第4話
それでも、店の主人の言った金額は、僕の乏しい給料では思わず躊躇してしまうほどのものでした。でも、もうこの電話は僕の心の中にすっかり住み着いてしまっていて、とてもこのまま置いていく気にはなれませんでした。それで、思い切って買うことにしました。自分で持って帰りたいというと、店の主人は電話を箱に入れて、ていねいに包んでくれました。
「お一人とは、おさびしいことですな。だいいちご不便でしょう。早く結婚なすった方がいいですよ。」
店の主人は電話を包みながら言いました。
「いえ、別に結婚したくないわけじゃないんです。でも、さびしいからとか生活が不便だからとか、そんなことで結婚するものじゃないと思うんです。そりゃあ、夜遅く灯りのついてない部屋に帰るのはわびしいものです。僕だって、時には大声で叫び出したくなることもありますよ。
でも、ひとを好きになるとか、結婚するとかって、そういうものじゃないような気がするんです。ご主人もさっきおっしゃったでしょう。道具だって、わかってくれるひとに巡り合えなければ幸せになれないって。
僕もそう思います。たとえどんなに少しでもいいから、二人の世界が重なり合っていて、お互いの心を満たしあえるようなひとなら、心からわかりあえるようなひとなら、僕でも幸せにできると思います。別に難しいことじゃないんです。ただ、何かに感動したときに、素直にその気持ちを分かちあえるようなひとならと思うんです。誰もわかってくれる人がいなければ、たとえ大勢の中にいても、結局はひとりぼっちと同じことなんですから。」
「こんなことを偉そうに言っても、彼女がいないんじゃあ説得力がないですね。」
僕が苦笑しながらそう言うと、
「大丈夫。きっと近いうちに、いいひとが見つかりますよ。」
そう言って、店の主人は僕の目を見ながら微笑みました。何かふしぎなほど暖かいものが、僕の心に沁みこんでくるような、そんなやさしい微笑みでした。
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