第97話 マジックライフル
会議室で新規に賜った開発資金を手渡した。
亜空間に入れっぱなしになっていたけど、自分のじゃない大金を持ち歩くのは気疲れするので肩の荷が下りた気分だ。
「リョウシュウショくださーい」
アリスは何故にカタコトなんだよ?
でも受け取りは必要だよね。
「砦の修復もあと僅かのようで安心しました。フィリシア殿下も皆さんに感謝しておりましたよ」
城壁の修復は完全に終了して、砦の修繕も残すところは少ない。
「ご褒美のご馳走を預かってきております」
フィルから預かったインベントリバッグを見せると出席者に笑顔が広がった。
宮廷調理人アントニオさんの傑作料理が詰まっているのだ。
みんな喜んでくれるに違いない。
「せっかくの殿下のお心遣いだ。今夜は晩餐会にしようではないか。だが、その前に済ませるべきことを済ませておかないとな」
将軍が促してくれたので話が進みやすくなった
。
「みなさんももうお聞き及びかと思いますが、こちらが北部侵攻作戦の概要となります」
俺は陛下の署名入りの命令書を将軍に手渡した。
アリスは作戦の概要をプリントしたものを出席者に配ってくれる。
「国境を20キロ北へ押し上げるか……。なかなか大変だな」
命令書を睨みながら将軍が呟いた。
「場合によっては30キロになる可能性もあります」
測定をしてみなければわからないが、ある一定以上まで空気中の魔素濃度が上がってくれないと人工魔石は作れない。
少しでも緯度が上がればそれだけ有利にはなるのだ。
「増員があるとは聞いているが、城壁を作りながらの防御となると大変だぞ」
「はい。工兵に関しては今週中にメーダ将軍が率いる新設部隊が帝都を出発します。雪が解ける前に着工はできるでしょう。また、今回はスルスミとララミー・ドレミー殿にはカルバンシアに残ってもらうつもりです。スルスミがあれば建設と防御の両面で役に立ちますから」
スルスミの現場投入は嬉しかったようで担当文官が満足そうに頷いている。
武官たちもどこかホッとした表情だ。
「それから、今回はドレミー殿と新型の兵器を考案しました」
俺は亜空間から新兵器を取り出した。
これは召喚アイテムではなく俺とララミーで開発し、試作したものだ。
二メートル以上ある筒形をしていて、三脚の台座にのせられている。
重量は15㎏以上あってかなり重い。
「これは……」
出席者全員が不思議そうに筒を眺めていた。
「将軍はマジックアローという魔法をご存知ですよね」
「もちろん知っている。魔力エネルギーを鋭利な状態にして敵にぶつける無属性の魔法だ」
「その通りです。この武器は魔石から魔力を取り出し、大型のマジックアローを撃ち出す兵器なのです」
出席者全員が困惑していた。
これまで魔石が武器に利用された歴史はほとんどないからだ。
魔石はその特性上、軍事利用は難しいとずっと考えられてきていたのだ。
説明しよう。
この世界において魔石というのはゆっくりと小さなエネルギーしか取り出せないものだった。
つまり短時間で高出力のエネルギーを得ることができない物質だったのだ。
現行では一番出力の高い魔道具は魔導機関車だろうが、あれも複数の火炎魔法でお湯を沸かし、蒸気の力でタービンを回している。
魔力だけで直接タービンを回せるだけのパワーを得られないからなのだ。
かつては複数の魔道具を組み合わせて魔導砲という兵器を作り出そうとした研究者もいたようだが、装置があまりにも巨大で、エネルギー変換効率も悪すぎるために、実用には堪えられない代物だったらしい。
魔石というのはゆっくりと長くエネルギーを取り出すものという考え方が次第に定着していき、魔石を利用した武器を作る人はいなくなった。
だけどさ、俺の道具はどうだろう?
