第19話 おともだち? お友だち!
不敵な笑みを浮かべるレベッカ・メーダを前にして、面倒なことに巻き込まれたと思った。
だけど、自分の学んだ戦闘術が人間相手にどの程度通じるかを試してみたいという気持ちにもなっている。
よく思い出してみるとアリス以外にはラゴウ村のステルガを相手にした時に使ったっけ。
ステルガじゃ弱すぎて自分の技術がどの程度なのか確認できなかったけど、レベッカ・メーダは左翼府の責任者だ。
きっと強いに違いない。
幸い今日は自由に過ごしていいとフィルにも言われている。帝都見物にでも出ようかと思ったがレベッカとの訓練も面白そうだと思った。
「それでは一つ胸をお借りいたします」
俺がそう言うと、レベッカは獰猛な笑みを更に深くした。
案内されるままに、練兵場へ向かった。
用意をする俺の耳元でアリスが囁く。
「レオ様、あの手のキャラ攻略は簡単でございます。相手は脳筋、戦力差を自覚させればすぐにでもデレるかと……」
デレる?
異世界の言葉は難しい。
「カンパーニ殿、得物はどうされますか?」
訓練用の武器が並ぶ棚の前でレベッカが聞いてくる。
俺が使えるのは格闘、ナイフ、棍棒、拳銃だ。
この中では槍が近いかな?
「ではこれを」
「カンパーニ殿は槍が得意か」
いや、槍は使えない。
棍棒も得意じゃないな。
一番練習しているのは拳銃で次がナイフかな。
でもこの人を相手にいきなりニューホクブをぶっ放すわけにもいかないもんね。
二人とも準備が整った。
「それでは参る!」
「よろしくお願いします」
俺とレベッカは訓練用の槍を軽く合わせて稽古を開始した。
稽古のやり方は単純で、片方が打ち、もう片方がこれを受ける。
それを交互にやっていくのだ。
打ち合いはゆっくりと始まった。
「思った通りやるではないか!」
レベッカは嬉しそうに回転をあげてくる。
俺の方も楽しくなってきた。
アリスとはクセが全然違っていて、相手をしていて新鮮だ。
しかも左翼府の責任者というのは伊達じゃないね。
こんなちびっ子なのに打ち込みは正確で強力でもあった。
時間の経過と共に俺はどんどんノリノリになってくる。
「もう少しペースを上げますよ」
「えっ?」
カンッ! カッ! ザッ! カカンッ! カッ!
「さすがですねメーダ殿。全部捌かれてしまいます」
「い、いや……」
「フェイントも入れていきますよ」
普段アリスと訓練しているスピードまでやってきた。
「ちょっ、ちょっと……」
カンッ! カッ! ビシッ!
軽く突きが入ったけど鎧の上からだから大丈夫だろう。
アリスだったらこの程度で訓練を止めはしない。
カカンッ! カッ! バスッ!
今度は横なぎの殴打が決まってしまった。
これも鎧の上からだから大丈夫だろう。
「ちょっ」
ちょっ?
ちょびひげ?
カンッ! カッ! ザッ!
「まっ」
まっ?
マントヒヒ?
カンッ! カッ! ザッ! バシッ!
「ちょっと待ってぇ!!」
レベッカ・メーダが涙目になっているのに気が付いて俺は訓練を止めた。
「あ、変なところに入りましたか? 防具の上だったので大丈夫かと思ったのですが」
「……」
「あの、メーダ殿?」
「……言ったのに」
「え?」
「ちょっと待ってって言ったのに!」
レベッカ・メーダは顔を真っ赤にして行ってしまった。
まずい。
これはやりすぎたということだろうか。
いつの間にか練兵場には兵士たちの人だかりができていた。
俺たちが訓練していたのを見学していたらしい。
「あれは何者だ?」
「新しいプリンセスガードらしいぞ」
「相手をしていたのはレベッカ・メーダ殿だろう? 闘技大会二年連続優勝の……」
「訓練だったみたいだけど……どう見てもメーダ殿が押されていたよな?」
「マジかよ……」
皆の前で恥をかかせてしまったかも……。
「アリス、どうしよう?」
「大丈夫、もうデレかけてます」
だからデレるって何だよ?
大急ぎでレベッカ・メーダを追いかけた。
今なら控室で追いつけるはずだ。
「レオ様、既にフラグは立っております。後は優しい言葉をかけるだけで落ちるはず。くれぐれもフラグを折る行動だけはお慎みください」
フラグ?
旗ならいくらでもかけてある。
ここは近衛練兵場だ。
こんなところの軍旗を折ったら殺されてしまうよ。
控室に入ると目を真っ赤にしたレベッカ・メーダが壁際で訓練用の防具を脱いでいるところだった。
これじゃあまるで俺がイジメたみたいだ。
「あの、メーダ殿」
「なにっ!?」
キッと振り向いたメーダに謝ろうと思って前に出たら、床に散らばった防具に足を取られた。
身体がよろけて思わず壁に手をついてしまう。
「ほう、壁ドンとは、また古風な……」
アリスは少し黙ってて!
俺に覆いかぶされるようになったレベッカ・メーダが無言で鳩尾に突きをいれてきた。
身体をひねって威力を殺す。
完全に避けるのは無理だったが直撃は何とか避けた。
「なんで避けるのよ!?」
そりゃあ痛そうだもん。
レベッカ・メーダの攻撃は止まらない。
左右のコンビネーションを防御しながら何とか彼女の気持ちが落ち着くのを待つ。
「このっ、このっ!」
ちびっ子のくせになんて威力なんだよ。
「うりゃあっ!」
急所を狙って膝まで使ってきやがった!?
まともにくらったら大事なところが二度と使い物にならなくなりそうだ。
俺は後ろに回ってレベッカ・メーダを押さえ込む。
「ごめんなさいメーダ殿! メーダ殿と訓練していたらつい楽しくなってしまって。俺、打ち合っていてあんなに楽しくなったの初めてだったから!」
俺の必死の謝罪が届いたのかレベッカ・メーダの動きが止まった。
夕暮れの光が差し込む控室で、俺がレベッカ・メーダを後ろから抱きしめる形で時間が止まる。
少し離れたところでアリスがしゃがんでボヘ~っとこちらを眺めていた。
「私との訓練が……楽しかったの?」
「うん。あんなにノビノビと打ち合えたのは初めてだったんだ」
アリスにはいつもボコボコにされるからね。
「そっか……」
俺はレベッカ・メーダからそっと離れた。
もう襲ってこないよね?
「ごめん。どうか許してもらえないかな」
「そ、そこまで言うのなら……許してあげても……いいわ……」
後ろ向きなのでレベッカ・メーダの顔は見えないけど、何とか謝罪は受け入れてもらえたようだ。
なんか拳を交えて分かりあえたって感じだな。
「そ、その代わり今日から貴方をレオって呼ぶわよ」
「え? 別に構いませんが?」
「……私のことはレベッカって呼びなさい!」
「はぁ……」
左翼府の責任者を呼び捨てでいいのかな?
「左翼府総監とプリンセスガードか……。悪くない組み合わせよね……」
何の組み合わせだろう?
対戦カード?
「しょうがないわね、こうまで頼まれたら断るのも心苦しいわ。貴方のお友だちになってあげるわ、レオ」
振り向いたレベッカは怒った表情のまま、首まで真っ赤だった。
お友だちになってくれと頼んだ覚えはないんだけど、……まあいいか!
「イベントコンプリート、完落ちです」
アリスの抑揚のない声が小さく聞こえた。
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