第10話 いざ出発、その前に
夜になっていつもの三人が遊びに来た。
最近は遅くまで野球盤で盛り上がることが多い。
ラゴウ村には娯楽施設などないから、こんなに楽しい遊びは初めてなのだ。
「レオ、ありがとうな」
ポンセが革袋からDVDプレーヤーを取り出して返してくれた。
俺たちは協定を結んでDVDを一日ごとに仲間内で回している。
皆で一緒に見るヒメカちゃんもいいけど、一人でじっくり堪能したいという気持ちも理解できる。
だからこうしてDVDプレーヤーを貸し出しているのだ。
「けっ、チェリーどもが、でございます」
アリスが何かつぶやいていたけど、どうせ悪口だろう。
気にしないでおこう。
エバンスは来週にお見合いをするそうだ。
農業の加護を得たエバンスには見合い話が殺到しているらしい。
畑を持っている家なら是非とも婿に欲しいだろう。
釣りスキルを得たポンセは毎日川へ出かけているそうだ。
そこで必ずと言っていいくらい家族の一日分の食料を釣りあげられるので肩身の狭い思いをしなくて済むようになったと喜んでいる。
オマリーもギフトのおかげで視力がアップしたので村の猟師にスカウトされた。
オマリーは元々弓矢が得意だったから丁度良かっただろう。
「それで、レオは最近面白いものは召喚できたのかい? アリスちゃんを超える召喚物は中々ないだろうけど」
エバンスがクスクスと笑いながら聞いてくる。
確かに、アリスを初めて見たときの三人の反応はすごかった。
ポンセとオマリーの第一声は「裏切者!」だったもんな。
どの辺が裏切者かと言うと、自分たちに隠れて女の子を家に引き込んでいるという辺りにあったらしい。
その後、俺にいかがわしいことをされなかったかと、二人掛かりでアリスに問い詰めていた。
アリスが「視姦されただけで、押し倒されてはいません」と真顔で言ったら黙っちゃったけど……。
今日召喚したのは、
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名称: カロリーフレンド×一〇箱
種類: 携帯食料
説明: 常温で半年間保存できる携帯食料。一八〇〇カロリー。フルーツ味。食べるとバランスよく能力が小上昇。
####
だった。
これは来るべきダンジョン探索の時までとっておくことにしている。
そう、ダンジョン探索だ。
ニューホクブという拳銃を手に入れた俺としては一刻も早くダンジョンを探索して魔石を確保したいと思っているところだ。
アリスは心配ないと言っているが、いつ彼女の活動が停止するかを考えると気が気でないのだ。
アリスは少し口が悪いのだけど、毎日一緒にいれば彼女の優しさというのは見えてくる。
家事も仕事もきちんとやってくれるし、一緒にいて心から寛げるんだよね。
アリスのためにも魔石を手に入れたかったし、自分がどこまでやれるのかも確かめたかったんだ。
だけど問題は防具だった。
毎日召喚しているのだが鎧を呼び寄せることはできていない。
今夜はいい機会なのでエバンスたちに相談してみることにした。
「そういうわけでダンジョンへ行こうと思ってるんだけど、防具がないんだ。エバンスたちの家に使っていない防具はないかな? できたら買取りたいんだけど」
三人ともあるかどうかはわからないようだ。
帝国が領土拡大を目指して次々に他国に対して戦争を吹っ掛けていたのは一〇〇年も前の話だ。
世代的には俺たちの曽爺(ひいじい)さんの頃だな。
その頃ならいつ徴兵が有ってもおかしくなかったらしくて、各家に一つくらいは皮や木製の鎧があったそうだ。
そういったものが残っていれば安く売ってもらいたかった。
「納屋を探してみるけどあんまり期待しないでくれよ」
エバンスたちはそう言っていたので本当に期待はしていなかった。
だけど奇跡って起こるもんだな。
翌日、三人はそれぞれの家で見つけた防具を持ち寄ってくれた。
ポンセが持ってきてくれたのは皮のハーフヘルムだった。
オマリーが持ってきてくれたのはバックラーと呼ばれる小さな盾。
エバンスが持ってきてくれたのは胸部だけの皮鎧だった。
だけど三つを合わせればギリギリ装備として成り立つ。
どれもかなり古いものだったけど、充分使用には耐えられそうだった。
「アリス、どうかな?」
後はアリスの判断に委ねられた。
緊張の沈黙……。
「……しょうがねーな、でございます」
いかにも渋々といった感じだったけど、オートマタのお許しが出たぞ!
