第4話 魔法使いへの第一歩

 昼食を食べて小休止をはさみ、一行は講堂のようなところに集められた。

 これから魔法とこの世界についての講義が始まる。一応一般教養が先なのだが、皆が期待しているのは魔法である。

 生き残り、元の世界に帰るためには、一般常識の方も重要なのだろうが。やはり魔法はロマンなのだろう。

「勇者の皆様方、私が歴史を教えるセメットです」

 そう言って軽く頭を下げたのは、初老にかかるかという女性だった。

 そして講義が始まったのだが、なかなかに面白いものだった。



 ネアースと呼ばれるこの世界、元は名もない世界だったという。

 始まりは星の記憶と共に竜が生まれ、それからしばらくして神々が生まれた。

 神々はほとんどが亜人や魔族を傘下に、この大地を支配する傲慢な存在だったが、やがて一つの転機が訪れる。

 異世界からの人間の来訪である。

 人間は凄まじい繁殖力と知恵の力で世界を席巻し、やがて傲慢な神々と敵対するようになった。

 争いは長く続いたが神殺しの竜の力もあり、最終的には人間が勝利した。これを神々の黄昏と呼ぶ。

 それからは人間の黄金期の始まりである。1000年の間に人間は全ての大陸に文明を築き上げたが、今度はそれに対抗する存在が生まれた。

 魔王である。

 魔王は人間以外の亜人や魔族を率いて、人間と戦い続けた。

 圧倒的な力を有する魔王に対抗するため、人間はかつて封印された神々の知恵を用いて、ある存在を召喚した。

 勇者である。

 勇者と魔王の戦いは幾度にも及び、世界は荒廃し、文明は衰退し、幾つかの種族は滅亡した。だがやがて、魔族の中に人間を、人間の中に魔族を認める者が出てきた。

 それは緩やかな動きであったが絶えることなく、やがて人間と魔族の融和が訪れた。

 これから後を白銀の時代と呼ぶ。

 この大陸の現在の暦が付けられ始めたのはこの時からであり、今は白銀暦1203年となる。

 さて、白銀の時代は1000年続いたが、先代の魔王の死により、融和の時代は崩壊した。

 魔族の中の争いの末に誕生したのが現在の魔王であり、大陸の人類や亜人の生存領域を脅かしている。

 そしてそれに対抗するために、アセロア王国が勇者たちを召喚した、というところである。



 色々とツッコミたいところであるが、まず結城が手を上げた。

「その、先代の魔王の時代は人間と魔族は仲良くしていたということですか?」

「そう伝えられていますが、200年も昔の話、詳しいことは分かっておりません。あるいはニホン帝国にならば詳述された文献があるのかもしれませんが、アセロア王国は建国して150年の新しい国です。建国の頃に文献などは失われています」

 200年ぐらいなら記録が残っていても良さそうだが、人類側も戦争を繰り返し、都合のいい歴史を捏造したりしているため、やはり分からないらしい。

 都合のいい歴史を捏造しているなら、手を広げて自分で調べるしかないな、と光次郎は思った。

「先代の魔王のときは上手くいってたのに、今の魔王だと方針が違うわけですか」

「元々魔族という存在自体が好戦的な種族なのです。先代の魔王は、それを力ずくで抑えていたということでしょう」

 それからセメットは魔族がどのように勢力を伸張していったかを説明した。元々魔族だけが住む領域があり、そこから東西南北に侵攻して行ったのだという。

 現在では大陸の北部から北西部、そして南端部を除き魔族の領域となっていることは以前にも説明されたことだ。



 それからセメットはこの世界の簡単な常識や王国の歴史を説明し、やがて教官が変わる。

 杖を手にしローブをまとった、いかにも魔法使いという老人である。

「私はアセロア王国宮廷魔術師の一人、天魔十六杖が一人ボイドと申します。皆様に魔法の説明をさせていただきます」

 皆がわくわくしている。それは光次郎と美幸も同じだ。異世界の魔法ならば、地球の魔法とは違った、新しい発見があるかもしれない。

「まず、皆様方の世界には、魔法がなかったと聞いておりますが、そうですか?」

 うんうんと皆が頷く中、光次郎と美幸は彫像のように動かなかった。

 魔法はある。

 だが、それを知る者が少ないだけだ。



「魔法を使うには、まず魔法の根源から知らなければいけません」

 まず物質を構成するのに必要な、魔素という存在がある。

 これは人間にももちろんあり、それは体内で血液のように巡っている。実際に操作すると、魔力となる。

 それを感知し、操作し、何らかの現象を生み出す。それが魔法だという。

 まずは両手を合わせて、血液が右から左へ伝わるようにイメージする。

 それが出来たら、手を離して魔力が間を伝わるようにする。

(これは魔力感知と魔力操作だな)

