第124話 完成した領主館
館は美しい庭園を前にした瀟洒(しょうしゃ)な作りになっていた。
前庭にはバラを中心としたさまざまな花が植えられ、ブドウの樹は大粒の房が実をつけている。
建物は木と数種類の石を巧みに配置して落ち着いた鮮やかさを見せていた。
「お部屋にご案内いたしますが……、レオ様の部屋のベッドは特別大きなキングサイズにしてございます。やっぱりアリス、五人で寝ても大丈夫、でございますよ」
「一人で寝かせてくれないかな?」
「あのですね、側室を四人連れてきているのでございますよ!」
「だから?」
「全員と同衾(どうきん)するというのが正しい漢の在り方ではございませんか?」
全然違うぞ。
「みんな婚約者ではあるけど、まだ側室じゃないからな」
「それは些細なこと……」
「部屋ならたくさんあるのだから、そっちを使ってもらえばいいじゃないか」
「はぁ……しばらくお会いしない間にレオ様は変わってしまわれましたね」
またそれか。
「ちっとも変わってないよ。アリスもまったく変わっていないけどね。とにかく別々の部屋を用意してくれ」
「……承知いたしました」
もっとごねるかと思ったけど、アリスはあっさりとみんなの部屋を用意していた。
夕飯はバルモスの海の幸を堪能した。
各地で引き抜いたという料理人たちはいい腕をしていて、出される料理の全てが美味しかった。
これは俺の意見だけじゃなく、高級な料理を食べなれているレベッカやアニタ、ララミーも同意見だった。
特にカニと温野菜のカクテル、魚介のムースなんかは絶品だった。
「これらの料理はいずれ完成するホテルで提供する予定でございます」
「これならお客さんも満足してくれるだろうね」
「ええ、宮廷で食べる料理と比べても遜色(そんしょく)ないわ。素材が新鮮な分、魚介などはこちらの方が美味しいとさえいるんじゃない?」
味にはうるさいレベッカが言うのなら間違いないだろう。
「皆様、お食事はおすみになったようでございますね? 続きまして本日のメインイベントに移らせていただきます」
アリスが畏まってお辞儀している。
こういう時はろくでもないことを考えているのが常だ。
「メインイベントってなんだよ?」
「食後の決闘か?」
「問題外でございます」
「ショーでも見せてくれるの?」
「レベッカ様、それはいずれ。今はまだ劇場も完成しておりませんので」
やけにアリスがもったいをつけているな。
「だったらなんなんだよ?」
「もう、わかっているくせにぃ……。温泉でございますよ」
そういえばここはスパリゾートだったな。
「もう温泉がでたの?」
「はい、最初に手を付けたのはそこですから。大きな大理石のお風呂や、ジェットバス、洞窟風呂なんていうのも用意してございます」
なんにせよ広いお風呂というのはありがたい。
「じゃあ寝る前に使わせてもらおうかな」
「はい。それでは準備をしましょう。ねっ、レベッカ様……」
アリスがレベッカへ意味深な視線を投げかけた。
そう、俺とレベッカとアリスはかつてここで一緒に露天風呂に入るという、とんでもないことをやらかしている。
「な、何よ? なんで私の方を見るの?」
「お風呂と言えばレベッカ様じゃないですか。またご一緒にレオ様のお背中を流して差し上げましょう?」
「っ!!!!」
「アリス! 今日は一人で入るからな」
「どうしてでございますか? 久しぶりに控えめなエロスを堪能していただこうと思ったのに」
全然控えめじゃないぞ!
胸の大きさはエロスの多寡(たか)に影響しない。
俺は身をもって知っている。
小さい方が悩ましい時だってあるんだからなっ!!
……………………。
いや……、興奮して頭がおかしくなっていた。ここは落ち着かないと。
「アリス、俺は落ち着いて一人でお風呂を楽しみたいんだ。それにそんなことを提案されてもレベッカだって困るだろう?」
そう言って、チラッとレベッカの方を見ると、何やら小声でアニタやララミーと言い争っていった。
「レオと風呂に入ったとはどういうことだ!?」
「別にいいでしょう! それだけ私たちが深い仲ってことよ。私はレオに愛されているんですからね!」
「抜け駆けはよくありません、メーダ将軍。私たちは同じ側室として平等な待遇を望みます」
「その通りだ、根暗魔女。チビ助に先を越されるなど許されん話だからな。レオ、覚悟しておけ。今夜は裸で勝負だ」
アニタは何かをはき違えていないか?
