3
「竹内さん。」
「何か分かったか?」
文字を読み続けるのは、正直目に来る。それに、人の字には癖があり、間違えずに読み取ろうとすればする程、眼球がギューッと寄り、痛みが増す。
堺は目頭を揉みながら、その痛みをどう逃がそうかと、違う部分とも闘っていた。
…なにせ、今回は刑事の勘と共に、膨大な日記を見なければならない。携帯で便利になったとはいえ、身体にのしかかる負担や疲れは変わらない。…そう思えてくる。
「俺の見ている方は、亡くなった若月真優のおばあちゃん。えー、若月トキさんが亡くなった1月23日を機に変化が見受けられます。
ですが、真っ黒に塗りつぶされている部分が多く、死因や動機は断言できません。」
「こっちもそうだ。所々ではあるが読み取れない部分がかなりある。」
「…なぁ。」
「はいっ。」
「塗りつぶすくらいなら、最初っから捨てちまえば良いと思わないか?読んでて感じるんだが…近所の住人以上に、家族との接点が少な過ぎる。捨てられて逆ギレするような人間なら別だが。」
うーん。と唸ると堺は、眉間を人差し指でつつき始めた。
こいつには何個の探偵癖があるのか。
単調で疲れる時、見ていて飽きないのはどこか気持ちを楽にしてくれる。
「キレやすい·衝動的な人であれば、一瞬であれ相手の特徴を捉えようと、細かに見るのではないでしょうか。人と距離をおき、且つ、顔も見ず会話も殆どしないとなると…、そんなぼやけた人間像を憎めるとは考えにくいですね。
それに、もしもそうだとしたら、自殺の線はかなり薄くなります。」
「それに…。」
腕を組んだ姿勢のまま、椅子ごと堺の方を向く。
「単純に考えても、ここまで日記を続けている人が、日付もノートもバラバラに書くこと自体、几帳面な人であれば尚更気になりますよね?それを誰かが読んでは消し、書き込む…。
SNS等も書いては削除したり、コメントも自由に出来ますが、それは誰でも見れる匿名のネットであり、こんないつバレるかわからない事をするのは…ちょっと気味が悪いです。
もし、会話も無く冷えきった家庭でも、勝手にこんな事されたら…。」
「まぁなぁ…。これしか接する機会が無いとしても、関係は悪くなるだけだな。」
竹内のジャケットから、携帯の音が鳴る。
「鑑識の高岡です。今、いいですか?」
「あぁ。」素早く手元に紙とペンを持つ。
「今現在分かった事は、亡くなった若月真優。女性·32歳。」
「32!?」
「はい、戸籍を調べたらそのように。
衣服や血痕、使われた包丁から本人以外の指紋等一切付着していませんでした。更に部屋も、僅かに毛髪が見つかった程度で、今調べています。
それと、ノートからは複数の筆跡が見つかりこちらも調査中。」
竹内は堺の顔を見る。堺も何かを感じてるようだ。
「あと、カーペットの下から一冊のノートが見つかりました。遺体の下にあり状態はかなり悪いですが…。」
「分かった。今からそっちへ行く。」
電話を切ると、コートを羽織り
「今から現場へ行くぞ。話は着いてからだ!」
「っはい!」
「もう夜中だ。現場では声は落とせ。」
車の鍵を持ち、堺は走って部屋を出ていく。
「はいっ!」
新年になったばかりに、こんな謎だらけで輪郭さえ曖昧な見えないものを担当するとは…
せめて声なき声をじっくり聞いてやる。
空からは静かに大粒の雪がやむことなく降り続いていた
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