第7話 とある義兄妹の話2 sideフィーネ


 フィーナ・クラエスとは、私の本名である。



 苗字がある通り、私は貴族だった。


 だった、というのは、別に家が没落したわけではない。

 所謂、厄介者払いされたのである。


 弱小貴族の三女、それも正妻ではなく単なるメイドとの間に生を受けた私は、早々に追い出されてしまったのだ。


 そもそも周りの貴族には私が産まれたことを伝えていなかったようだし、お父様からすれば私なんてどうでも良かったんだな、と今では思う。


 


 そこからはがむしゃらだった。少ない路銀を使ってウルゾームの冒険者ギルドに向かい、そこで冒険者になった。


 冒険者って言うのは、私みたいな人に言えない過去を持ってる人も多いから、他の職業に比べてあまり過去を詮索されないのだ。


 私は冒険者になるしかなかった、とも言える。皮肉な話だけどね。


 


 冒険者登録をすると、ギルドカードを渡される。そこには、Fランクと書かれていた。


 ギルドへの貢献度をあげるとランクもF➡E➡D➡C➡B➡Aと、上がっていく仕組みらしい。


 Sというランクもあるらしいが、世界に10人もいないのだとか。

 1人いるだけで国を滅ぼせるレベル、というのだから驚きである。


 魔物に関してもランクというものがある。Cランクの魔物一匹ならCランクの冒険者一人で討伐が可能なレベルなのだそうだ。因みにゴブリンやホーンラビットはG(1匹であれば子供でも対処可能)である。


 魔物には魔石という弱点があって、それを破壊すればどんなに強い魔物も死んでしまうと言う。


 魔石は大事な資源の上、砕くとモンスターの体は塵になって有用な部位もろとも消えてしまうので、魔石を砕くのは最終手段、らしい。


 クエストはランクごとに別れていて、自分より上のランクのクエストや、自分より3つ以上したのランクのクエストも受けられないらしい。

 Bランク冒険者ならDまで。Aランク冒険者はCまで、というわけだ。


 その時の私には関係なかったけれど。

 

 

 私は、そんな説明を受付嬢から聞いた後、早速ゴブリン狩のクエストを受けてウルゾームから外に出ていた。


 来たときはがむしゃらでよく見てなかったけど、改めて見ると、魔物の進行を防ぐために立てられている外壁が大きい。

 高さも50mはあるかもしれない。


 それもウルゾームを囲むように立っているのだから凄いとしか言いようがなかった。







 森に入ってしばらくした頃、私はゴブリンを見つけた。


 人間の子くらいの背丈にポテッと出たおなか。緑の皮膚に小さいキバ。本物は初めて見たが、やはり醜かった。


 数は4匹だが、子どもでも武器を持っていれば勝てるとも言われるゴブリンだ。いけると思う。


 私は冒険者ギルドの支給品のロングソードを素人ながらに構え、木々に隠れながら忍び寄っていく。


 もうゴブリンは目の前だ。


「やあああ!」


『ピギャァァァ!』


 ロングソードを振り上げ、ゴブリンをぶったぎった。不意討ち成功である。


 このまま残りの3匹もいける、と剣を構えた………その時だった。


『ピャァァァァァ!』

「!?」


 1匹のゴブリンが叫んだ。


 いつもの掠れたようなただの汚い声ではない。まるで、………



 瞬間。ドシン………ドシン………と。


 心のそこから恐怖を抱かせてしまうような、そんな振動が辺り一帯に響いた。


「………ぁ」



 森の奥から巨大なナニカが歩いてくる。

 それが何であるか、分かったときにはもう遅かった。


 特徴はゴブリンと同じ。

 だが圧倒的に大きい。2mは超えている。


 そして、手には私よりも大きい棍棒が握られていた。


『グオオオオオオオオ!!』


「ひっ……ゴ、ゴブリンジェネラル………」


 ゴブリン・キングよりは見劣りはするものの、ランクはD、私が生きていられる道理は無い。


 


 私は腰が抜けて、その場にへたりこんでしまう。

 あまりの力量の差に、本能が諦めを告げていた。




 ジェネラルがその大きな棍棒を振り上げる。


 終わった………そう思った時だった。


「──ぅぅおぉぉぉぉぉ!」

「……え?」


 ゴブリンとは違う声が、私の後方から聞こえてきたのだ。


 そして、ザッ! と。


 私の前に──オークジェネラルから私を庇うような形で──その人は立ちはだかった。


 声で分かってはいたが、男だった。ジェネラルまでとはいかないものの、恐らく180cmは越えているであろう長身。なによりその綺麗な金髪が目を惹く。

 そして、その太い両手には大剣が握られていた。


 助かった……?


 そう思う暇もなく、今度は誰かが私の体を持ち上げる。

 その体勢は、所謂お姫様だっこである。


「きゃぁ!」


「大丈夫だ……俺らはEランク冒険者、足止めくらいは出来る。」


 私を………お姫様だっこ………しているのは、バンダナから茶髪が少し飛び出ていて、全身がマントで覆われている人だった。なんかカッコいい……あ、いやいや、それどころじゃない!