 くるくると体内の魔力を回転させる。光次郎も子供の頃にはやっていた。

 それにしてもこの世界、魔力が満ち溢れている。素質のない人間でも、訓練さえすれば初歩の魔法は使えるほどに。

「あ、なんとなく分かる~」

 女子の皆さんがきゃいきゃい言いながらやっている。男子は皆、もっと真剣だ。

 魔力感知で見る限り、あの中で一番上手いのは結城だろう。そう思いながら、光次郎はくるくると手の中の魔力を弄ぶ。



「それで、ここからどうしたら魔法になるんですか?」

「魔力を魔法として顕現させるわけですが、皆様の中に地水火風光闇の、六属性をお持ちの方はいますか?」

 ぽろぽろと手が上がる。

「それでは魔力を指先に集中するようにして、何か意味を示す単語を詠唱します。水だったら水滴、風だったらそよかぜなどですね」

 それぞれが集中する中、光次郎と美幸はいささか失望していた。あまりにも簡単すぎるからだ。

 この世界、魔法自体は確かに存在するのだが、世界に存在する魔力の濃度が高すぎて、地球より簡単に魔法として発現してしまう。

 それに属性の分類が曖昧だ。光と火は、同じエネルギーを元にした力だ。

 美幸などは光を除く五つの属性魔法を、片手の指先に一つずつ発現させたりしていた。

 逆に光次郎は、自分には適性のない、光の魔法を試してみる。これも成功した。

 ただ、使う魔力が大きい。単に光っているだけなのに、どんどん魔力が減っている。

 つまり属性魔法の技能を、高いレベルで持っているということは、それだけ魔力消費が少ないのだろう。



「さて、次に話すのは属性魔法以外の魔法、物理魔法と術理魔法です。たとえば単に体を浮かせるだけのものや、鑑定や虚言感知、分離などもそうですね」

 なるほど、そういう分類なのか。

 地球ではステータスの詳細な確認方法の魔法などなかったので、これには最初驚いた。せいぜいが魔力を感知してその強さを判断するぐらいだったのだ。それでも魔力を意図的に抑え込んでいれば、実力がばれることは少ない。

 しかし聞いてみれば、この世界の鑑定の魔法とは、大地と大気を循環する魔素からデータを抽出するということで、地球では再現不可能であることも分かった。

 だが今の光次郎と美幸は鑑定が使えるし、技能として隠蔽も偽装も使える。

 あるいはしかるべき手順を踏めば、地球でも可能なのだろうか。

「と言うか、この世界がゲーム的すぎる。アフリカ大陸とかニホンとかのことといい、やっぱり誰かが作り上げたか操作したものじゃないのか?」

 小声で呟く光次郎に、美幸は眉根を寄せて問う。

「誰かって、誰よ?」

「……神は封印されているみたいだから……神々の時代の超文明とか」

「そんなもん……あるかもしれないか」

 名前、種族、年齢、性別、能力、祝福、技能まではともかく、職業や称号まであるのはやりすぎだ。賞罰欄まであるのは仕事の面接にはいいかもしれないが、後ろ暗い人間は一生闇の世界の住人となるのではないだろうか。



 実際は一定期間の強制労働を課せられることにより、軽犯罪はその経歴を抹消されるらしい。

 逆に言えば重犯罪、殺人や強盗は残るとのこと。もっともこの世界、犯罪に対する罰は厳しく、重犯罪者に課せられる労働は重く、刑期を終えるまでに死ぬことの方が多いそうだ。



