5.娘がやってきた
1年という月日が経つまでの間、殿下は本当に皇子殿下なのかと思えるほどの頻度で会いに来た。そして、毎度のように不躾な現れ方をしていた。
扉はどうにか壊れなかったし、半年も経つ頃にはそれが普通なのだと慣れてしまった。可笑しなものだ。
「そういえば、そろそろですわね」
私は紅茶に口をつけ、そう話を切り出した。
「何がそろそろなんだ?」
「例の娘が現れるのがです。ちなみに1週間後です」
「1週間後!?そ、それは確かなのか!?」
「はい、50回全てにおいて同じでしたので、今回だけは違うということはないと思います」
殿下のため息と私の紅茶を飲み干す音が重なった。
「それと、娘はこの世界の人間ではありません」
「はっ!?それは一体どういう…」
「異国の国よりおいでになった聖女様ですから」
「確かに伝承にも異国の地より、聖女が現れ、混沌の世界を浄化してくれると書いてあったが…本当に聖女が来ると…」
「はい」
私は殿下が狩りで出かける森の泉で、その娘と出会い、その娘を王城に連れていくことも追加で話した。
「よし分かった!その日は狩りに行くのをやめる」
「えっ…?」
殿下の思ってもみなかった言葉に驚いた。狩りに行かないでくれるの?という淡い期待と、結局今回も同じだろうから早く娘と出会ってほしいという諦めの気持ちが喧嘩した。
「そんなことが可能なのですか?一応公式行事ですよね?」
「大丈夫だろう!王に確認してからになるがな!」
「なんと無責任な…」
「そんなに気になるならば、今すぐにでも確認してきてやろう!待っていろよ!」
「…わかりました」
殿下はそういうと走って出ていった。正直無理だろうなと思いつつ、窓の外を眺めるのだった。
あれからほんの数時間で戻ってきた。走ってきたのだろう、すごく息がきれている。
「ベアトリー…その、すまない…父は話を聞いてくれなかった…」
「殿下…分かりきっていましたし、大丈夫ですよ。そんなに落ち込まないで下さい」
こんなに落ち込んでいるのを見るのは、子供の時以来だなと殿下の頭を撫でた。
「ベアトリーは…その娘と俺が会うのを阻止しようとは思わないのか?」
「そうですね…行ってほしくない気持ちはありますが、やはり何度も阻止しようとして失敗している身としましては、仕方ないという諦めの気持ちが勝ってしまいます。…それでも、今回は殿下自身が行きたくないというお気持ちを示してくださったのが、何よりも嬉しいです」
「君には…そんな顔をしてほしくなかったんだけどな…」
私の顔がどんなものだったか、私自身には分からない。それでも殿下がひどく泣きそうな顔をしているところを見ると、私もそんな顔をしていたのかもしれない。確かに、目の前が揺らいで見えた。
1週間後。殿下は王宮の伝統行事である秋の獣狩りに出かけられた。
私はお茶会に呼ばれていたが、体調を崩しているという理由でお断りした。
本当はこっそり殿下について行きたかったが、本当に体調を崩してしまったようで寝込んでいた。高熱に、体のだるさがあった。正直何も考えられない。
私はその日一日を睡眠にあててしまったので、娘がやってきたことを翌日に知った。
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