第125話 柚子風呂と水風呂
ドアを開けるとそこは脱衣所になっていて、赤石の壁に大きな鏡がかけてあった。
「人は誰でも自分の体をチェックしてみたがる生き物でございます。さあ、レオ様もご自分のお身体を映してご覧ください。アリスもそっと見守りますので」
「いや、着替える時は向こうを向いていてよ」
「相変わらず照れ屋さんでございますね。すでにレオ様のことなら隅から隅まで知っている私に今さら隠しても……」
手動でメモリー消去できないかな?
裸とスクール水着の映像は何としても消したいんだけど。
「いいからあっちを向いていてくれ。そうじゃないと着替えられないよ」
「承知しました。私もレオ様の後ろで着替えておりますので、お気軽に振り返ってくださいね」
「ふりかえるもんかっ!」
壁の方を向いて立つと、後ろの方でシュルシュルと布のこすれる音がしだした。
アリスが服を脱いでいるのだろう。
俺もさっさと着替えてしまおう。
一気に服を脱いで、マリンブルーの水着に足を通す。
ぴっちりとしているんだけど、太もも周りの締め付けは丁度良く、俺のサイズにぴったりだった。
「いかがですか? 窮屈ではございませんか?」
「うん、いい感じ」
「それはもう、レオ様のことなら隅から隅まで存じておりますので……」
言い方がちょっとエッチだぞ……。
「私も着替え終わりましたので、もう大丈夫ですよ」
そういえばアリスはどんな水着にしたのだろう?
きっと自分用に特別かわいいのにしたのだと思うけど……。
「うわあっ!」
「気に入っていただけましたか?」
アリスが着ていたのはレベッカと同じ型の小さなビキニだった。
色は白で、まるでレベッカの黒と対をなしているような感じだ。
「お気づきになられたようですね。ボリュームでは勝てないのでレベッカ様と二人で一つという趣向にしてみました。ご堪能いただけるとよろしいのですが」
「ご堪能って……知らないよ……。俺はお風呂に行くからね」
目のやり場に困って、逃げるように扉を開けた。
浴室は食堂並みに広かった。
大理石でできた円形のお風呂は素晴らしく、ちょっとトロっとした感じのお湯が溢れている。
「おお、浴場も広いな。これならゆったりと浸かれそうだ」
「はい、皆様で入っても大丈夫の設計になっております。今のうちに最後の仕上げをしてしまいましょう」
「仕上げ?」
「フェロモン香水EXを一滴、お湯に混ぜるのでございますよ。今夜はパーティーナイトでございます。私もモード・ビッ――」
「ダメだからねっ! あれは本当に危険なアイテムなんだから」
「たしかに、発情した死神に殺される危険性はございますが、気持ちよく昇天できるかと……」
「昇天じゃなくて召天じゃないかっ! それにヤギと鶏の時みたいに皆が喧嘩を始めたらどうする? 収集がつかなくなるぞ」
「キャットファイトでございますか!」
「やめてくれ。せっかくの温泉が血の池になってしまう」
「……それは掃除が面倒そうですね。では取りやめにしておきますか。残念ではございますが」
ふと、俺はいいことを思い出した。
「どうせ入れるのならこれを入れようよ」
亜空間にしまっておいたそれをアリスに手渡す。
「まあ、柚子(ゆず)でございますね。どこでこれを?」
「先日、たまたま召喚したんだ」
####
名称 柚子(マンジ村産 特級品)×100
説明 ヤマト国で獲れる柑橘類。皮、果汁ともに料理に使うことができる。爽やかな香りと酸味で利用価値が高い。お風呂に入れてもよい。
効果:リラックス度アップ 美肌に 素早さアップ
####
「特別な物のようですから、種は取り除いてデカメロン準爵に育てていただきましょう」
「それはいい考えだね。エバンスなら喜んで挑戦してくれるよ」
帝都に行ったら忘れずに渡すことに決めた。
「それでは、こちらの小さな浴槽に20個ほど投入します」
大岩をくりぬいて作った浴槽にアリスが柚子を入れている。
こちらに背を向けて小さなお尻を突き出して……。
きっと見られていることに気づいて、小さくおしりを振っているな。
やばい、体が熱くなってきた。
「もういい~?」
最悪のタイミングで脱衣所の方から声がして、レベッカたちが入ってきた。
な、何とかしなければ……、ん? あれは!
