第8話 考察

パキィーン!!!

額の前あたりで、ガラスの割れたような音をした稲妻が光った。

新たなスキルを獲得したのは間違いない。

今度は・・・何だ?


すぐに背中や頭部のやけどがなくなったのがわかった。

さらに手足の複雑骨折も元に戻ったようだ。

体が熱い。

とはいえ風邪とかの感じじゃなく、風呂上がりのようなポカポカな感じ。

(これは治癒・・・じゃない?)

気が付けば防塵着も復活している。

とりあえず湖から這い出て、近くの草むらに横たわる。

呼吸も楽になった。

湖から出たら、すぐに防塵着どころか中のTシャツやパンツまでもが乾いていった。

ゴム長やゴム手袋の中も濡れていない。

とにかく今までのことが嘘のように、体から痛みは感じない。

「気持ちええ~」

やばい・・・寝そう・・・

い、いかん!

まだ謎スキル発動中だった。

すると、股間に違和感。

・・・スースーする。

(パンツが消えた?)

すぐにゴム手袋が消え、靴下、インナーのTシャツも消えた。

防塵着、保護帽、ゴム長はまだ身に着けている。

・・・すごくおさまりが悪い。


それでも見た目は変わらないのか。

・・・だから、まだスキル発動中なんだから余計なことを考えている場合じゃないんだって。

などと一人ボケ一人突っ込みしてるうちに、さらに状況は変わった。

防塵着と保護帽の消失である。

「ちょ、待って」

スキル解除・・・されたのか?


この前に獲得した時間停止スキルはスキル解除がわかりやすかった。

しかしこの謎スキルはスキル解除がわかりにくい。

体感で解除されたはずだけど・・・


あらためて自分の格好を確認する。

オッサンが全裸に白いゴム長靴・・・変質者やろ?

さ、さすがにこれはマズい!

(シンキングターイム!!)

時間停止スキルを発動させた。

自分のフルチンを視界に入れたくないので、首から下を地面に埋めることにした。

・・・便利だな、時間停止スキル。


さて、めでたく獲得した新(謎)スキルを考察してみよう。

まずは獲得したスキルによって起こったことを時系列に整理してみる。

1.ファイアブレスによる頭と背中の火傷がなくなった。

2.手足の骨折がなくなった(防塵着の復活はこれの前後?)

3.肺が治った

4.パンツが消えた。

5.ゴム手袋が消えた。

6.靴下、Tシャツがほぼ同時に消えた。

7.防塵着と保護帽が消えた。

8.ゴム長だけが残った。

ということだな。

シンプルになった。

社会人として、起こった事象を時系列で並べる癖をつけると考えをまとめやすくなるぞ。

探偵の推理もこれの応用だ。

そして、最初と最後に注目。


ファイアブレスの火傷は直近だね。

ゴム長は入社してすぐに支給された8年間の愛用品。


おっ?

何か見えてきた。


防塵着と保護帽は一昨年に新しいものに変えた。

Tシャツと靴下は今年に下したやつかな。

ゴム手袋は新しいのを出すのがもったいなくて、綺麗そうな何日か前のやつを再使用した。

パンツは今朝の下したて。

肺は試作品の事故。

骨折はファイアブレスの前の自爆(?)


そうだ。

時系列の順番が、俺の身に起きた新しい出来事の順番と同じなんだ。


・・・理解した。

この新スキルは俺の身に起こったことを、新しい順番に無かったことにしていく。

つまり俺自身の時間を巻き戻している。

今はゴム長だけということは、2年前から8年前ぐらいの間の俺になったというわけだ。

ゴム長の汚れ具合を確認するとだいたい4~5年前というところだな。

若返ったともいえる。

オッサンの4~5年は大差ないが。


・・・これって不老不死なんじゃね?


即死といっても必ずタイムラグはある。

さっきのファイアブレスがいい例だ。

意識が刈り取られる前にこのスキルを発動させれば絶対に死なない。

回避不能な広範囲攻撃を受けたならば、時間停止スキルで安全な場所まで逃げてからこの新スキルを発動させれば、大丈夫なはずだ。

瀕死であっても死んでなければ問題ない。

例え毒を食らっても、なかったことにできる。


・・・うん。

チートだ。


「俺時間巻き戻しスキル」と名付けよう。

「時間停止スキル」と「俺時間巻き戻しスキル」があれば不老不死だし、どんな攻撃でも生き延びることはできそうだ。


フフフ・・・

勇者への道が開けてきたようだ。

・・・攻撃力はないけどな。


この俺時間巻き戻しスキルだが、落ち着いたら逆ができるか実験しておこう。

すなわち俺の時間を進めることができるか?ということだ。

これができれば、大人と子供に自由自在になれる、ということになる。

昭和の魔法少女の得意技だな。

・・・今は実験したくない。

ファイアブレス直後とか、さらにその後とか地獄しか見えん。

オッサンが進んでも爺さんになるだけだし。

せめて、もっと巻き戻して子供になってから試しても良さそうだな。


新スキルの考察もあらかた済んだところで、現状を把握しよう。


俺は今、全裸に白ゴム長だけという現代日本なら即逮捕の状況だ。

どうにか服を確保しないとな。

・・・待てよ。

服の確保ということは、今の俺では盗むか奪うか貰うかしかない。

盗む奪うは犯罪。

貰うにしたって、くれるか?普通。

俺だったら、全裸にゴム長だけのオッサンを見つけたら、逃げるか通報するかだな。

・・・この異世界で通報はないか。

でも少なくともオッサンに服をあげようとは思わないぞ。

綺麗なお姉さんが全裸にゴム長だったら、俺は何でも言うことを聞いてしまうだろうが・・・


全裸にゴム長も問題だが、根本的に解決しなきゃいけないことがある。

それは「この異世界のことについて何一つわからないこと」と「この異世界の言葉が何一つわからない」ということだ。

俺の小粋なジョークも寒いおやじギャグも宝のもちぐされジャマイカ・・・


少なくても誰かに言葉は習わないといけないよな。

この異世界に日本語の通訳できる人なんていそうもないし。


!ピコーン!

新スキルを獲得したわけではない。

いいことを思いついたのだ。

全裸ゴム長も言葉も異世界知識も無事に解決できる至高の一手を。


「俺時間巻き戻しスキル」を全開にして赤ちゃんになって誰かに育ててもらう作戦だ。

頭の中で科特隊のテーマが鳴り響いた。

チャッチャララ~、チャッチャララ~、チャ~ッチャラ~♪


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