「ぃ、Eランク冒険者だとあいつに勝てません!」


 そう、Eランク冒険者では、Dランクの魔物にはまず敵わないのだ。

 とんでもないユニークスキルがない限り、ランクと言う壁は簡単には壊せない。


 しかし、そんな私の言葉に、謎の青年は溜め息。


「アホか。俺達が離れれば、あいつも撤退するさ。ジェネラルは縄張りから出てこない習性があるのを忘れたか?」


「あ………」


 そう、だった。確か受付嬢がそんなことを言っていた、ような気がする。


 いや、それにしても………


「なんで助けてくれたのかって顔してるな。………あいつは英雄気質なんだよ。困ってる人がいたら助けてあげるのが英雄なんだとさ。全く、俺は反対したんだがな」


 と言うことらしかった。


「あ、ありがとうございます」


「礼はあいつに言っとけ」


「………はい!」






 その後、ウルゾームの壁の前であの金髪の人と合流した。

 彼は、命に別状は無かったが、全身がケガだらけだった。


 途方もなく申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


「あの………助けていただいてありがとうございました………」


「英雄だからな! 困ってる人がいたら助けるのが当たり前だ!」



 と、いうことらしかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


 その後はこの2人と気があって、パーティに入れてもらうことになった。

 金髪の人がローゼット。

 盗賊シーフっぽい人がユーインだ。


 

 私は、なんやかんやあって魔術師になった。


 というのも、武器の使い方が絶望過ぎるとユーインに言われたので、ダメ元でそっち系の人に魔術の才能があるか見てもらったのだ。


 そして、私には幸運にも火魔法の才能があることが分かった。


 お荷物にならなくて良かったと、その時は安心したものである。


 それから私たちのパーティは破竹の勢いでクエストをこなし、ランクアップをしていった。


 





 確か、あれはCランク冒険者になったばかりのこと。


 調子に乗ってしまっていた私たちは、Bランクの魔物でも戦えると勘違いしてしまった。

 そしてクエストの道中で見つけた………否、見つけてしまった、Bランクの魔物であるオーガ、その群と戦ってしまったのである。



 結果は、壊滅。

 皆生きてはいるけれど、重傷。

 意識があるのは私ただ1人。


 そんな絶望的な状況に陥った。



 一体のオーガが、私を潰そうと、血に濡れた棍棒を振り上げる。

 濃厚な死の恐怖に、私は目を瞑ろうとして……


 のは、そんな時だった。



「おぉぉぉラァッ!」



 一閃。


 私に知覚できたのは、目の前を何かが通り過ぎたということだけだった。


 そして次の瞬間。



『グギャァァァァ!?』

「!?」


 あの圧倒的な力と防御を誇ったオーガがされていた。


 悲鳴を上げながら横に崩れ落ちる仲間オーガに、周囲にいた他のオーガも戦慄を隠せない。


 次の瞬間。始まるのは蹂躙ワンサイドゲームだった。



 斧を持った青年の戦士が、鬼と紛(まが)うような荒々しさで全てのオーガを屠っていく。

 その様子に、私が呆気に取られていると


「大丈夫です。今、から!」

「!」


 声のした方向を向くと、可憐な女の子がいた。

 その右手には杖が握られている。


 女の子は私たちに近づき、呪文を唱える。すると、なんと全身から痛みが消えていったのだ!

 

 HPも全回復してしまったようである。

 ユーインやローゼットにも、同じモノが掛けられていく。


「これって………」


 今掛けられたのは、恐らくグレートヒール。


 限られた回復術師、または高位の神官だけしか使えないと言われる魔法だ。


 私は、一瞬でこの2人の実力を知ってしまう。


 斧を持った青年は既に、かなりいた筈のオーガを全て倒してしまっていた。


「    」


 開いた口が塞がらない。


 そんな私に、当の青年が歩み寄ってきた。


「………大丈夫だったか。それにしても、何故Bランク魔境こんなところにいる。実力から見て、Cランク冒険者だろう? まあ、大方、調子に乗ったとかそんなところなんだろうが………」


「え、えーっと………」


 図星である。正直滅茶苦茶恥ずかしい。

 穴があったら入りたい………


「……ふん。じゃあ俺たちはこの先に用があるんでな。帰るくらいは自分らでも出来るだろう。じゃあな」


 青年は、私たちに興味を失ったかのように踵を返す。

 女の子も、こちらに礼をすると、その青年の後に付いていき………


 え、いやいやちょっと待って! 


「ちょ、ちょっと待ってください! せめてお礼をさせてください! わ、私はフィーネです! あなた方は!?」


 矢継ぎ早に質問の嵐を繰り出す。

 すると青年は、少し固まった後こちらを振り向き、答えてくれた。


「俺はガルド。で、こっちはシル。義兄妹(きょうだい)だ」


 

 改めて見ると、そのは、めちゃくちゃ整った顔をしていた。

 


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