第106話 マシュンゴの手紙
いい機会でもあったのでフィルはこのままカルバンシアに三泊することになった。
この期間に各種の決済をだし、事務仕事を一気に進めるのだ。
俺は許可を貰ってバルモス島へ行くことにした。
島の開発のこともあったけど、マシュンゴに頼んでいたマジックライフルの部品が気になっていたのだ。
カルバンシアの防備を固めるためにも、新たなライフルの製造が急がれた。
スカイ・クーペが着陸するとマシュンゴの子どもたちが駆け寄ってきた。
「ご領主さま~!」
三人とも少し髭が伸びたような気がする。
ドワーフは成長の遅い種族で、身長もゆっくり伸びていくそうだ。
その代わり女の子にも髭があり、そちらの方はピンピンと伸びていく。
「久しぶり、また少し髭が伸びたんじゃない?」
この挨拶はヒト族で言うところの「また少し背が伸びたんじゃない?」と同義だ。
「エへへっ!」
今日のお土産はお酒ではなくて、召喚したての缶詰だ。
中身は「おでん」という異世界の食べ物が入っている。
ドワーフは金属でできたものが大好きなので、思った通り大喜びしてくれた。
「これは何が入っているの?」
「どうやって開けるの?」
「鉄の筒にどうやって食べ物を詰めたの?」
次々と質問が飛んできた。
「それはフルオープンエンドと言って独特の開け方があるんだ。後でみんなの前でやってみせるよ」
小屋の後ろの方からカンカンと金属を叩く音が響いている。
きっとマシュンゴと奥さんが仕事をしているのだろう。
スカイ・クーペの着陸にも気がつかないほど集中しているに違いない。
「こんにちは!」
大きな声を上げながら裏手に回ると、マシュンゴたちは笑顔で俺を迎えてくれた。
「これはご領主様、いいところへ来てくださいました。頼まれていた品が一昨日できあがりましてな」
マシュンゴは依頼しておいたマジックライフルの部品を仕上げてくれていた。
マシュンゴに頼んだのは4点だけど、どれも精密な仕事をしてくれてあった。
専用のはかりで計測しても誤差はほとんどない。
「いい仕事をしてくれたね。さすがはマシュンゴだ」
「これくらいのこと、ドワーフにとっちゃ朝飯前でさぁ」
口では謙遜していたけどマシュンゴの髭がピクピクと揺れている。
ドワーフは嬉しい時にそうなるらしい。
マシュンゴの髭だけじゃなくて奥さんや子どもたちの髭まで同じようにピクピクしていたのが微笑ましかった。
「それにしてもご領主様、これはいったいなんの部品なのですか?」
マシュンゴだけではなく、各部品を作っている職人たち全員とも自分が何を作っているのかは知らないのだ。
「ごめん。前にも言ったけど詳しくは言えないんだよ。武器となる魔道具の一種としかね」
マジックライフルの全貌を知る者は少ない。
組み立ては俺とアリスとララミーのみでやっているし、設計図だってこの三人の他はフィルと皇帝陛下しか見たことがないのだ。
ライフルの現物だって、カルバンシアではバルカシオン将軍の執務室の金庫に入れてあるくらいだ。
ライフル兵のエルバ曹長は訓練や有事の際は、バルカシオン将軍に銃を手渡してもらわなくてはならないくらいの厳重さだった。
「まあ、ご事情があるのはわかりやすがね……。ご領主様、もしよかったらあっしの知り合いにここへ来るように声をかけてもようございますかね?」
「マシュンゴの知り合い?」
「ええ。あっしのように土地を貰えて、面白いものを作らせてもらえるのなら、ここへ来たいという連中は多いと思うんですよ」
それは俺にとってもいい話だ。
ドワーフたちがいてくれればバルモス島での開発も進むから秘密も漏れにくいし、いろいろな実験もできそうだ。
「それって前に話した新しい合金とかの開発も協力してくれるってことかな?」
「それでさぁ! あっしは早くそれがやりたくてうずうずしているんで! ご領主様ぁ、早くぅ!」
いや、マシュンゴに早くぅとか言われてもちょっと……。
フィルにだったら嬉しいんだけど……。
でも、俺としても様々な研究はすぐにでも始めたいのが本音だ。
「わかった。じゃあ、マシュンゴは知り合いに手紙を書いてよ。俺はそれを配達に回すから」
「了解でさぁ。腕のいい奴らに声をかけておきます!」
こうして、マシュンゴが仲間に声をかけてくれることになった。
曰く、
鉄に憑かれた馬鹿野郎どもへ
バルモス島で面白いことが起こる。ドワーフなら一世一代、命を懸けてでも参加すべき仕事だ。お前らの見たこともねぇ金属や道具が生まれるかもしれない。興味のある奴は1か月後の〇の日、ルプラザ港へ来やがれ。ちなみに酒と食い物ならたっぷりある。ここのご領主様は俺たちにいい夢を見せてくれるぞ。人生を楽しみたい奴はバルモス島へやってこい!
