第6話 一矢報いる
さて、この時間停止スキルだが、これを生かすも殺すも俺次第だな。
できることとできないことをしっかり把握して、戦略を練ろう。
現状把握は社会人の基本だ。
今までにわかっていることとして、時間停止スキルが発動中はどこにでも移動できるが、止まっている物体には干渉ができない、ということだけだ。
他に何ができるか、安全マージンを取りながらいろいろ試すとするか。
とにかく、ちょっとドラゴニュートから離れよう。
ヤツはこつらに走ってくるところだから、ヤツの背後10mあたりへ移動する。
ここで(動け)だ。
ちょっとよろけたけど、スキル解除に慣れてきたようだ。
まずはマスクを捨ててみよう。
捨てたらすぐに(ストップ)する。
俺から離れた俺のものは、時間停止するとどうなるか。
・・・うん。
止まったまま、干渉できない。
俺の時間停止スキルの影響は、身に着けているものに限るようだ。
次に手ごろな石とかないかな。
手に持ったものが時間停止スキルにどう影響されるかの実験だ。
ここまで俺は手ぶらだった。
お、野球のボールくらいの石ころ発見。
近くに行って、スキル解除だ。
(動け)
・・・あれ?
スキル解除できない。
何故だ?
浮いてる状態で解除するとどうしてもバランス崩しやすいから、地に足を着けた状態で解除しようとしたんだけれど。
・・・よく見たら、ゴム長の底がほんの少しだけ石畳に埋まっている。
つまり何かに接触しないで空中にいないと解除できないということか。
なるほど、これは大事なことだな。
例えば、時間停止中に俺の剣が敵に埋まっている状態でスキル解除して、敵の体を俺の剣が貫いているとかのアコギな真似はできないわけだ。
逆にこうやって考察しているときは、どこかに接触してた方がいいな。
さっきみたいに考察中にスキル解除される心配がなくなる。
よし、実験再開。
ちょっと地面から浮いてから、スキル解除だ。
(動け)
よし、無事に解除できた。
着地も成功。
ドラゴニュートに気づかれないうちに石を拾って、と。
(止まれ)
石を持った右手を自分の目の前に持ってきてみる。
よかった。
ちゃんと持ってる。
これで武器を持ったまま、スキル発動できることがわかった。
何となくできそうだと思ったけどね。
次の実験。
停止中にこの石を投げられるか?
石を持った右手で素振りをして、感触を試してみる。
手は動くんだけど、足の踏ん張りはないし、遠心力も感じないし、なかなか感じがつかめない。
時間停止中の体の動かし方は、要練習だな。
とりあえず手投げでいいから、石を投げてみよう。
えいっ
・・・石が手から離れない。
手を開いて振り落とそうとしても、石は手の平にくっついたままだ。
まあこれも納得だな。
できない気がしてたから。
だったら次の実験だ。
石を投げるモーションの途中でスキル解除すれば石を投げられるか。
やってみよう。
右手を振って投げる寸前で
(動け)
「うわっ」
1mほど飛んだかな。
これは難しい。
考察する前に「ストップ」だ。
地面に腰まで埋まりながら考える。
最初の3回は手ぶらで止まった状態でスキル解除をしていた。
偶然だが。
何かを手に持ち、動きながらのスキル解除は相当難しい。
多少なりとも浮いているので、突然重力を感じる。
まったくバランスが取れない。
コケないようにするのがやっとだ。
力加減もわからず、今回は握力が足りずに石がすっぽ抜けてしまった。
今までの日常でこんな経験したことあるわけがないし。
頭ではわかってるんだが、スキル解除した瞬間に体中の痛みが襲ってくるので体の動きが止まってしまう。
とりあえず今すぐに使える戦法じゃないな。
まあ石なんか投げてぶつけたところで、あのドラゴニュートにダメージ与えるとは思えないし。
とはいえ通用しそうな戦法も見つかった。
初見殺しといきたいし、危険だけどぶっつけ本番といこう。
リスクを背負わなきゃハイリターンは得られないからな。
そうと決まれば行動開始だ。
まず武器を探す。
遠いけど城壁の方に行こうかな。
城門の前の人たちには、俺がダメだった場合にはドラゴニュートの相手をしてもらわなければならないし。
城壁の上まで行って、戦況を見る。
城壁上は壊滅状態だな。
騎士団より軽装だから、警備兵かな。
俺はスプラッター耐性はある方だけど、あまり見たいものじゃない。
時間停止しているから臭いとかないけど。
・・・マスク捨てなきゃよかった。
中庭から城内への扉が大きく破壊されていて、魔物の侵入を許している。
蹴散らしてやりてぇな。
とりあえず指揮官のドラゴニュートをブッ飛ばしてくるから、それまで持ちこたえていてくれよ。
目的は武器だ、武器。
城壁の上を飛びながら、良さそうな武器を探す。
すると軽装の兵隊と違った、少し良さげな鎧を着た遺体を見つけた。
この警備隊の指揮官だった人かな。
合掌。
ナンマンダブナンマンダブ。
うつぶせの遺体の手の先に剣が落ちている。
この剣を使ってドラゴニュートを倒してやりますから、成仏してください。
城壁上は全滅で、魔物はもうこちらに攻撃はしてないようだ。
この隙に(動け)と念じ、剣のすぐ傍に着地した。
剣を取って、遺体に一礼して(ストップ)
竹刀よりずっと重い。
ゲームとかでよく見る両手剣か。
ちょうど金属バットと同じくらいの大きさと重さかな。
チャンバラするわけじゃないから、何でもいいか。
すでにスキル発動で重さも感じないし。
俺はドラゴニュートのところに戻った。
・・・ドラゴニュートのヤツ、俺が剣を取った城壁の方を睨んでやがる。
城壁の上に居たのなんて数秒だぞ。
それなのに俺を見つけるなんて、どんだけロックオンしてんだよ。
完全敵認定か。
「それでこそ私のライバルだ」なんて言わねえよな?