 それはともかく、決められた詠唱を唱えることにより、術理魔法も発現する。

「よーし行くぞ、鑑定!」

 仲間内で鑑定を使うと、確かに相手のステータスが見れる。

 だがそれはせいぜい名前と種族、年齢、性別までである。能力値までは見れない。

 これも術理魔法のレベルを上げれば見れるとのこと。さらには祝福や技能で鑑定を持っている者もいるらしい。魔宝具でも存在するが、やはり能力は限定される。あの鑑定玉などがそうだろう。

 ちなみにスマホ女子池上は、能力鑑定の祝福を持っている。

 そして重要なことだが、隠蔽や偽装を使ってステータスを隠している相手には、鑑定ではなく看破という魔法がないといけない。これはやや難易度が高く、術理魔法のレベル1では使えないとのこと。

「はい! 質問です! アイテムボックス……つまり持ちきれない荷物を異空間に収納するような魔法はありますか!?」

「それは時空魔法という、非常に適正のある者が少ない魔法に属しています。皆さんの中に適正を持つ方は……」

 誰も手が上がらない。

「国から皆さんに、時空収納の能力がついた魔法具が配布されると思います。一つ一つがとても高価な物ですから、壊さないようにしてください。あと鑑定を相手に無断で使うのは失礼になりますので、お気をつけてください」



