7.情報収集のため…

あの後すぐに、ノートに整理事項を記入し、まとめた。その内容はこうだ。


・娘も繰り返すことを知っていた。

・自分の死と同じ時に他の人も戻っているため、その後を知るものはいない。

・あの中で殿下だけが何も知らない。

・自分で呪いをかけた可能性は極めて低い。他の二人も同様に。

・他の目撃者がいた可能性有。公爵家もしくは私個人に恩を売りたい誰かの仕業?

・私が初めて死んだ日は他国からのお客様がいたので、魔法や呪いがあっても

 おかしくはない。→魔法の国 ヴァルタニア ←上の可能性が低くなる

・ひとまずヴァルタニアについて調べる。


ということで、私は王立図書館に足を運んだ。王立図書館は王宮内にあるが、かなり端の方にあるので、殿下に会うことも娘を見かけることもないだろうと安易に出かけた。が、それが間違いだったかもしれない。


図書館に入って、目的の本棚の前に皇子殿下がいた。ほぼ毎日会っていたから、1週間以上会っていないと懐かしく感じる。正直本棚の前で本を読まないでほしいと思いながら、近づけないでいると殿下が私の視線に気づき、近づいてきた。


「ベアトリー?!?どうしてここに?」

「皇子殿下、ごきげんよう。こちらには調べ物をしに来ました」

「調べもの?」

「はい、調べものです」

「その内容は教えてくれないのか?」

「はい」

「じゃあ、俺の話を聞いてくれないか?」

「嫌です」

「何で?」

「私は調べ物をしに来たからです」

「ついでに…」

「嫌です」


しつこい男と話を聞かない男は嫌われると言われなかったのだろうか。私は殿下に一礼し、目的の本棚の前に向かった。ヴァルタニアの本を探していると、殿下がまた近づいてきた。


「ベアトリーが探しているのはこれだろう」


私の前に突き出してきたのは、探していたヴァルタニア国の歴史本だった。それを受取ろうと手を伸ばすと、ひょいっと上に上げられてしまい、取れなかった。


「貸してくださるのではなかったのですか」

「貸すとは言っていない。探しているのがこれかと聞いただけだ」

「…では、貸してくださいませ」

「やだね」

「どうすれば貸してくださいますか?」

「ふっふっふっ、俺の話を聞いてくれれば貸してやろう」

「わかりました。5分で終わらせてくださいね」

「ご、5分!?無茶言うな」

「では今日は諦めます」

「わ、分かった分かった!善処する」


よほど聞いてほしい話があるんだなと思いつつ、何故殿下がヴァルタニアの本を持っていたのかも気になるので、王族専用の部屋で話をすることになった。


「それで、お話とは?」

「まずは…しばらくベアトリーのところに行けていなかったことを謝りたくて。すまなかった」


殿下は頭を下げた。驚きのあまり声が出なかった。

「ずっと会いに行きたかったのだが、聖女の話とベアトリーの話を聞いて、

 ヴァルタニア国が絡んでいるよな気がして調べていたんだ。そうしたら、

 思っていたよりも日が経っていて、ベアトリーを不安な気持ちにさせて

 しまったかもしれないと思ったのだ」

「それで謝罪をしてくださったのですか……ありがとうございます…」


最後の言葉は小さくなってしまったが、とても嬉しくて、ぬか喜びでもいいと思ってしまった。こういうところが本当に好きなんだなと。


「それで、何かわかりましたか?」

「それが、本には詳細が書かれていなくてな。表面的なことしか分からなかった」

「そうですか…」

「だが、今度の聖女が来てくれたことを祝うために舞踏会でも開こうと

 思っていたんだが、そこにヴァルタニアの第二王子が来てくれるそうだ。

 そこで少し話ができないかと思っているんだが」

「珍しいですね。ヴァルタニアの王子がやってくるなんて…」

「そうだろう?めったに王族は外に出ないと聞くからな。この機会を逃しては

 いけないだろう」


殿下が積極的に情報を集めようとしてくれていることに嬉しくなった。私も

自分にできることをしようと決意した。


「殿下、今日はありがとうございました。お会いできたこと、嬉しかったです」

「あ、ああ。俺もだ。また会いに行く」

「はい、それでは失礼致します」


私が少しばかり素直になったことに驚いた殿下を可愛い人だと思った。

少しずつではあるが変化している気がして、少しだけ期待してもいいのかも

しれないと思った。私の心も簡単に変わるものだな。


私は殿下に馬車まで送ってもらい、また会いましょうと口で約束した。

馬車の中で、舞踏会で第二王子に接触を試みるための準備について考えたのだった。

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