「レオ様、そちらは水風呂ですよ。サウナの後に入るための浴槽で――」
アリスの説明を最後まで聞かずに小さな浴槽へと飛び込んだ。
「つ、冷たいね」
「自律神経の調整や、毛穴を引き締めるための浴槽ですので」
自律神経の……それはありがたい……。
「うわー、広いお風呂!」
「うん、試合ができそうなくらいだな」
俺が水風呂へ入るとすぐにレベッカたちも浴室へと入ってきた。
「カンパーニ殿、失礼します」
顔を赤らめながらララミーが手で胸を隠して挨拶してくる。
とても隠しきれるボリュームじゃなくて谷間とかが完璧に見えてしまっているよ。
全体的にとっても柔らかそうな体つきだ。
ララミーだけじゃなく、レベッカは相変わらずかわいかったし、アニタもスレンダーでとてもきれいな胸の形をしていた。
「レオ様、そろそろ上がりませんか? 風邪をひいてしまいますよ」
挑発するような目つきでアリスが俺を見おろす。
その姿さえ目の毒だ。
肩幅に足を開き、腰に手を当てるポーズをとっているのはわざとだな。
「もう少し待ってくれ」
「承知いたしました。次からはもうワンサイズ上の水着をご用意いたしますね」
見透かされているか……。
はしゃぐアリスたちを横目に、俺はしばらく水風呂から出ることができなかった。
長い一日が終わろうとしている。
自慢ではないのだけど、俺の体力はチートアイテムのおかげで無尽蔵だ。
だけど、今夜はお風呂の一件でどっと疲れが出てしまった。
そのくせ興奮してしまったのか眠れそうにない。
アリスは皆が同じ寝室で寝ることを主張したけど、それだけは断った。
このままだと俺の理性が持たないというか、理性は持つけど確実に辛い状態になるからだ。
「失礼します。もうお休みになられましたか?」
アリスが書類の束を抱えて部屋に入ってきた。
「いや、まだ眠れそうにないよ」
「それはちょうど良かったです。こちらに目を通していただこうと思いまして」
アリスが持ってきたのはバルモス島で雇い入れた研究員の履歴書だ。
研究履歴やどういった学問を専攻しているかなどが書かれている。
また論文などもあるようだ。
「これは読みごたえがありそうだね。一晩はかかりそうだ」
「レオ様なら徹夜でも平気でしょう? 私もサポートしますので頑張ってください」
「それはダメ」
アリスは驚いたように不平を漏らす。
「なぜでしょうか? 私も魔石さえあればお付き合いするくらい――」
「アリスは亜空間でメンテナンスをしなきゃ。ここまでバルモスを発展させたんだ。かなり無理をしたんだろう?」
俺はアリスの頭をなでた。
アリスはこうされることが好きみたいで、子どものようなところがある。
「ありがとう、アリス。感謝しているよ」
「う~……、でしたらレオ様も亜空間の中で書類に目を通してください。少しでも一緒にいたいです」
「うん。じゃあ、そうしようか」
俺たちは書類の束を抱えて亜空間の中へ入った。
ここには机やベッド、お茶や軽食の準備さえ整うので仕事をするのに困ることはない。
俺がソファーに腰かけると、アリスも隣に来て、当然のように俺の膝に頭をのせた。
「ちょっとくすぐったい……」
「心のメンテナンスにとってはこちらの方が効きますので」
「そっか。じゃあ好きにしていいよ」
それ以上は何も言わずにアリスの好きにさせて、俺は山のような書類に目を通し始めた。
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