第14話 ダブルキャノン
フィルに出会って二週間が経過していたが、俺たちは未だダンジョンの中にいた。
本当は十日ほどでラゴウ村に帰る予定だったんだけど、俺とアリスはフィルと一緒に最終階層を目指すことに決めたんだ。
実戦経験を経て俺の戦闘力も上がった。
これなら死ぬこともないだろうということで、アリスのお許しも出た。
それにカロリーフレンドやゲイター・トルネードなど、異世界からの食べ物をおやつに食べていたら、俺の基本的な能力が底上げされたようだ。
一緒に食べたフィルも当然強くなっている。
アリスは元からめちゃくちゃ強い。
このままいけば特に苦労もなく最終階層を踏破できそうだった。
ダンジョンにいる間も召喚魔法は毎日使っていて、異世界から品物が届く。
歯ブラシ、サインペン(油性)、爪楊枝、リュックサックとか、体重計なんてものもあった。
どれも珍しかったけど、その中でも特別なものは以下の通りだ。
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名称: マスクメロンの種
種類: 糖度と香りのよいメロン
説明: 育てるのは手間がかかるが美味しいメロンが取れる。一個食べれば寿命が一月延びる。病人のお見舞いに最適なマストアイテム。万能薬にもなる。
以下、育成方法の説明――
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メロンはこの世界にもあるけど、マスクメロンというのは初めて聞いた。
食べたら寿命が延びるだなんて金持ちがこぞって買いそうだ。
自分で栽培するのもいいけど、農業の加護を持つエバンスに分けてあげてもいいな。
それから新しい武器も手に入った。
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名称: ライトブレード
説明: 刃渡り三四センチ、全長五二センチの短刀。
普段は模造刀のように刃が入っていないが、起動させると刃に当たる部分にプラズマの光刃が発生する。この光刃は物体に接触すると膨大な熱エネルギーによって対象を溶断する。エネルギー源として魔石を柄の部分にセットする必要がある。
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ついに二つ目の武器をゲットだ。
迷宮の壁も温めたナイフでバターを切るようにスパスパ切れた。
持参したナイフがボロボロになってきていたので丁度よかったぞ。
硬い甲殻を持つダンジョンマイマイの殻も余裕で切り裂けた。
そして最後のアイテムが強烈だった。
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名称: 伝説のスクール水着
説明: 水に入る時に着用する紺色の服。SSSR級のレアアイテム。素肌に着用すると各種能力が上昇する(極大)。防暖防寒機能付き。抗菌仕様で臭わない!
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凄いとは思うけど、どうして水に入るのにわざわざ服を着るのだろう?
普通は脱ぐよね?
そういえばDVDの中でヒメカちゃんが着ていたのも水着だったんだな。
あれはもっと布の面積が小さかったけど……。
召喚された水着をアリスが着てみろと催促したが、断固拒否した。
だって随分とぴったりした服なんだもん。
肩ひものところが窮屈そうだし……。
胸のところを防御するように厚手のパッドがついているぞ……。
「アリス、これは女の子が着る服なんじゃないの?」
「(チッ! 気づきやがったか、でございます)」
「もしかして騙そうとした?」
「……ですが、これを着れば全ての能力値が極大になります」
そうなのだ。
説明書きにも確かに書いてある通り、このスクール水着を素肌に着用すれば、全ての能力が大幅に上昇するようだ。
こんな薄っぺらい布なのに防御力まで上がるというのだから驚きだよね。
だけど、女の子用の水着を着るなんて変態みたいじゃないか。
俺にはとても耐えられそうにない。
それだったらいっそフィルが着れば……。
いや!
こんな破廉恥な服をフィルに着てくれなんて言えないだろう!?
ぴっちりしているし、太モモも二の腕も丸出しだ。
胸の形だってわかってしまう……。
でも、品質はレジェンド級だし……。
ちょっと試すくらいなら……。
真っ白な肌のフィルがスクール水着を着ている姿を想像したらクラクラしてきた。
ああ、フィルの水着姿が見たい。
「ではフィリシア様が着てみたらいかがですか?」
うおっ!?
アリスがフィルに水着を薦めている!!
「そんな! これほどの秘宝を私が着用するなど、もったいのうございます」
「でも、オートマタの私が着ても能力は上昇しません。上がるのはレオ様のテンションくらいです。だからフィリシア様が着るのが一番かと」
ナイスだアリス。
さすがはS型第五世代!
って、自分でも何言ってるんだかよくわかんないんだけどね。
「よろしいのですか?」
心配そうに聞いてくるフィルにコクコクと頷くことしかできなかった。
「では、私がゼッケンに名前を書いて差し上げましょう」
アリスは俺が召喚したサインペンでスクール水着の胸部についていた白い布地になにかを書き始めた。
「これで所有者が誰だかハッキリわかりますから」
ゼッケンには異界の文字で「ふぃりしあ」と書いてあった。
なぜだろう……。
間違った点は何もないのにアリスに弄ばれている気がする……。
「それでは着替えてまいりますね。少々お待ちください」
フィルは魔物のいない小部屋に入っていった。
待つこと一〇分。
鎧を外すのだから手間取っているのだろう。
俺は悶々とした気持ちで立っていた。
「もっとリラックスしてくださいレオ様。それじゃあ童貞丸出しだぞ! でございます」
「別に緊張なんかしてないさ」
強がってはみたが、心臓のドキドキが抑えられない。
やがて微かな軋みをたてて小部屋の扉が開いた。
そこには……いつも通りの皮鎧をつけたフィルが立っていた。
「着てまいりましたよ。素晴らしい効果を発揮しています!」
水着の上に服を着てきたんだね。
うん、普通はそうするはずだ。
俺は何を期待していたんだか。
「具体的にはどんな感じ?」
「体力・魔力に加えて身体機能も大幅に上がっている気がします」
フィルの顔は興奮で上気している。
よっぽどすごい効果なのだろう。
「では、この石ころを思いっきり投げてみてください」
アリスが自分の主力兵器をフィルに手渡した。
フィルはアリスの真似をして振りかぶって石を投げる。
ドゴォォン!
わが軍の主砲が二門に増えたな……。
威力と精度はアリスの方が上だけど、フィルのパワーも大したものだ。
こうして無敵艦隊のようになった俺たちはダンジョンを次々と踏破していった。
途中、強敵といわれる地竜をアリスとフィルのダブルキャノンが一撃で粉砕したり、災害級といわれるベヒモスを石ころの波状攻撃で完膚なきまでに叩きのめしたりもした。
共に歩き、共に戦い、同じ食事をして、たくさんの話をした俺たちの絆は日ごとに強まっていった。
そしてダンジョンに潜って一五日目、ついに俺たちは最終階層へ到達した。
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