8.聖女歓迎舞踏会(前編)

私は舞踏会の本番までに、船乗り場近くの酒場や他国の貴族が主催するパーティーに赴き、できる限り情報収集に努めた。しかし、魔法の国と貿易している国は少なく、貿易している国があっても内部の人とのやり取りは制限されているそうだ。


その中で唯一手に入れた第二王子の情報は、

"毎晩寝所に男を連れ込んでいる。時には複数人の人間を連れ込んでいる"


言っては悪いが、今回に関してこの情報はいらない。どういう人柄か分かればと思っていたのに。しかしただ一つだけ、ヴァルタニア国は国をあげて何かを探しているという情報だけが、気になった。


歓迎会の前日、そういえば歓迎会用の服を用意していなかったことに気づいた。できるだけ動きやすく、シンプルな服で行きたかったのだが…気づくのに遅れてしまったことを後悔しつつ、手持ちの服でそういった服がないかを探していた。すると、扉の外でメイドたちの声が聞こえる。


「…様、今お嬢様はお着替え中です。入ってはいけません」

「……」


相手の声は聞こえないが、もしかしたら殿下だろうか…。しかしレディーの着替え中に入ってくるだろうか。まあ、着替えてないけど。仕方がないので、扉を少し開けて顔を出した。


姉さんと大きな声で私の顔を見るなり近づいてきたのは、次期公爵家を継ぐことになる弟のウィリアムだ。正直声が大きくて、耳が痛い。それに数十年ぶりに見た気がする。彼とは1回目に死ぬ前の3年前に会ったきりなので、本当に久しぶりだ。


「どうかしましたかウィリアム。お久しぶりね」

「はい!お久しぶりです!お元気でしたか?帰ってきたので真っ先に姉さんの

 ところにやってきたんです!」

「そうですか。おかえりなさい。元気そうで良かったです」

「あ、そうだ!姉さんと夕飯を一緒に食べたくて帰ってきたんです!

 沢山お話ししましょう!」


子犬のようで可愛い弟。殺されてから会うこともなかったので、一層可愛く見える。


彼は私の手を握り、ニコッと笑って食堂に向かった。向かっている途中、私を笑わせようといろんな話をしてくれた。そんな弟を私は、繰り返す時に現れることのなかった彼を希望のように感じた。


食堂に入ると、食事の準備がされていた。父は王宮にて明日の準備をしているので遅くなるようで、弟と二人で食事をすることになった。


「二人で夕食をとるのなんて、久しぶりだね!」

「本当ね」

「僕ね、姉さんに会いたくて一時だけ帰宅を許されているんです…」

「そうだったの…」

「だから明日の舞踏会は一緒に行きませんか!?殿下は聖女と一緒に入場しないと

 いけないでしょう?だから姉さんと一緒に行きたいんです…だめですか?」

「それは構わないけれど、貴方婚約者がいなかった?」

「ん?僕はここを出るときに、婚約破棄をしましたよ。言いませんでした?」


そういえば、この子が出ていく時に爵位継承権の放棄と婚約破棄してたのを忘れていた。理由までは思い出せないけれど…何回も死にすぎて、どうでもよくなっていた。


「そ、そうだったわね。忘れていたわ。ごめんなさい」

「いえ、そんなことはどうだっていいんです!では明日は一緒に行きましょう!」

「お願いできるかしら」

「はい!嬉しいです!」


そうして私たちは楽しく夕食を食べ、明日の約束をし、眠りについたのだった。

そういえば、今あの子がいるという国はどこなのかしらという疑問を聞き忘れたことを後に後悔するとは知らずに。



翌日。

服の準備を忘れていたことに起きてから気づいた。弟との会話が楽しくて長い間喋っていたことが原因だ。どうしようかとクローゼットの中身とにらめっこしていると、メイドたちが慌てて入ってきた。


「お嬢様!殿下からこれを着てくるようにと今しがたドレスが届きました」


普通のご令嬢ならば怒っているところだけど、ドレスが決まらなかったからよかったと胸を撫でおろし、箱を開けた。そこには露出の少ない、少し地味めのドレスが入っていた。私の求めていたもので少々驚いたけれど、きっと今日の主役はあの娘だから自重しなさいと言う意味なのだろう。私はメイドたちにあまり気合を入れないようにくぎを刺し、その服に合わせた髪型、化粧を急がせ、早めに準備を終わらせてもらった。


舞踏会は夜からだが、それまでに国民へのお披露目などの行事があるので、公爵家の娘として参席しないといけない。私は私の準備を終え、弟と一緒に早めに宮殿に向かた。


「そういえば今日の姉さんはなんだか、あれだね…」

「地味でしょう?朝殿下から頂いたの」

「えっ?殿下からもらったドレスなの!?」

「ええ、そうよ。ドレスが決まらなかったから助かったわ」

「こんなことなら、僕が送ればよかった…くそ殿下(小声)」

「別にいいのよ、私は気に入っているし…最後なんて言ったの?」

「ううん、それならいいんだ!なんでも似合うなっていったんだよ」


少し怒っているような気もするけれど、似合っているのであれば問題はないはず。良かったウィリアムがいて。私は安堵しつつ、これから起こるであろうことを想像し、手に力を入れるのであった。

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