まあいい。
今ならヤツは棒立ちだ。
槍も構えてない。
まずはドラゴニュートの真後ろに立ち、そのまま真上に上がる。
今さらだけどコイツでかいな。
身長220㎝はありそうだ。
何度か剣を縦に振ってみる。
剣がヤツの後頭部に何度も埋まる。
よし、いい位置取り。
縦振りなら重力を感じても振り切れるはず。
落下速も多少上乗せされるだろう。
大きく剣を振りかぶって両手で振り下ろす。
(動け)
ガイィィィィ~ン!!!
剣はしっかりヤツの後頭部に当たったのに、剣が弾かれた!
「ストップ!」
・・・なんて硬さだよ。
無防備なのに、ノーダメージか?
ドラゴンはメチャメチャ防御力高いってのは、どんな物語でもそうだが。
ドラゴニュートもそうなんだな。
濃塩酸は効いたけど。
それでも剣を手放さなかったのは、我ながら褒めておこう。
まだ手はある。
少し動いて状況確認。
・・・俺がひどい格好だ。
ヤツに剣が弾かれて、その反動で頭から真っ逆さまに落ちるところだ。
ひとりバックドロップってやつだな。
時間停止が1秒遅れたら、死んでたんじゃないか?
考えてみたら、この時間停止スキルって発動前に即死攻撃食らったらおしまいだよな。
時間停止中は痛みも無くなるからいいけど、スキル解除したら死んじゃうだろ。
時間停止の中で永遠に生きるとか、空しいだけだ。
楽しみなんて・・・のぞきなら、し放題だけどな。
ええい、フラグを立てるな。
次の手に行くぞ。
俺は城の一番高いところに向かった。
そこのバルコニーを目指す。
城のてっぺんって誰が住んでるんだろう?
やっぱり王様なのかね?
俺のイメージは幽閉されたお姫様なんだけどな。
手品で万国旗を出して「今はこれが精いっぱい」と言ってみたい。
手品出来ないけど。
バルコニーに降り立って、スキルを解除し、ドラゴニュートを睨みつける。
ヤツのことだ、すぐに俺を見つけるだろう。
もう見つかった。
早っ!
挑発するように睨みつける。
ヤツがニヤリと笑ったように見えたのは、気のせいか?
(小僧・・・おぬし何者じゃ?)
ん?
何か声が頭に響いたような?
きょろきょろと辺りを見渡す。
(儂が念話でおぬしに語りかけておる。 おぬしは何者じゃと聞いておる)
これってテレパシーみたいなヤツか?
何者と言われても、普通の日本人としか答えようがないだろ。
(日本人? 異世界人か・・・ふざけた攻撃をしよって)
念話の主がわかったぞ。
あのドラゴニュートか。
(本来ならおぬしのような異世界人も葬らなければならんのじゃが、今回は別じゃ。 邪魔をしないのであれば、見逃しても良いぞ)
ふざけんな!!
何か無性に腹が立った。
お前に一矢報いなきゃ、俺がここにいる意味がないんだよ!
さっきまで異世界スローライフもいいかと思っていたことは忘れていた。
テンションMAX状態だからな。
(おもしろい。 一矢とやらを報いてみろ)
ドラゴニュートは黒い翼を広げ、俺を目がけて飛んでくる。
すごいスピードでみるみる近づいてくる。
・・・やっぱアイツ笑ってるよな。
嫌な予感がしたが、狙い通りなのは間違いない。
ここで(止まれ)だ。
俺はゆっくり飛んで、ヤツに近づいていく。
お前のそのスピードが欲しかったんだ。
俺は非力だからな。
ヤツの目の前で止まり、体勢を整える。
両手でしっかり剣を持つ。
剣の向きは下で足も剣の柄に乗せる。
ちょうどホッピングマシンをむりやり逆さにして乗った感じだ。
そして剣の向きがヤツの動きと一直線になるように体の位置を微調整。
切っ先はヤツの左目だ。
お前のスピードで串刺しにしてやる。
準備はできた。
「動け」
ドオォォォ~~~ンッッッ!!!!!
剣にしがみついていられず、吹っ飛ばされた。
手足の骨もイッたかもしれない。
でも、手ごたえアリだ!!
「どうだ?!」
いや、確認はあとでいい。
まずは「ストッ」
ゴオォォォッッ!!という音とともに、俺の視界が赤く染まった。
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