第13話 人化の訓練
『
その効果は文字通り、人に化けることが出来るスキル……ではなく、体の造りを根本的にヒューマンに変えてしまう、というものだった。
それって危なくないのか、とも思ったのだが、痛みもないのだという。
獣人ではラクーンだけが使えるのだそうだ。それでも、ラクーンであれば誰でも使えるという訳では無いらしい。
何故これを今まで教えてくれなかったのかと聞くと、パピーは、『だって、人化を覚えちゃったら、将来冒険に行くとか言い出しかねないだろ! もしそうなったら俺はぁ……ゴニョゴニョ……』などと言っていた。
最後の辺りは聞き取れなかったけれど、大方はそういう理由らしい。それにしても、ちょっと過保護過ぎやしませんかね。マミーも同じような理由だったし。
大事に思ってくれている裏返しでもあるんだけど、些かやり過ぎのような気がする。
とまあ、
今、俺の目の前にいるのがその人である。
「初めまして、メルちゃん。僕はヨムル。昔、メルちゃんのお父さんにはお世話になってね。今回は、君に人化を教えてあげてほしい、って頼まれたんだ」
なかなかにイケメン(ただしタヌキ以下略)のお兄さんだった。前世で言うところの高校生くらいの年齢だと思う。その瞳は、綺麗な翡翠色をしていた。
初めて見る顔だ。集落の全員と顔見知りになったつもりでいたのだが……案外この集落は俺が思っている以上に広いのかもしれない。
「初めまして。よろしくおねがいします」
「うん。いい返事だね」
ヨムルはそう言うと、俺の隣にいる、とある人物に目を移した。
「それで、そこの君は確か、冒険者の………」
「はい! メルちゃんの保護者として来ました。フィーネお姉ちゃんです☆」
そう、フィーネが来ていたのである。
『やっぱり保護者がいないとダメですねそうですね私が行きますそうしましょう』とか言っていたが、ただ単に人化に興味があっただけだろう。パピーとかあまり見せたがるタイプじゃないだろうし……
「……ほんとはヒューマンに見せるべきじゃ無いんだけどな………けど、ガルドさんと一緒に冒険していた人なら信用に値するだろう。じゃあ早速僕が人化を見せるから、最初は見ておいて」
そう言うと、ヨムルは目を瞑った。するとすぐに、その体に異変が起き始める。
いや、異変が起きたというより、
いつ、毛が無くなったのか。
いつ、尻尾が無くなったのか。
いつ、耳の位置が変わったのか。
それが分からなかったのだ。
かくして、俺の目の前には美青年が立っていた。もちろんヨムルである。
容姿は、ヒューマンとなんら変わりない。さりげなく鑑定してみると、種族もヒューマンになっていた。人化すげぇ。
フィーネも、目を見開いて驚いている。
「これが人化だよ。ビックリしたでしょ? でも、見た目に反してそんなに難しくないんだ。よし、じゃあやってみようか」
こうして、特訓が始まった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
数時間後………
「じゃあ、今言ったことを意識してやってみようか」
「うん」
目を瞑る。イメージするのは、ヒューマンの容姿。今のタヌキの姿からヒューマンになるためにはどうするかを考える。
まず、毛を無くす。次に、尻尾、尖った八重歯。
更に、手、足、爪。尖った鼻、そして耳。これらの構造をヒューマンと一緒にさせる。
髪の毛にも、もちろん意識を向ける
することはこれだけ。
そう、意識するだけでいいのである。
だが、簡単だとヨムルは言っていたけれど、これが存外難しい。少し違うだけで失敗してしまうのだ。
……今回は、成功しただろうか?
「目を開けて良いよ」と、ヨムルの声。
言われた通りに目を開ける。
すると、すぐにいつもと
圧倒的だったのが、視界に尖った茶色い鼻が見えないこと。
そして視線を落とすと、そこには────
「!!?」
なぁんということでしょう♪
かつて、ふさふさの毛で覆われていた手は、薄いキレイな肌色に♪
そして、黒く尖っていた鉤爪は、漂白されたように白く、丸みを帯びているではありませんか♪
「───」
匠もビックリなビフォーアフターに、しばらく言葉を失っていた俺だったが、ふとフィーネがこちらを凝視していることに気付いた。
「か…………」
か?
「かわいいぃぃ!」
「ふぇ?」
「シルをそのまま小さくしたような顔のフォルム! かわいい! 目の色と髪の毛はガルド譲りで黒なんだね! かわいい!」
「「……えぇ……」」
俺とヨムルが困惑するなか、フィーネがこちらに近づきながら、そんなアブナイことを口走る。
いや、そんなん言われても鏡ないから見れないんだけど……あ、もしかしてフィーネなら手鏡くらい持ってるんじゃないか?
聞いてみるか。話が通じれば、だけど。
「フィーネお姉ちゃん。鏡持ってない?」
「んあぁぁぁぁ! 今フィーネお姉ちゃんって言ってくれた! ああ、かわいい!…………え、あぁ、鏡? 持ってるよ?」
良かった。なんとか正気に戻ってくれた。
「ちょっと貸してください。顔見てみたいから」
「え、あ、はい、どうぞ」
渡された手鏡を手に取り顔の前につき出す。
「………おっふ」
結果。
自分で言うのもなんだが、結構可愛かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます