第52話 列車でGO!
帝都ブリューゼルに戻ると、フィルと俺は皇帝陛下に謁見した。
「フィリシア、レオ・カンパーニ、両名ともよく戻ってきた。今宵は晩餐会があるゆえ揃って出席するがよかろう」
「陛下のお心遣いに感謝いたします」
陛下の寛大なお言葉に二人で頭を下げる。
俺の身分では宮廷晩餐会に出席することはできても、フィルと同じテーブルにつけるほどには偉くない。
それに俺としては内心ドキドキだ。
だって、フィルと俺はもう関係を持ってしまっているんだよね。
気をつけてはいたけど秘密が知られていないかと焦りまくっている。
「時にカンパーニ卿、そなたの功績は聞き及んでいるぞ。国境線を守る城壁の修復、魔物の撃退、新種のジャガイモの普及に、小型魔道鉄道の導入及び林業の発展か。短い期間によくぞ成果を出した。今回は200ポイント与える」
出た!
陛下の謎ポイント。
今日こそは何ポイントでフィルとの結婚を許してもらえるか聞いてみたい。
「ありがたきお言葉」
ここで更に陛下にプレゼントを渡してポイントアップを図ってみるか。
実はすごい物を召喚できたんだよね。
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名称: 名人の手による鉄道模型 豪華寝台特急付き
種類; オリジナル鉄道模型Yゲージ
説明: 魔導鉄道模型の神様 原鉄太郎氏によるオリジナル模型。ヤマト国を走る本物の鉄道模型を忠実に再現するのみではなく、ジオラマを含めた一つの世界として芸術にまで昇華されている作品。中でも豪華寝台特急は原氏の夢が詰まったオリジナルの車両であり、魂を込められた部品の一つ一つまでが精緻を極めている。
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電車だけじゃなくて異世界の街並みやプラットホームなどを歩く人間だってとってもよくできている。
これなら陛下も気に入るはずだ。
全体の大きさは床面積で100平米を軽く超える程大きいのでフィルのインベントリバッグに入れてもらってきた。
俺が謁見の間に召喚してもいいのだけど、能力を全て開示するのは躊躇われるんだよね。
いいようにこき使われるのは嫌なのだ。
「陛下、この度カンパーニ卿が面白いものを召喚することに成功いたしました。是非陛下にもご覧になっていただきたいのですが」
フィルがそう言うと陛下は関心をもったようだ。
「ほう……。それはここに有るのか?」
「少々大きいものでございまして、陛下より貸与されているインベントリバッグに入れてまいりました」
「ふむ。見せてもらおうか」
普通なら皇帝陛下の御前でバックから品物を取り出すなんてことはできない。
安全上の理由からだね。
武器や毒薬なんかが出てきたら大変だから。
これはフィルが皇女だから特別に許される振る舞いなのだ。
それでも陛下を守るロイヤルガードと宮廷魔術師たちが僅かに緊張したのを俺は見逃さなかった。
のんびりしていたのは取り出す品物を知っているアニタくらいのものだ。
「少々大きな物になります。皆さま、場所をお開けください」
フィルが陛下の前から後ろに下がり、文武百官も壁際に寄った。
「どうぞご覧ください。これが異世界の情景です」
フィルがインベントリバッグを開放すると、謁見の間の真ん中に大きな魔道鉄道模型が現れた。
石造りの駅舎、それに続く町、町から離れれば山や川などの自然も溢れており、そこには人々の暮らしも見事に再現されている。
「こ、これは……」
思わず陛下が立ち上がった。
大臣たちもよく見ようと模型の周りに集まってくる。
その瞬間を見逃さずに俺はコントロールボックスのスイッチを入れた。
街灯に明かりが灯り、動き出す列車は鉄道の音までも忠実に再現していた。
さすがは神と呼ばれた人の作品だけある。
「カンパーニ卿の前にあるモノはなんだ?」
「はい。これで電車の運行を調節し、街の灯りを操ることができます」
グイグイと近づいてくる陛下にコントロールボックスの前を譲り、操作法を説明していく。
陛下はすぐに列車を動かし始めた。
いつの間にか建設大臣や経済大臣、軍務大臣、技術局の局長などが俺の後ろに集まっていて次々と質問を浴びせてくる。
「カンパーニ卿、この三色の灯りはなんなのだ?」
「信号と申すもので、自動車の発進と停車を指示するための魔道灯だそうです」
「これは、これはなんなのだ?」
「レールの切り替え装置ですね」
「こちらの橋は開閉式というのか!? 動力は人力ではなく魔力だと?」
「はあ。それにより船と列車の両方が通行可能となるそうです」
尽きない質問に何とか答えながら、タイミングを見て俺は切り出す。
「実は、魔導模型はこれが全てではございません。まだお見せしたいものがございまして」
目を爛々とさせながら模型を観察していた陛下がこちらに視線を向けた。
うっ!
