第4話 特別な縁で結ばれている

 私は大学生になり毎日を過ごしている。ソフトテニスには関わっていない、しかもこの大学には硬式テニスしか無い。


 もう私には関係ない事だ。これから一生テニスとは無縁になる。


 そんな事を決めた矢先の事だった。


「恵ちゃん!久しぶりだね〜」


 仲良くしてもらっている近所の男の先輩、昔はよくテニスの練習相手をしてもらっていた。


「文浩先輩!お久しぶりです!部活帰りですか?」


 先輩はラケットを背負っていて、汗をかいていた。


「そうだよ。あっ!ねえねえテニス部に入らない?人少ないし、部員募集中なんだよね。」


 私は無意識のうちに無表情になり、大きな見えない壁を先輩との間に作った。


 テニスなんでやるわけないじゃん。


「すみません、テニスはもうやめたので。」


「そっかー、残念。と見せかけて、また誘うからっ。」


 その後の先輩は粘り強かった。偶然あった時などは挨拶より先に勧誘してくる。壁を作りきれない・・・


 びっくりする事に勧誘は2年も続いたのである。


 私は心のどこかで、もう一度・・・って言う発作を起こす事が増えて来た。あんなに誘ってくれているのに、ずっと断るのもな・・



ある早朝。

「はーい、もしもし。文浩先輩おはようございます。どうしました?」

『恵ちゃん!!俺とミックスダブルスを組んで大会に出てほしい!!!』


 私はレポートを書くためオールしていたせいで、今は頭が回らない。先輩は何を言っているのかも実は理解に苦しんでいた。


 だが、

「わかりました。」

 私はあっさりと答えた。そう、夢の中だと思っていたのだ。


 お昼頃に目が覚めてスマートフォンを見ると、なぜか大量の大会資料と参加用紙が送られている。


 え?夢じゃなかったの?


「嘘だ・・・」


 そんな事を思いながら、答えてしまったものはしょうがない。やりますかっ!



 硬式テニスの部活に参加し、一発目のフォアハンド。見事に綺麗なホームランを打ってフェンスを越した。


 軟式と硬式では力の入れ方が違うし試合のスタイルも違う。


 先輩をガッカリさせたくない、私は腹を括って毎日毎日練習した。


一ヶ月後。


 第3位入賞!!

 実はただの小さな大会。硬式初心者の私でも勝ててしまった。

 嬉しい気持ちなどなく、ただただ、退部できる!って思った。


 だがしかし、


 「上田さん、すごいですね。あなたのプレースタイル面白いです。次の全国予選女子団体に出てみませんか?実は一人足りないの・・」


 コーチからのお誘い。手を握られて言われた。

 この学校は全国大会の常連校、優勝経験もある。私は焦っていた。

 

 過去のコーチのトラウマから"先生"に対して無条件に敵対心を抱いてしまう私は、断ることすらできなかった。今回のコーチは前と違うが、心は開けない。


そんなこんなで大4の先輩達と大3の私一人で全国大会を、いや全国優勝を目指す線路の上に立ったのだ。


 私は思った、遠ざけても遠ざけてもテニスは遠ざかってくれない。しかも再びテニスで全国優勝を目指すことになるなんて、本当に思ってもみなかった。


 何か特別な縁で結ばれている気がする、大切にするべきだ。


 中途半端なんて嫌いだ、さあ腹を括ろう。


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