車のエンジンをかけ、暖房を全開にする。

数時間で、黒い車体は雪で真っ白になっていた。急いで雪のけをし車内を暖める。

だが、除雪機は主に大きな道路を中心にする為、少し小路に入ったり住宅地となるとそうはいかない。

若月真優の自宅への最短ルートは……

コートの胸元をおさえ、竹内が助手席へ乗り込んだ。

最後に、サイドミラーにへばりつく雪を素手で払い落とし、運転席に乗る。


「行くぞ」顔は前を向いたままの竹内の言葉を合図に、車を走らせた。


「お前が言った言葉を覚えてるか?」

チラッと竹内の顔を見る。

「「早くしないと無になりそうだ」と言ったんだ。それで、大した事は今までしてこなかったが…ハッとした。まだ青尻のお前の言葉にだ。」


堺からすれば、褒め言葉にも聞こえるが、竹内は顔色を一切変えずに煙草に火をつける。


「えぇ。俺は、平和ならそれでいい。と、正直思ってました。それが一番ですが「税金泥棒」と言われるし、まぁ仕方ないんですけど…。初めて現場を見た時に、言葉は変ですが…早くしっかりと知らなきゃいけないと思ったんです。」

「変だ。」

竹内に遠慮は無い。

「だが、その考え方は正しい。しかし、今回厄介なのが、上が事件として扱おうとしてることだ。俺たちは、自殺の線も消していないのに事件と扱ったら仏さんの心より、加害者に焦点がいってしまう。そうなれば…ゼロ、無のまま何もわからずじまいだ。

おいっ、その道より手前を右に曲がった方が早い。」

「あっ…、はい!」

「ここは自治会がしっかり雪掻きしてるから、比較的通りやすい。覚えておけ。」


暫く車を走らせていると、路肩に赤いランプを付けた車が見えてきた。


「ここに停めます!」

エンジンを切るより早く、竹内は外に飛び出し、黄色いテープが張られた内側に入っていく。それを追うように堺も急ぐ。



家に入ると、既に竹内は話をしていた。

「早く来いっ。」

「はいっ!」

睨む目付き…ついいつもの声が出てしまい「はいっ…」と言い直す。

「この人が電話をくれた高岡さんだ。」

軽く会釈をした時、境は密閉できる袋に入った黒ずんだノートらしき物を高岡が持っているのを見た。


「お伝えした通り、室内に人が侵入した形跡はありませんが、僅かに複数の毛髪が発見された為、解析中。それと、これがカーペット下から発見されたノートです。」


元は黒か?赤か?…裏返してもわからない。


「他にも何か見つかりました?」

竹内の強い心が伝わるからか、語尾が強く感じる。

「カーペットの下から出てくるなら他にもある筈です。邪魔にならないようにしますので。」

そこまで言うと、机の下に潜り込んだり、見落としがちな場所を考えては探し始めた。

「えー…、堺さん、このノート朝までには鑑識に回せと指示が来てるのですが…。」


「今見ます!」


鑑識に回されたら遅い。俺には分からない事が見つかるかもしれないが…今出来る事は

堺は手袋をはめ、血でふやけ黒ずみくっついているノートを慎重に開いた。

幸いな事に、発見まで日数が経っていないせいか、周りはともかく中は綺麗だ。



遺書は、さよならを自分に言うために書いたのに…誰?

私でない誰かがいつも見てる



なぜ、このノートだけ隠したんだ?

既に、目を通している方も、他の人が書いた形跡があるのにも関わらず…。堺は先を読む。



待てよ…全てがズレてくる。

「竹内さんっ!」

つい大声が出てしまい叩かれるのは覚悟だ。

しかし…。




あなたの遺書を読みました。

私に出来ることをあなたが死ぬ前にやらなければ私もあの世へ行けません……

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