第43話 居酒屋の看板娘
二日続けて面白いものを召喚した。
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名称: アイスクリームメーカー
説明: 大容量のアイスクリームメーカー。最大一リットルの仕込み量に対応(出来上がり二リットル)。冷却、攪拌、保冷の個別運転に対応。連続操作にも対応しています。
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名称 ビールサーバー
説明 生ビールを提供するためのサーバー。二〇リットル×四本のタンク付き。
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アイスクリームを作るための魔道具と、ビールを提供するための魔道具のようだ。
ベルギア帝国では、一般的にビールをわざわざ冷やして飲むようなことはしないのだが、アリスの世界のビールはよく冷やして飲むのが普通だそうだ。
試しにフィルたちと少し飲んでみたがスッキリとしたのど越しですごくおいしかった。
ほんの味見のつもりだったのだが、二人ともゴクゴクと飲んでしまったぞ。
「レオ、とっても美味しいですね」
「うん。こんな風に暑い日には最高だね」
今年の夏は酷暑と言っていいくらいの異常気象だ。
カルバンシアの領内でも連日の日差しで体に不調を訴える領民が続出している。
アリスからの進言で、すべての領民にこまめな水分補給と塩の摂取を通達したら倒れる人は少なくなった。
塩はカルバンシア城伯フィリシアの名前で各地に配給している。
塩の買い付けは西の港町ルプラザまでスルスミで往復した。
貨物鉄道がルプラザまで開通すれば今後はもっと簡単に手に入るようになるだろう。
ビールのせいで少しトロンとした目つきのフィルが可愛かった。
「ねえレオ、ビールやアイスクリームがこんなにあるのだから、順番に兵士を労ったらどうかしら? 特に特戦隊はこの暑さの中でも毎日敷設作業を頑張ってくれているもの」
「それはいい考えだ。三〇〇人全員分はないから、三回くらいに分けて振舞ってあげよう」
ドレミーに魔法で冷やしてもらってから、フィルのインベントリバッグにしまえばいいだろう。
じっとしていても汗ばむような暑さの中で、俺とフィルはいつもよりくっついてその夜を過ごした。
夏という季節のせいなのか、お酒のせいなのか、はたまた俺とフィルの気持ちが一緒に燃え上がってしまったのか、イルマさんや他のメイドがいない隙を狙って何度も情熱的なキスを交わした。
二人ともすごく積極的になれたと思う。
初めてフィルの胸も少しだけ触ってしまった……。
フィルは着痩せするタイプのようだ。
びっくりするほど大きかった……。
それから、柔らかかった……。
嫌がるかなって思ったけど、フィルも身体を寄せてくれた。
就寝の時間になって、フィルにおやすみを言った後もしばらくドキドキが収まらなかった。
次は自分を抑える自信がない……。
皇帝陛下にはまだ認めてもらえていないけど、俺はフィルが欲しくてたまらなかった。
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俺の名前はクロード。
栄えあるフィリシア殿下特選隊の伍長だ。
現在俺たちは小型魔道鉄道のためのレールを敷設中だ。
今日も炎天下の作業が続くが、俺のやる気は衰えない。
なぜなら、あと数キロもレールを敷けば、俺の生まれ故郷であるレイコウの村に到達するからだ。
貨物列車が村を通るようになれば村の産物を外に売り出すことが楽になるし、町からもたらされる物資が簡単に手に入るようになると聞いている。
俺のやる気にも俄然火がつくわけだ。
「こらっ! クロード、休み時間に入っているぞ!」
マルタ隊長に叱られてしまった。
つい熱が入りすぎて休憩時間の合図を聞き逃してしまったようだ。
カンパーニ卿からの命令で正午付近の労働は禁止となっている。
昼の三時間は木陰で休んで、その代わり夕暮れ時の涼しい時間まで働くようにと命令されているのだ。
今日はトラブルもなく、朝から三〇〇メートル以上のレールを敷いたと思う。
木陰で休んでいると、敷設したばかりのレールの上をゆっくりと小型機関車が走ってきた。
「飯が届いたぞ!」
列車は資材と一緒に俺たちの昼飯も運んできたのだ。
今日の昼飯はチーズを挟んだパンと、豆とコーンのはいった冷たいスープだった。
他の隊の奴らはどうだか知らないが、俺たち特戦隊の中では夏バテをするような奴は一人もいない。
これもマジック・プロテインと日頃の訓練のおかげだな。
そのせいで特戦隊の奴らはみんなよく食べる。
部隊によっては隊長が兵士の食費をピンハネするために碌な食事がでてこないところもあるなんて聞いたことがある。
だが特戦隊はマルタ隊長やカンパーニ卿が自腹を切ってまで、飯を豪華にしてくれる日さえある。
以前は警備隊の中にも痩せこけた兵士が結構いた。
だけどフィリシア殿下がピンハネをしていた隊長を軒並み降格にしてから、そういう兵士は見なくなっている。
俺のような下っ端でも最果ての地と呼ばれたカルバンシアがどんどん住みやすくなっているのを実感している毎日だ。
「クロード、お前もやってみないか?」
同僚の一人が魔道機関車の屋根の上にチーズを挟んだパンを置いていた。
屋根は火傷するほど熱くなっているから、パンはカリっと、中のチーズはトロトロになって美味しくなるそうだ。
さっそく俺もやってみたが、言われた通り美味かった。
昼の休憩時間は長い。
必然的に飯の食い方に凝る奴も出てくるというわけだ。
夕方の涼しくなる時間から日暮れまで働いた。
さすがにレイコウ村まではたどり着けなかったが、もう村の鐘楼が見えるくらいに近くまで来ている。
明日は親父や弟たちが俺の作業現場を見に来るかもしれない。
そう考えたらワクワクしてしまう。
兵舎へ帰るための列車が到着し、全員が貨車へと乗り込もうとしたが、突然、マルタ隊長の命令が下った。
「第一、第二、第三小隊はその場に留まれ! 残りの者は速やかに列車に搭乗するように!」
俺は第三小隊所属だ。
なにか特別な任務か?