 なるほど物語でよく見る強奪、鑑定、アイテムボックスのうち二つはあるわけか。

 そのうち鑑定に完全に頼りきりにならないように注意すべきかもしれない。偽装と隠蔽があれば、結局鑑定は無意味なものになるのだから。

「はい、質問です。時空魔法も訓練すれば使えるようになるんですか?」

「一応理論的にはそうですが、祝福以外で時空魔法を使えるようになるのは、魔法使いの中でも百人に一人と言われてますね」

「自分のイメージで武器を作ったりは出来ますか? こう、何本もの槍とか剣を生み出して、相手に一斉攻撃するような」

「無から何かを作るのは創世魔法ですね。一応存在するらしいですが、私は使える人に会ったことはありません」

「はい、自分のイメージだけで魔法を使うことは出来ますか?」

「可能ですが、実際は難しいですよ。やはり詠唱でイメージを固めるか、あらかじめ発動直前の状態になった杖などを使わないと」

「あ、俺の祝福、無詠唱だ」

「何ー!」「ずっけえ!」「このチートめ!」

 このように質疑応答で、最初の日の座学は終わった。







 次は実践である。実践といっても、本当に魔法で戦うというわけではない。

 魔法を実際に発動させるというのが趣旨である。

 訓練場と同じような場所に、一行は案内された。

 魔法の結界が張っていて、多少の攻撃魔法では周囲に被害が出ないという。

 目標は20メートルほど先の人型の的。それに対して攻撃魔法を使うのだが……。

「炎よ!」

 掌で発生した炎が、そのまま地面に落ちた。

「風よ!」

 突風が吹いて、軽く的を揺らした。

「氷結!」

 氷の塊がその場に現れた。

 ……。



「つまりこういうことでしょ。火炎・射出!」

 美幸が手本を見せるように、炎を的に当てる。威力は弱く、かすかな焦げが見えるだけだ。

「なるほど、手順が必要なわけか」

 谷口がぶつぶつと呟いて、指先を的に向ける。

「氷結弾!」

 氷の塊が的を射た。

 それからは皆の習得は早かった。オリジナルの適当な詠唱を試行錯誤して、なんとか的に魔法を当てている。

 それでもあくまで的に当たるだけ。的が破壊されることはない。特に魔法の技能を持っていない者は、発動こそしてもまともな威力はない。

「それでは見本を見せてみますかな」

 ボイドが進み出て、杖を向ける。詠唱もなく魔法は発動し、放たれた火球が的にぶつかって爆発した。

 後に残るのは、木っ端微塵になった的の残骸。

「おお~」「すげえ」「やっぱ剣より魔法だよな」

 ちょっと照れながらも威厳を示し、ボイドは胸を張った。



「はい、質問です。治癒魔法はないんですか?」

「それはとてもいい質問ですね」

 ボイドは手招きして、自らの破壊した的へ一行を連れていく。

「難しいので、私も日に一度ぐらいしか使えないので、良く見ていてくださいよ」

 そして長い詠唱が始まり、杖の先から光が出ると、破壊された的が元に戻っていた。

 おお~と歓声が上がる中、ボイドは説明する。

「これは復元という魔法です。今は物に使いましたが、人間にかけることも可能です。四肢が切断された場合も、元に戻りますね」

「ひょっとして、蘇生魔法もあったり?」

「……残念ながら、今は使える者はいません。ですが瀕死の状態でも生きてさえいれば、治癒させることは可能です」

 今は、ということは神話や歴史の中には使えるものがいたのだろう。







 魔法の講義が終わると、夕食まで自由時間となる。一行のほとんどはメイドさんに案内されて城の中を見て回るそうだが、光次郎と美幸は違った。

 目的地は、図書館である。



 メイドから司書に話を通し、二人は魔法理論と大陸の歴史、地理を調べていく。

「魔法の理論は……まあ普通だな。科学的な分析よりも、経験則から導き出された法則が多いみたいだが」

 それでも地球にはなかった曖昧な効果の魔法の詠唱があったりする。これはかなり使えるのではないか。

「核爆発レベルの魔法があるみたいだな……。それに流星雨ってなんだよ」

 司書に聞いてみると、それらの書物は禁書指定されていて、こことは別の図書館に厳重な警備の上でしまわれているらしい。

「歴史に関してはちょっと説明されたのと違う部分があるね。地理については、旅行記なんかがあるけど」

 貸し出しが可能なのか聞いてみると、直属の上司の許可がいるらしい。これは明日にでもボイドに頼んでみるべきだろう。

 それぞれ情報を収集するが、それがまだ不十分なところで夕食の時間となる。

 不完全燃焼ながらある程度の知識を得たところで、二人は食堂へ向かった。







 夕食は丁度二人が入ったところで開始となった。

 ちなみにこの世界、一日は24時間、時計も発達している。一時間毎に王城の鐘が鳴り、それに合わせてスケジュールが組まれているとのこと。

「それでお前らはどこ行ってたわけ?」

「図書館だね」

「へ~、俺は武器庫行ってきたぜ。なんか国宝の聖剣とかあってさ。俺たちに貸し出されるんだって」

 谷口が嬉しそうに説明してくれる。

「ゲームで言うならいきなりチートレベルの武器が最初からあるようなもんだな」

「勇者様方に使ってもらわなければ、宝の持ち腐れですからな」

 ちなみにこの食事の席には、ケインとボイド、そしてシーラも混じっている。

 食事の合間にも気付いたことや疑問に思ったことを聞いて欲しいということだ。



「あ~、充電切れた~」

 今までスマホを扱っていた女子が嘆く。それはそうだろう。そしてこの世界には、電化製品などはないのだ。

「魔法でどうにかなんないかな~」

「あ、雷の魔法とか?」