風呂というのはもっとこうのんびりと……。
「私もご一緒します……。お風呂に薬湯を混ぜてもいいのかしら? あれがあればカンパーニ殿も私のことを……」
ララミー……、温泉に魔法薬を混ぜる気かい?
「これもお家の安泰を守るためとお覚悟ください。側室は平等に扱わなければなりませんよ」
アリスが小さな胸を張って説教めいたことを言い放った。
根本的に違う気がするんだけど、一緒に入らないというのはアニタやララミーが納得してくれそうもない。
レベッカだけが特別扱いというのが気に入らないみたいだ。
ということは今夜は皆でお風呂に……そうだ!
「だったら一つ提案がある」
「妥協できるラインなら……」
「せめて、水着を着てくれないかな? やっぱり結婚前に裸でお風呂というのはちょっと……。フィルもいないことだしね」
水着なら、以前アリスが作ったものが亜空間に放り込んだままだ。
「たしかに正妻を差し置いてのお楽しみは後々に禍根を残しかねません。ですがお風呂に水着などという邪道は……」
「これが俺の示せる一番の妥協案だよ」
「水着を着ていれば、お風呂じゃなくて温水プールでございますか……。姑息(こそく)な言い訳という気もしますが、まあそれでもいいでしょう」
なんでそんなに偉そうなんだよ。
「私はそれでもかまいませんよ。裸を見られるのはまだ恥ずかしいですので」
ララミーがそう言いだすと、皆も俺の妥協案に賛成してくれた。
「では、レオ様、私が作製した水着を出してくださいませ」
最終的にアリスも納得したので、気が変わらない内に水着を取り出す。
「やっぱり小さいよねこれ。着ている方が恥ずかしいくらい……」
以前にも見たことがある黒の極小ビキニを取りながらレベッカが俯いていた。
「ほう、これは動きやすそうだ」
切れ込みの入ったハイレグをピラピラとさせながらアニタも感想を漏らしている。
そんな中で一番戸惑ってみたのはララミーだ。
「な、なんですかこれは……」
「海老茶色のビキニでございます。ララミー様は地味な色がお好みでしょう?」
「そうだけど、これでは胸とお腹とお尻が目立って……」
「大丈夫でございますよ。ララミー様の魅力は地味なキャラにそぐわぬダイナマイトボディー。これさえ身につければ、今夜のレオ様は止まれません!」
「そうかしら……じゃあ……」
納得しちゃうの⁉
いや、本当に自分を抑制できるかわからなくなってきた。
もうこうなったら、ここを脱出してマシュンゴのところへでも行くか?
「さて、そろそろ参りましょうか」
俺の気持ちを読み取ったのかアリスに右腕をがっちり掴まれてしまった。
「逃亡は死刑だぞ」
左手はアニタ!?
これではさすがに逃げられない。
「さあ、レオ様もこれに着替えてください」
にっこり笑いながらアリスが俺に差し出してきたのは、マリンブルーをした、ぴちぴちの水着だった。
「なんだ、これ!?」
「ブーメランパンツですよ。レオ様の魅力が最大限活かされるようなデザインにしてみました」
「これを穿くのか……?」
「お嫌でしたら裸でも構いませんよ」
それはもっと困る。
って、俺に注目が集まっている!!
「なんだよ?」
「べ、別に……。私たちは後から行くからレオが先に入っていなさいよ」
レベッカだってあれを着るんだから、俺ばかりが恥ずかしがっても仕方がないか……。
「さあ、参りましょう! 領主館の特別バスルームへご案内いたします」
はあ……、気持ちを切り替えていこう。
俺はお風呂に行くんじゃない。温水プールで体を洗うんだ!
「それじゃあ、お先に……」
運を天にまかせて、バスルームへと向かった。
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