第129話 秘密の開示

 シリウス殿下やみんなのご両親の計7名をバルモスへ運ぶために、俺はもう一台スカイクーペを召喚しなければならなかった。

スカイクーペは何台あっても困らないのでそれはいい。

普段は亜空間の中に入れておけばメンテナンスもバッチリだからね。


 陛下はエスメラルダ様とご自分の機体に乗って出発した。

帝都の上空をドラゴンやグリフォンに守られて三台のスカイクーペが飛び立つ姿は壮観だったと思う。

後で聞いた話だけど、帝都中の人々が動きを止めて、俺たちが北西の空へ消えるまでずっと見守っていたそうだ。



 スカイクーペはタワーマンションの屋上に設けられた専用駐車場に着陸した。


「これがタワマンか! 予想以上に高いではないかっ!! ここの最上階に余の部屋があるのだな!!!!?」


 高さ120m 30階建てのビルに陛下はご満悦だ。

他の方々はあんぐりと口を開いて驚いている。


「すぐに部屋へご案内させましょう」


 陛下の部屋には既に家具なども設置されていて、いつでも快適に過ごせるようになっている。

もちろん国中の一流職人が作り上げた贅沢品ばかりだ。


「そうか、そうか。では皆の者、余の部屋でお茶にしようではないか」


 陛下が鷹揚(おうよう)に頷くとアニタのお母さん以外の人がとても驚いていた。

それはそうだ。

皇帝陛下と同室でお茶を飲むなど、最高の栄誉なのだ。


 陛下のリビングは圧巻で、大きな窓からは島や海を遠くまで見渡せた。


「相当腕の良い魔法職人を抱えているのだな」


 景色を見ながら陛下が感心している。


「ここにはドワーフの移住者が多いのです。また、魔導工学の恩恵でもあります」

「なるほどのぉ……」


 他にも大勢人がいたので、それ以上のことを陛下は何も言わなかった。

たぶん、バルモスの技術力に何か思うところがあったのだと思う。

だけど、それは後で説明するとしよう。

今は義理の家族になる人たちと大事な話がある。


 俺たちはお茶を飲み、バルモスの施設を巡り、食事をしながら結婚式の日取りなんかを決めていった。

最初は別々の日取りで結婚を行う予定だったのだけど、結局みんなが忙しいという理由で式は同時に執り行われることが決定した。

俺は同時に4人の花嫁を迎えることになるわけだ。


「ついに私の夢、トゥルーエンドが……」


 アリス、結婚は終わりじゃなくて始まりじゃないのか? 

なんだかわからないけれど一番喜んでいるのはアリスだった。



 夕食がすみ、その後の歓談も終わって、みんながそれぞれの部屋へと帰っていった。

あたりがひっそりと静まり返った頃合いを見計らって俺はエレベーターに乗り込む。

そして、特殊なキー操作を行って最上階へと向かった。


 エレベーターの扉が開くと、立っていたのはマインバッハ伯爵だ。


「伯爵、陛下のご準備は?」

「余はここにおるぞ」


 壁にもたれて陛下ご自身も俺を待ってくれていた。


「ありがとうございます。私を信じてくださって」


 俺は陛下にバルモスのすべてをお見せするつもりで、あらかじめそのことを話していたのだ。

俺にそんなつもりはないけど暗殺の可能性だって考えられるのだが、陛下とマインバッハ伯爵は俺のことを信じてくれて、お忍びで地下研究所へ行くことになった。


 本当は先にマインバッハ伯爵だけにお見せする予定だったんだけど、「そんな面倒な手順はいらん。余も一緒に見に行く」と陛下は言ってくれたのだ。


 三人でエレベーターへ乗り込み、また特殊なキー操作で地下五階へと向かった。

地下三階より下は一般には表示されないような仕様になっている。

また、途中の階で誰かがボタンを押しても今は止まらず、地下へ直通するようにになっていた。


「レオ、余にバルモスのすべてを見せると言っていたな?」

「はい。陛下とシリウス殿下には包み隠さずすべてを見ておいていただきたいのです」

「そうか」


 チンッ


 エレベーターが地下五階に到達すると、そこはまだむき出しの岩盤が残っているエリアだった。


「おおっ! なんだここは!? ここからバルモスの奥深くへ潜っていくのか?」

「はい、どうぞこちらにお乗りください」


 小型の移動用自動車に陛下を誘(いざな)い、研究所のあるかつてのレッドドラゴンの巣の方へと向かう。

今夜はどんなに時間がかかっても構わないというお墨付きを得ているので、細大漏らさずに見てもらうつもりだった。


 マシュンゴの工場をはじめ、すべての研究所を視察された陛下だったが、疲れた様子も見せずに長椅子で甘いホットチョコレートを元気に飲んでいた。


「まったくもって驚いた。こんな秘密を持っていたとはな……」

「陛下、私に反逆の意図などはございません」

「そんなことはわかっている。お前がその気なら余はとっくに死んでいるさ」

「陛下!」

「わかっておる、ほんの戯言だ。それにしても取り扱いの難しい施設であるな……」


 もうね、いろんな技術の特異点が詰まった場所になってるもんね……。


「普通の皇帝ならいっそレオを殺して……と考えるところだぞ」

「勘弁してください」

「余が賢帝で助かったな。そうでなければ壮絶な命の取り合いになっているところだぞ。物量 対 技術のな」


 そうなんだろうなぁ……やっぱり。


「我々が平和にやるためにはここのことは極力秘密にして、建前上は余の直轄施設ということにしておくのがいいのかもしれん」

「そうですね。私は研究ができればそれでかまいませんので」

「うむ。それにしてもレオは欲がないのぉ。その気になれば世界のすべてを手にいれられるのではないか?」

「それが幸せに直結するとはとても思えません」

「それはそうだ。版図が広くなればなるほど余は不幸になっている」


 陛下が言うと言葉の重みが違うな。

ふいに陛下が少し悲しそうな目つきで俺を見つめてきた。


「レオ、余の次に皇帝をやってみる気はないか?」


 いきなり何を言い出すんだ!?


「なんということをおっしゃるのですか!? それこそ内乱が起きますよ。それに私はシリウス殿下が大好きですからね。殿下が帝位をお継ぎになれば、それを盛り立てていく所存です」

「シリウスは少々頼りない一面もあるが、レオがシリウスに付くなら、あれの治世は盤石だな」


 どことなくホッとした顔で陛下がつぶやいた。


「殿下は頼りないところなんてございません。それから、次世代が楽できるように陛下はなお一層頑張っていただかなくてはなりませんよ」

「ふむ……」


 その晩の俺は義理の父親になる陛下にすべてを暴露して、少しだけ気持ちが軽くなる思いだった。

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