黄色い月は嗤う

☀︎/☁︎

○年1月23日

年の離れた友達みたいで、歯のほとんど無い大きな口をあけて「がっはっはっ」と笑う、大好きなおばあちゃんが死んだ。

「あなたは誰にも話さないで、心にしまっておくのよ。おばあちゃんは旅行が好きだったでしょ?だから、ちょっと神様の所に旅行に行っただけ。変に考えちゃだめよ。」

妙に覚えてる言葉…。

お葬式はしなかった。

最期におばあちゃんの顔も見れなくて、見た時はもう小さな箱に入ってた。


去年は全く降らなかったのに、今年は沢山雪が降ったから、真っ白くてふわふわした雪がいっぱいある風景はすごくキレイで、外に遊びに出たら、おばあちゃんが歩いてた。

「おばあちゃーん!お散歩ー?」

振り返ったおばあちゃんの顔は、雪と同じくらい白かった。

でも、いつものように笑って

「まーちゃんは雪が大好きなんだねぇ。ほら、風邪引くと良くないから、これ使いなさい。」

そう言って、おばあちゃんのふんわりした匂いのする、手編みのぼうしとマフラーを巻いてくれた。

「おばあちゃんが風邪ひいちゃうよ!」

私は、自分の手袋を急いではずした

「手が真っ赤っかだよ!これっ!」

少し小さくて、手首の上まで出てしまってるけど

「…がっはっはっ。まーちゃんは優しい子だねぇ。嬉しくて涙がでるよ…。」

ちょっぴりおばあちゃんの鼻が赤くなった気がした。

出掛けてくるから…って、言っておばあちゃんは歩いていったけど、1人で遊んでてもつまらないから、そぉーっとおばあちゃんの後を着いて行く。

最近よく出掛けてるのを見ていて(どこに行ってるのかなぁ…)って気になってたから。

「一緒に行く」

って言えない自分が嫌になった日…。

おばあちゃんの後を黙って着いていくなんて、変な人みたい。

雪は景色を白くする以外にも、降ってるとしゃんしゃんって静かな音がして、歩くとしゃりしゃり音がする。

足音を立てないように、おばあちゃんの足跡を踏んで歩いた。

ちょっと探偵になった気分と、ごめんねって気持ちで複雑だったけど…。


どこにも寄らずに真っ直ぐ線路まで来て

どこに行くんだろう?って思った。

カンカンカンって踏切が下りてるから、立ち止まってるおばあちゃんと距離をあけて待っていたけど…やっぱり悪い気がする。

黙って着いていっちゃいけないって。

(やっぱり、着いてきちゃったから一緒に行きたい)って伝えようと思い走った。


「おばあちゃーんっ!」


おばあちゃんはきょろきょろしてるけど、雪の音と、カンカンカンて鳴る踏切の音で分からないみたい。


急げ急げっ


しゃりしゃりから走るざくざく音がわかったのか振り返り私を見た。

…どうして手を振ってるの?どうして払うしぐさするの?


「おばあちゃーんっ!私も行くー…」



その瞬間、おばあちゃんが消えた

耳が壊れそうな音と一緒に…


あたたかく包んでくれたぼうしとマフラーは生温い何かが飛んできて、変な匂いがした。

私は動けなかった




おばあちゃんが死んだ

の後は真っ黒く塗りつぶされていた。

その下に

「過去より現在(いま)を生きなさい。あなたを想う人は1人じゃない」

と、書かれていた。

誰かは当時分からなかった。今も正直わからない。

ただ、強い記憶はいくら消そうと、心から消えない。だからこそ鮮明に思い出せる。


それからの私は、徐々に人としての感情や生きがいを無くしていった。親や友達、近所の人、全て作り上げた私であって私ではない。

私でないまま生きる事に、私であり続ける意味は無い。

もう、これを読む人も真っ黒に塗りつぶす人ももう居ない。

全てを知っても分からないだろうから、違うノートに書く。


○年1月23日 命日


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