは少しの間落ち込んでいたが、すぐに持ち直すと門衛の1人に耳打ちした。
「……そうですか、なるほど」
門衛がこちらを見る。恐らく俺のことを話してくれているのだろう。
暫くして、
「分かりました。鉄拳殿が言うのなら間違い無いのでしょう。特例として認めます。上には
「あぁ助かる。よし嬢ちゃん、行くぞ」
「うん」
その後ろを着いていく。
壁をくぐる──と、そこにはいかにも中世ヨーロッパのような街並みが広がっていた。
「……すごい」
思わず感嘆の言葉が口から出る。
活気のある商店街。レンガ模様の地面。奥に見えるのは噴水だろうか?
全てが目新しいものばかりだった。思わず目を奪われる。前世ではそんなモノなんて、観光地にあった
「そんなに珍しいか? 嬢ちゃんの故郷はずいぶんと田舎だったらしいな」
「い、田舎って……ぁ、あれ?」
その言葉を聞くと、そんなつもりは無いのにまた、自然と目から涙が流れてきた。
ゼファーは俺が泣いているのを見てまた慌て始める。
「す、すまない……思い出させちまったか」
「ううん。大丈夫」
実際、自分がなぜ泣いているのか分からなかった。
純粋に、綺麗な景色を見たからかもしれない。
それとも、今までの緊張が一気に解けたから?
うん、多分これかな。
1週間もの間、知らない土地に放り出されたも同然なのだ。知らぬ内に重圧が
それに、未だに実感が湧かないが、俺はもう向こうでは死んでしまっている。
つまり今は、
前世ではやり残したことが山ほどあった。
でも、今回は────、
「ねえ、ゼファーさん」
「どうした? 嬢ちゃん」
「……冒険者に、なるよ」
そう。
悔いがないように、生きるのだ。
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