「ふむ、魔法具の類ですかな?」

 ボイドが興味深々といった感じで覗き込んでくる。

「いえ、僕らの世界では魔法がなかったので……その……雷の力を溜め込んで使う道具があったんです」

「それはもしかして電池では?」



 まさしく言い当てたボイドに、逆にこちらが驚く。

「で、電池あるんですか?」

「魔結晶の方が便利ですからあまり使われることはありませんが……見せていただけますかな?」

「壊さないでね~」

 丁寧に受け取ったボイドは魔法を詠唱する。

『解析』」

 それは鑑定と似た種類の魔法だった。

「ふむふむ……これは素晴らしいですな。魔法ではないということですが……なんとかなるでしょう」

「ええ! マジで!?」

 ボイドはスマホの電源部分に手をやると、ぶつぶつと詠唱を繰り返す。それほど長い時間ではないが、注目が集まる。

「……これで使えるようになったかと」

 受け取った女子は恐る恐る電源を入れると、スマホの画面が映りだした。

「おおー!」「魔法すげー!」「ぐあー! ゲーム機持ってくるんだったー!」

 にこにこと笑うボイドは解説する。

「威力の調整は難しいですが、魔力が多少備わっていればあなたにも出来るようになりますよ」

「うっそ! あたし真面目に魔法習うよ~」



 それからボイドはスマホの機能について詳しく聞いていたが、結城は独り言のようにぶつぶつ言っている。

「そうか、古代エジプトでは金メッキに原始的な電池を使っていたというし……」

 他の皆も同じように電源の切れたスマホの充電を頼んでいる。時計代わりの機能だけでも、便利なはずだ。

「音楽や映像を記録する機械ですか。ほう、計算能力まであると。一つ一つは魔法具にもありますが、全ての機能を備えているとなると、なかなか難しいでしょうな」

 そう言いつつもボイドはスマホを操作する様子を観察していた。

「本当は電話……遠くと遠くで話す機械から機能を付け足していったんですけど、この世界には中継器がありませんからね」

「ふむ、遠話の呪文の魔法具ならそこそこありますな」

 王都と領地の連絡を取るための魔法具なのだが、さすがにここまで小さくは出来ないとのこと。

 しかしそれも、中継基地をあちこちに置けば、端末自体の大きさは小さく出来るのではないか。

「確かに、試してみる価値はありますな」

 ボイドは気になったのか、途中で退席して行った。



「これは、俗に言う知識チート?」

 谷口と話しているのは、同じくゲーム好きでライトノベル好きの今村だった。

「そうだよな、考えてみればこの世界の文明レベルを把握してないわけだし、銃とか作ったらいいんじゃね?」

「そういや黒沢、お前技能に鍛冶って持ってなかったか?」

「あるけど……試行錯誤してる時間なんてあるのか? それに単なる銃程度なら、魔法の方がよほど強いだろ」

 面倒くさそうに応える光次郎だが、言われてみれば銃はかなり面白いかもしれない。

「銃は弓とかと違って、習熟するのにあまり時間がかからないんだぜ。それに魔法の素質がなくても使えるしな」

「お、俺ある程度なら銃の仕組み分かるぞ」

「あ~、盛り上がってるところ悪いんだがな」

 ケインが横から口をはさんできた。

「銃は廃れた武器だよ。確かに長所もあるけど、魔結晶を使った火や雷の杖があるからな。何より弾薬が高い」

 それでも地方によっては使用しているところもあるらしいが、少なくともアセロア王国では見かけないとのこと。

「な、なら内政チートはどうだろう? 複式簿記とか、二毛作とか」

 だがそれも既にあるらしい。がっくりとうなだれる二人だが、光次郎は慰めの声をかける。

「まあ色々言ってみたらいいんじゃないか? 同じ文明の進化じゃないんだし、意外なところで役に立つものがあるかもしれないしさ」

「そうだな、そっちの知識も教えてもらえるよう、俺からも陛下に進言しておこう」







 夕食後に入浴し、一行が寝入る頃。

 この日は逆に、美幸が光次郎の部屋を訪れていた。

「魔法についてはあんまり収穫がなかったな。時空魔法と創世魔法ってのはあったが、禁書指定だ」

「あたしらの使う亜空間収納や加速の魔法が時空魔法かな?」

「多分そうだろうな。創世魔法は、本当に何もないところから何かを生み出すみたいだけど、魔力を使っていることには変わらない」

 二人揃って腕組みである。

「地理と歴史については、ちょっと面白いものが見つかったよ。今の白銀暦のずっと前の人間が栄えていた頃の名残が、遺跡とか迷宮になってるらしい」

「遺跡と迷宮は何が違うんだ?」

「遺跡は、まあ地球で言われる遺跡だね。迷宮は、生きている建造物って言う感じらしい」

 迷宮は何者かの手によって作られた場所で、そこには迷宮の主がいて、知識や宝物を餌に探索者を待っているのだという。

「なんじゃそりゃ?」

「多分、結界の一種なんだとは思うけど……」



 情報交換が終わり、美幸が影に沈もうとする時、光次郎は言った。

「一度街の様子も見てきたいな。考えてみれば王城の中を行ったり来たりしてるだけだし」

「そうだね。そしたら文明のレベルも分かるだろうし」

「じゃあ、明日の自由時間にでもお願いしてみるか」

「うん、じゃあ」



 美幸の去った室内で、光次郎は考え込む。

 考えるのは、迷宮のことだ。その奥深くには迷宮の主が住み、莫大な富を与えたり、およそ不可能な願いも叶うと言う。

「そっちの方が早く帰れる……か?」

 日本に残してきた家族のことを思い、光次郎は溜め息をついた。

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