第10話 新たな家族
だいぶ日も落ちてきた。
お日さま(?)はオレンジ色で、きれいな夕焼けだ。
今日の出来事など「大したことないぜ」とでも言っているように、綺麗な空を描いている。
この異世界は自然の景色が絵画のように美しい。
城と町があったところだけが戦後の焼け野原のようだが、そんなことはお構いなしでそれ以外の風景には目を奪われる。
体感だが、あと一時間もすると暗くなり夜になるのだろう。
俺は時間停止スキルを発動させ、とりあえず城下町の方へ飛んだ。
城下町からは街道が伸びているはずだ。
街道沿いを行けば、そのうち避難民に合流できるだろう。
城下町にどれくらいの人が住んでいて、何人が無事に避難できたかはわからないが、最低でも数百人は避難したのではないか。
祖竜は戦意のないものは襲わなかったみたいだし、略奪とかもなさそうだ。
人間の戦争の方がよっぽど非道いかもしれない。
罪のない一般市民まで虐殺なんてこともあったからな。
適当に飛んでいると100人くらいの規模の野営地を見つけた。
野営地というかテントもなく、着の身着のままの野宿だ。
男手たちは木の棒で見張り、女性と年寄りが火を熾して食事の準備、その周りを子供たちがお手伝いをしてたり赤ちゃんや小さい子の世話をしている。
走り回っている子供もいるな。
男たちが木の棒を持っているのは武器替わりだろうな。
ここなら俺一人ぐらい紛れ込んでも大丈夫だろう。
優しい人に巡り合えますように。
野営地のはずれの木陰に行って、スキル解除をしよう。
(痛っ)
スキル解除の位置が少し高すぎたようだ。
体の小ささに慣れないとな。
俺は俺の意思とは無関係に大声で泣き出した。
本当に自分の声なのか?と思うぐらいに大音量で泣いている。
実は45のオッサンが大声で泣いているとバレたらドン引きされるだろうな。
でもこれで誰かが俺を見つけてくれるだろう。
放置プレイは勘弁してほしい。
腹も減ったし。
(こんなところにいた)
頭の中に声が響いた。
念話?
誰だ?
「$K&@?」
俺を覗き込んだのは5歳ぐらいの黒い髪の少女だ。
ちょっとくせ毛のセミロング。
躊躇せずに抱きかかえられた。
俺に念話をしたのはこの子か?
俺の方からは念話は出来ない。
多分、何かの力と言うか、コツが必要なのだろう。
今のところ受信専門みたいだ。
「〇#$~」
何かを言いながら、人がいる方に走っていく。
頼むから転んだり落っことしたりしないでくれよ。
黒髪の少女はたき火を囲んでいる家族らしき人たちのところに向かった。
30歳ぐらいの濃い茶髪の細めの女性と隣には10歳ぐらいのくすんだ金髪の少年。
茶髪の女性は俺と同じような生まれたてに近い赤ちゃんを抱えていた。
天使だ。
赤ちゃんなのに美形だとわかる。
おむつのCMに出そうなくらいかわいい。
俺が今どんな顔なのかは俺からは見えないが、赤ちゃんの頃の写真を思い出すと・・・猿だな。
生まれた時から黒髪がボーボーで、我ながらかわいいと思ったことがない。
この異世界の人たちはどちらかというと洋風な顔立ちの人が多い。
体も大きめで、何かずるい。
俺を抱いている少女は、同じように赤ちゃんを抱いている女性の隣に座って笑っている。
お母さんの真似をしたいお年頃だな。
茶髪の女性は俺を見て驚いている。
俺の顔に何か付いてる?
(・・・・・・)
え?
無言の念話って何?
明らかに茶髪の女性からの念話だったぞ。
何で無言・・・?
何かを見透かすような知的な目だ。
俺がオッサンだということがバレているような気がする。
いやいや、わたくし決して怪しいものじゃありませんよ。
・・・不審者のセリフだ。
こうなったら正直に念じておこう。
(異世界から来たオッサンです)
茶髪の女性の目が怖い。
(とりあえず、右も左もわからないんで、ここでいろいろ教えてください)
茶髪の女性が大きく溜息を吐いて頷いた。
俺と女性が念話をしている間、俺を抱いている少女は必死に何かを喋っていた。
俺もここでいっしょに暮らすようにと説得しているみたいだ。
捨て猫を拾って説得している子供みたいだ。
茶髪の女性の溜息と頷きが「飼っていいよ」という承諾に見えたようだ。
少女は俺を担ぎ上げて、嬉しそうに回っている。
俺は捨て猫か?
金髪の少年は怒っているような口ぶりだ。
黒髪の少女のお兄さんかな?
まあ気持ちはわかる。
こんなサル顔の得体のしれない赤ちゃんを抱いて喜んでいる妹だからな。
でも大目に見てくれよ。
オッサン、行く当てもないんだから。
ここは穏便に済むように「必殺、タヌキ根入り」だ。
「俺は無関係」をアピールする大人の必殺技だ。
それにどんな動物でも赤ちゃんの寝顔はかわいいからな。
・・・自分を動物に例えてしまうあたりがせつない。
何十年かぶりに人に抱っこされていることに気が付き、子供とはいえ女性に抱っこされているのが気恥ずかしくなってきた。
・・・本当に寝てしまおう。
今日はいろいろなことが起きすぎた。
目が覚めたら無事にこの家族の一員になれることを祈りながら。
この人たちが家族かどうかは知らんけど。
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