ホバーボード、ライトブレード、極めつけはアリス、みんな魔石を動力源にしている。
つまり魔石というのは高出力を可能とするものなのだ。
そして『魔導大全』の中に俺はその答えをみつけた。
魔石にある波長の魔力波を当てるとエネルギーが増幅するわけだけど、詳しいことは割愛する。
とにかく俺とララミーはこの理屈を応用して新兵器を開発したのだ。
「これは魔導ライフルと名付けました。出力はこの城にもあるバリスタの三分の一ほどですが、一人ないし二人で運用することができます」
これは結構すごいことだ。
ここで、この世界の遠距離攻撃武器について少し触れたい。
ざっくりとした説明になるんだけど、ここにおれの拳銃ニューホクブがある。
発射までの簡便さや連射の速度などで大変使いやすい武器だ。
剣や槍を持った兵士を相手にするなら圧倒的に有利だろう。
だけど威力という点においては魔法兵の魔法攻撃には劣るし、射程距離も魔法の方が長かったりする。
もっとも射程距離を言ってしまえばニューホクブは弓矢よりも劣るんだよね。
放物線を描いて飛んでいく矢はニューホクブの弾丸よりも殺傷能力を失わないまま遠くへ飛ぶ。
このように武器には一長一短があったりする。
次に貫通力はというと梃子で弦を引き、大型の矢を撃ちだすバリスタが一番でかい。
ただしバリスタは射程が短く、長距離攻撃は投石器(カタパルト)が一般的だ。
拠点防衛には錘の落下運動を利用した投石器が用いられている。
(バリスタや投石機の重りを巻き取る機械に魔石が利用されることはある)
国境を守る城壁の上には固定型の投石機がいくつも設置されているんだ。
もっともこいつは大きすぎて移動できないという欠点もある。
ということを前提に今回の魔導ライフルを見てほしい。
貫通力はバリスタに及ばないものの、普通の魔法攻撃以上の威力を持っている。
射程は投石器と同等。
連射に関してもバリスタや投石器よりも早く、弓矢と大して変わらない。
しかも運用は二人いれば事足りる。
まさに画期的な兵器なのだ。
「と、このように非常に運用が容易い武器となっております。欠点としては魔石を規格に沿って削り出さなければならない点です。これには専門の職人を育てる必要があります。また、一回の発射につき魔石が一つ必要になるので、それなりの出費を覚悟しなければなりません」
俺が説明を終えると会議室が静まり返った。
静寂を破ってバルカシオン将軍が重々しく口を開く。
「見せてもらおうではないか。カンパーニ卿の新兵器の実力とやらを」
アリスが何か言いたげな顔をしたが、黙ったままだった。
俺たちは国境線を睨む城壁の上へと出た。
この一週間は魔物の襲来もなく、雪原には足跡も見えないで、凍てつく雪に美しい風紋がついている。
「あちらの木を狙ってみましょう」
100メートル以上離れた場所に生えているヒバを指さした。
周りに他の樹木はないのでわかりやすくていいだろう。
狙撃手はアリスが務めてくれる。
「アリス、なるべく根元を狙って。後で資材として使えると思うから」
「承知しました。衛星との情報リンクがない銃ですがやるだけのことはやってみましょう」
アリスはGPSで目標との距離を瞬時に調べ、風速を測った。
ボルトアクションで削り出した魔石をライフルに込める。
固唾を飲んで見守る中、小さな銃声が響いた。
「シュッ!」
「ピシッ!」
かなりの距離があったにもかかわらず、マジックパレットが木を貫通する音が聞こえた。
望遠鏡をのぞいていた将軍たちが唸り声をあげている。
「素晴らしい威力だ。この武器がそろえば防御はかなり有利になるぞ」
「これはまだ試作品ですが、春までには最低5丁は用意したいと考えています」
照準をつけるためのスコープや軽量化など、もう少し工夫したいこともある。
「5丁か……、正直に言えば最低50丁は欲しいところだな」
そうなんだよね。
「実は陛下に製造法は秘匿するように釘を刺されているのです。将軍にさえ製造場所を明かせないくらいでして……」
部品の一つ一つを違う場所に発注して、組み立ては俺とララミーとアリスでやったくらい気を使っているのだ。
製造スピードはどうしても遅くなってしまう。
「なるほどな、致し方ないところもあるか……」
「とにかく製造は急がせます。将軍は魔石の削り出しをする職人を探していただけませんか?」
カルバンシアは魔石が豊富だし、こちらで職人を探した方が輸送の手間がなくていい。
「承知した。職人を探してみるとしよう」
まもなく帝都での日々は終わる。春まだ遠い寒さだけど、雪解けの日は確実に迫っていた。
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