〇〇時に第三埠頭でお前らを待ってるぞ。
マシュンゴ
「こんな手紙で人が集まるのかな?」
「なに、これを読んで来ないやつはドワーフじゃありませんぜ!」
そんなもんなのか?
同じ手紙を30通くらい用意して配達ギルドに託すことにした。
お土産の「おでん」は好評だったのだが、マシュンゴたちにとってはフルオープンエンドの蓋の方がよっぽど気になったみたいだ。
「なんで金属の蓋がこんな風に……」
「アンタ、同じものが作れるかい?」
「わからん……開口部のところに溝が彫ってあっただろう、あれの深さが問題だな」
「そうだね、あんまり薄過ぎたら筒の密閉性が薄れちまうからねぇ……」
ドワーフ夫婦は缶に夢中のようだ。
「また、似たような物が召喚できたら持ってきてあげるよ」
空き缶を皆で眺めるドワーフ家族に別れを告げてスカイ・クーペを発進させた。
あんまり期待はしていないけどバルモス島の島民が増えたら嬉しいな。
もっとも増えたら増えたで食料や家畜なんかの手配も必要になってくる。
工業と同時に畑の開発もしてもらわないといけないな。
ありがたいことに鋤や鍬などの開墾用の道具は自分たちで作り出せるだろうから、そこのところだけは心配はいらない。
上空からみるバルモス島の景色に名残を惜しみつつ、今度はレベッカのところへ向かった。
通信機を使ってアリスに連絡を取った。
「アリス、レベッカたちの現在地を教えてくれ」
(妾宅巡り、お疲れ様でございます)
言い方よ……。
(判明しました。座標をスカイ・クーペのナビゲーションシステムに転送します)
「ありがとう。データ受信を確認」
(レオ様……)
「どうしたの?」
(脳筋ロリでございますが、だいぶイライラしていらっしゃるご様子です)
「どういうこと?」
「ほら、レベッカ様の率いる部隊は新設の寄せ集め集団じゃないですか」
身も蓋もない言い方だけど、それは事実でもある。彼らは土木作業経験者の寄せ集めであって軍人としての経験は浅い。
(行軍速度が上がらないようでして、行軍日程がずれ込んでいるのでございます。まして、レベッカ様は将軍位に就かれたばかり。緊張することも多いのかと存じます)
大部隊を率いれば、俺には想像もつかない苦労もあるのだろう。
「ありがとう、アリス。気を使ってくれてありがとう」
(いえいえ、レベッカ様の心と体をじっくりと解きほぐしてあげてくださいませ)
やっぱり言い方が気になるよ……。
「まあ、フォローは試みてみるさ」
(それでは、今晩のご予定は妾宅にお泊りということでよろしゅうございますか?)
だから言い方よって!
「そうは言ってないって」
「では、どうされますか?」
「未定ということで」
変な期待をしているわけじゃないぞ。
ただ、レベッカの様子によっては長めに逗留しようと思っているだけだ。
他意はない。
ほんとだぞ……。
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