やや緊張しながら同僚を乗せた列車を見送った。
ちょうど列車の姿が見えなくなったのと入れ違いにスルスミがやってくる。
やはり緊急事態のようだ。
ハッチが開くとカンパーニ卿が姿を現した。
またもや魔物の軍勢が来たのか?
それとも特殊偵察任務だろうか?
俺たちが緊張しながら見守っていると、なんとカンパーニ卿の後ろからフィリシア殿下が現れた。
「全員、気をつけぃ!!」
マルタ隊長の号令に全隊員が直立不動の姿勢を取る。
こんなところに殿下が現れるなんてびっくりだ。
「楽にしなさい」
殿下の優しい声が響いた。
その様子から察するに特別任務とかではなさそうだ。
「皆の者、暑い中を毎日よく働いてくれて嬉しく思います。本日は皆の慰問のために来ました」
なんと殿下は俺たちの為によく冷えた酒と、アイスクリームというものを持ってきてくれたそうだ。
「冷えたビールはこっちだ。飲みたいものは一列に並んでくれ!」
カンパーニ卿の声が聞こえたので走って並んだ。
全速力で走ったのに俺の前には十人以上の兵士がいる。
まだまだ走り込みの訓練が足りないな。
ダッシュ力の強化をしなくては……。
「ぬるくなるとまずくなるから、受け取ったらすぐに飲み始めてくれ!」
カンパーニ卿はそう言ったが、ビールとは元々ぬるい物じゃないのか?
言っている意味がよくわからない。
だが、俺の前にビールを受け取ったやつらが次々と感嘆の声を上げていく。
「くうぅぅぅぅ! うめぇ!!」
「なんだこりゃあ!」
だいぶうまいらしい……。
思わず生唾を飲み込んでしまった。
俺の番まであと六人……。
「お代わりもあるからな!」
「!!」
既にビールを貰ったやつらが、飲みながら列の一番後ろに並び出した。
そんなにうまいのか?
俺の番まであと四人……。
「ぷはあっ! しまった、うまくてつい一息で飲んでしまった……」
空になったジョッキを見つめて悲しそうな顔をしながら、この男も再度列へと並ぶ。
次は俺の番だ。
「お疲れ様。明日も頼むね!」
カンパーニ卿がジョッキを手渡してくれた。
「いただきます!」
俺は期待に震えながら口をつける。
「ゴクッ……ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ!」
旨い!!
意志の力で何とか四口だけ飲んで、口を離した。
一気に飲み干してしまってもおかしくない美味さだ。
こうしてはいられない。
俺も急いで列の最後尾に並ばなければ!
「よう、クロード! こんなうまいビールは初めてだよな!!」
同僚も興奮していた。
「ああ! この瞬間のために生きてきた気がするぜ!!」
「ちげぇねぇ!!」
俺たちは陽気に笑った。
「どうぞ」
突如現れたアリス殿が俺たちに焼いた肉の刺さった串を渡してくれた。
「これは?」
「焼き鳥でございます」
鶏肉なのか。
そういえばアリス殿は普段と着ているものが違う。
黒の襟無しシャツに前掛けをしている。
シャツが肌にぴったりとしていて妙に色っぽい。
「アリス殿、その服は何でありますか?」
「モード、居酒屋の看板娘でございます。バドガールのコスプレも考えましたが、敢えて地味路線でレオ様を誘惑する予定です」
「はあ……」
よくわからなかったが塩味の焼き鳥は美味しかった。
明日も頑張れそうだ!
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