透明な笑み

10-カウント-

背中に感じる微かなノートの上で仰向けで倒れ込んでから急に押し寄せてきた寂しさ

その感情がまだあったことが嬉しい


冬の寒さと体温がなくなっていく感覚

身体から流れ出た血も、温かさを失い、冷たい水溜まりにいるみたい

いつか見つかった時、このノートもあっさり見つかるだろう…そんなのはどうだっていい

最後のその時まで傍に感じていられたら

それだけでいい


生きることも死ぬことも思い通りにはいかない

頭で考えていた通りにいくわけがないとは思ってた

私の眼に映るものはまだ赤い

鮮やかに見える血がどれだけ流れても不思議と落ち着いてた

ただ、このやり方に身体が強い拒絶をおこした

後戻りどころか、もがくしか出来ないところまで来ても

私の中にあり続けた理性や本能が「やめろ」「痛い」「怖い」と叫び続け、身体を激しく動かす

躊躇う事は何一つ無い

静か過ぎて時間が止まってる感覚に陥るが、生々しい音とまだ生きてることだけが現実に連れ戻す


この場所から離れたら意味がない…


ぬるっとする包丁を握り、仰向けになった

もうこの体勢から動けないように…

ただ滑るだけの刃を、真下に向けぐりぐりと傷を抉る

死に向かう速度を早めるように身体のネジを巻く

正気の沙汰じゃない事くらい分かってる

でも私は正気…でありたい

天井を見つめるとチカチカと赤い光が走る

包丁が滑って手から離れた


もう…いっか


チカチカ、チカ…チカッ…

終わりへのカウントがはじまった

時計の音はもうしない





私の生きた世界はとても小さかった

真っ白で何色にも変わる不思議な世界

真っ黒に塗りつぶしてしまった世界

また白く戻れるよう

12月24日


いつか続きを楽しみにしています



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