思わず身じろぎしてしまうほどの迫力だ。
「カンパーニ卿、遠慮いたすな。早く出すがよい!」
陛下は興奮を隠そうともしない。
他の皆も固唾を飲んで俺とフィルを見つめている。
「ははっ。フィリシア殿下、運転台を」
「ええ。この辺りでよろしいでしょうか?」
フィルが指し示した場所を見て俺は頷く。
インベントリバッグを開放すればそこに現れたのは模型車両を動かすために作られた、本物そっくりの運転台だ。
計器類も本物と同じで、しかも運転車両の車載カメラのおかげで運転台の窓には模型のジオラマが映し出される仕組みだ。
まるで自分が車両に乗って運転しているような臨場感が楽しめるぞ。
「これは!」
「陛下のお手ずから動かしてみませんか? こちらの運転台で操作した方がより楽しめるはずです」
「うむ」
操作法はマニュアルを読んで理解していたので陛下にレバー操作の仕方などを説明した。
陛下は熱心に説明を聞き、運転台と鉄道模型の概要を頭に入れているようだった。
30分ほど陛下は熱心に模型を操作し、それからおもむろに立ち上がった。
そして俺を無言でじっと見つめてから口を開く。
「してカンパーニ卿、これらの模型をどうするつもりかな?」
「はい。もちろん陛下に献上するつもりで持ってまいりました」
ここでポイントを稼いでおかないとね。
「さようか……」
陛下はそう呟いてからしばらく目を閉じた。
何を考えているんだろう?
「レオ・カンパーニよ」
「はい」
「こたびの献上物まことに見事なり。よってここに3000ポイントを与える!」
やったぁ!
って、カルバンシアでの功績より上なのか。
「また、これにより第十八皇女フィリシアとの婚姻を認め、そなたをフィリシアの婚約者と認定するものである」
謁見の間にどよめきが沸き起こった。
あまりのことに俺だってびっくりだ。
「ありがたき幸せ」
かろうじてお礼を言えたよ。
「ただし、一つだけ条件がある」
そりゃあ、そうだろう。
いきなりフィルをお嫁さんにもらえるとは俺も思っていない。
「なんでしょうか?」
「フィリシアにカンパーニの姓は名乗らせぬ」
「はあ……」
「わからぬか? お主が皇家に婿養子に入るのだ」
今度は更に大きなどよめきが上がった。
俺は驚きのあまり声も出せない。
「これ、返事はどうしたレオ?」
陛下に促されてようやく我に返る。
「しょ、承知いたしました」
あれ?
もしかして俺、皇族になるってこと?
なんかすごいことになってきた。
「フィリシアよ、これでよいか?」
「もちろんでございます!」
フィルは感激のあまり涙を流していた。
「おぬしは幸運な女だな」
「……?」
「好いた相手と結ばれる皇族など儂とそなたくらいのものだ」
そう言って陛下は愉快そうに笑った。
陛下ってば、好きになった女の人は片っ端から側室にしているらしいもんな……。
正室である皇妃様とも相思相愛らしい。
考えてみれば羨ましいことだ。
ところで、結局何ポイントでフィルの婚約者と認めてもらえることになっていたんだろう?
まあ今さらどうでもいいことか!
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