第6話 とある義兄妹の話1 sideフィーネ
「ふわぁ~、もうこんな時間か。行かなくちゃ」
とある凄腕冒険者、フィーナ・クライスの朝は早い。
現在私が留まっている宿屋は、この街──ウルゾームでは一番安い所である。
部屋の内装は無く、狭い部屋にベットしか無い。ここを初めて見た時はあまりの質素さに驚き呆れたのを覚えている。
冒険者を始めたのは4年前。私が15歳の時だった。
そしてこの宿は、この街に来てからというより、冒険者を始めてから泊まった初めての宿でもある。
つい二年前までは、別のもっと良い宿を拠点にしていたけれど、1年半ほど前に『とある出来事』があってから、ここに戻っている。
というのも、初心を忘れないようにするためだ。
私は背が低いので子どもと勘違いされがちだが、これでもAランク冒険者。
『緋色の虎』という、私、ローゼット、ユーイン、の3人で構成されている冒険者パーティに入っている。いや、入ったというより皆で作った、というのが正しいかな?
今でこそ3人だけれど、この『緋色の虎』は元々5人で構成されていた。
え? 今いない2人はどうしたのかって?
心配しなくても、別に死んじゃったとかではないので安心してほしい。その逆……いわゆる寿退社である。
そう、その2人の間に子どもができたのだ。
妊娠2ヶ月だったらしく、謝罪の言葉を残してその2人は故郷に帰っていった。
このウルゾームからあの2人の故郷までは安全に行くなら7ヶ月はかかる。心配だったが、彼女たちもまたAランク冒険者。杞憂というものだろう。
別れの時に、『もし無事に赤ちゃんが生まれたら手紙出してね! お祝いに行くから!』と、言うと2人は頷いてくれた。
あれから一年と半年。もうすぐ手紙が来ても良い頃である。
いや、もう来てないとおかしい時期へと突入していた。
そんな訳で、私の心配は積もりに積もっていった。
『もしかして流産だったのだろうか』とか、『何かイレギュラーがあったのではないか』とか、もう気が気ではなかった。
そもそも、あの2人が抜けてから、パーティは前よりも格段に回らなくなった。
片や重戦士。片や回復も攻撃もこなす万能魔術師。
このパーティには不可欠の存在だった。
勿論、現段階のパーティーでも、ある程度の魔物なら戦える。だが、あの2人がいてくれたらなぁ、と強く思うことが、今でもちょくちょくある。
そんなことをいつも思いながら身支度をして、宿を発った。
向かう先はギルドだ。ローゼットやユーインともそこで落ち合うことになっている。
冒険者の仕事は
いくらAランク冒険者でお金があるとはいえ、放棄するわけにはいかない。
街を歩いていると多くの目が私に向けられる。
だって、
Bになった時でさえ貴族からの護衛の勧誘があったほどである。もちろん全て断らせていただいたけど。
それほどにAランク冒険者の影響力が大きいのだ。
だから私は民衆の目の前で失望されるようなことを決してしない。今も胸を張って歩いている。
落ち込んでいるという態度を見せてはいけないのだ。
「今度また冒険の話を聞かせてよ! フィーネお姉ちゃん!」
「うん。また帰ってきたときに聞かせてあげるね」
「やったー!」
因みにフィーネとは私の冒険名だ。偽名を使う冒険者も多い。
しばらく歩くと、ギルドが見えてきた。
中に入ると、そこには朝早いというのに、2人の男性がいた。
1人は190cmの長身で金髪。その腰にはロングソードを携えている。
もう1人は平均的な体躯で170cm。そして、茶髮の頭にはバンダナが巻かれ、その体はマントで覆われていた。
そう。前者がローゼットで後者がユーインである。
彼らは1ヶ所に固まって何かを見つめていた。
「おはよう2人とも。……どうしたの?」
「お、おお、フィーネか。これを見てくれ!」
そう言ってローゼットは何やら、紙を私に突き出してきた。
…………顔に近すぎて見えないが。
「ちょっと、近い近い、見えないよ」
私はローゼットから紙をひったくり、内容を読んでいく。
そこにはこう書かれていた。
『久しぶり。
手紙というのは初めてだから、勝手が良く分からないので、簡潔に書きます。
無事赤ちゃんが産まれました。
祝いに来てくれると嬉しいです
シルとガルドより』
私たちは、すぐに街を出発した。
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