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「竹内さん。少しいいですか?」
近い距離に居るにも関わらず、堺の声量は室内に響く。
「何が気になる?」
手には赤いノート。机の上はカラフルな色のノートで埋まっている。
「はいっ。えー…、これは何が言いたいんでしょうか?」
「何が言いたい?」
「これがもし、本人が書いたとしたならおかしな所が多々あって…。なんと言うか…何かおかしいんです!」
耳を押さえながら顔を顰める。
「…頼むから、もう少し小さい声で話せ。」
「失礼しましたっ!」
「それだ。」
頭をポンと叩き天井を見上げる仕草は、年齢に合わず、どこか古い。本人は一切ふざけている訳ではなく、見ていて飽きない。
「それで、何が気になるんだ?」
「はいっ!あ…、はい。まず大きく2つ。日付が滅茶苦茶です。日記を書き忘れて1日2日飛んでしまうのは分かるのですが、例えば、このページでは9月3日の事が書かれているのに、次のページでは3月20日、その他に、数日分まとめて書かれていたり、日付すら書かれてない所もあります。
2つ目は、細かい事が殆ど書かれていません。場所や名前すら「あの人」等と書かれています。もし日記であるなら、行った場所や地名、誰と行き何をしたか書きませんか?これだけの数と、ノートにびっしり書いていれば細かな所に触れないのはちょっと変だな…と。」
竹内も疑問に思っていた。
自分をメッタ刺しにし、掻っ捌く…
それだけでも異常だが、更に異常で複雑にしているのは
何故、いい大人が子供部屋のような場所で死んだのか?テレビ·携帯…その他生活に必要な物が何も無いのか?捨てたとしても、生活臭あるいは人が住んでいる空気さえ感じなかった。
だが、あの家は紛れもなく、亡くなった若月真優の家であり、もし空き家だったとしてもおかしい点があり過ぎる。
「竹内さん。もう一ついいですか?」
「なんだ。」
境は、顎に拳をあてながら何か考え込んでいる。刑事になる前から新聞や報道を見ては推理してきた癖なのか、仕草がどこか胡散臭い。
だがノートを見つめる目は真剣そのものであり、今まで大きな事件は無くとも全力でぶつかってきた熱い男だと分かっているから、そこだけは敢えて流している。
「1ページ毎しっかり読んでいて気付かなかったんですが、日付もですが、たまに書かれてる年も滅茶苦茶です。これ見てください。」
境は指で挟んだ所を見せる。
「このページでは、今から6年前の8月6日の事が書かれていますが、少し先に行くと…これは去年の10月と、急に5年も飛んでいます。また少し先に行くと、今度は10年も前になっているんです。10年も前なら筆跡も多少変わっていてもおかしくないし、焼けて紙が傷んでいても変ではありません。
ふざけて書いたとしたら、どうして他の物よりこのノートを捨てなかったんですかね…。」
「筆跡は、若月真優本人のと一致しているか確認は取れたか?」
「今確認中だそうです!筆跡が分かる物証自体少なく時間が掛かってるみたいです。」
竹内は椅子に背を預け、腕を組んだ。
(手離したくない…手放せないもの
それは大切だからか?それとも、若月真優が何か伝えたかったのか…。)
「堺。」
「はいっ!」
「暫く帰れないと思え。これら全部目を通すまでだ。年月日や気になる部分は書き出せ。あと、もしかしたらまだ何処かにあるかもしれんから、家中隅から隅まで探して来いと伝えろ。出なかったら俺達が行くぞ。急いで読んで頭に叩き込んでおけ。」
「はいっ!」
勢いよく椅子に座り、紙の擦れる音が聞こえだした。
「因みに聞くが…お前はこの死をどう読む?」
「まだ断言は出来ません。…ですが、どっちに転んでも早くしないと全てが無になる気がします。」
竹内は無言のまま黄色のノートを捲った。
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