これで何とかダンジョン探索にいける。
俺がいない間の家畜の世話もエバンスたちが交代でしてくれることになった。
たっぷり稼いで後で労賃を払うつもりだ。
最悪の場合は野球盤やDVDを譲渡するつもりだった。
出発の朝。
譲ってもらった装備に身を固め、腰のガンベルトにニューホクブM60をさし、左肩の前にナイフを装備した。
最後にマントを羽織れば、ちょっと変わっているけれど冒険者に見えなくもない。
「レオ様、準備はできましたか?」
「うん。今朝の召喚では傷薬も手に入れられたし、用意は万端だよ」
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名称: キズナオールS
用途: 傷薬
説明: 抗生物質てんこ盛り。ナノマシン配合。別名ドクターキラー。医者から職業を奪います。
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「これって、市販薬じゃないどころか軍事機密に抵触する薬ですよ」
特別な薬らしい。
アリスによるとこの容器はチューブというそうだ。
蓋を開けて押し出すと中身が出てくるんだね。
結構大きいな。
1キロくらいはあると思う。
重いのでバックパックに入れておいた。
村の広場を横切って北の門へ向かう途中に、ヨランとステルガが一緒にいるところに出会った。
俺とアリスが連れ立って歩いているのを見て、二人はこちらにやってきた。
「おい洗濯バサミ、出かけるのかよ?」
「ちょっとね」
詳しいことを答える義理はない。
「そいつは誰だ? 余所者か?」
なんでこんなに絡んでくるかな?
俺はさっさとダンジョンに行きたいんだ。
「うるさいなぁ。用がないならどっか行けよ。こっちはダンジョン行くんで忙しいんだ」
そういうとステルガの目つきが獰猛になった。
まあ、怖くはないけど。
怖いと言えばアリスの方がよっぽど怖い。
「てめぇみたいな無能がどうしてダンジョンに行くんだよ!? カスのくせに。……燃やされたいのか?」
またそれか。
「ああ、はいはい。また今度にしてくれ。今日中にピアトの街に行かなくちゃ――」
「調子こいてんじゃねぇ!!」
俺が喋っている途中で、ステルガが魔法を展開しているのが分かった。
こいつは本物のバカだ。
いきなり使うかね?
一気に間合いを詰めて鳩尾(みぞおち)に拳を叩きこみ、そのまま後ろに回って、手首をひねりながら膝を折って跪かせ、首筋にナイフをあててやった。
「魔法をキャンセルしろ。こんなところで使うなバカ!」
魔法はすぐにキャンセルされた。
もう大丈夫だろうと思ってステルガを離してやったらアリスにゲンコツをくらった。
「痛いよ、アリス!」
「レオ様、弱い者いじめは恥ずべき行為です」
うっ……、それを言われると辛い。
「このように頭も体もお弱い、二重苦を抱えた相手にナイフを抜くなど言語道断ですよ」
「だって、こいつが攻撃魔法を……」
「言い訳するんじゃねぇ! でございます。 相手はカスのような魔法使いです。ねえ貴方、しょぼい火炎魔法しか使えないんですよね?」
アリスの質問にステルガは無言のままだ。
「御覧なさい。事実を指摘されて委縮してるじゃないですか」
それは俺が悪いんじゃないと思う。
「この人は本来ならば片手で充分制圧できるほどのカスです。それを何ですか? あのように手間取って。見ているこちらが恥ずかしいですよ」
ステルガが項垂れている。
プルプル震えているのは悔しいからかな?
「てめぇら……」
性懲りもなくまた魔法攻撃を仕掛ける気か?
「止めておいたほうがいい。今度は皆の前で小便を漏らすことになるかもしれないよ?」
俺がそう言うと、ステルガの中で高まっていた魔力が霧散するのが分かった。
「レオ様、つまらない人間たちに、つまらない時間をとられすぎました。急いで出発しましょう」
相変わらず口が悪いな。
「レ、レオ。ちょっと待って。少し話したいことがあるの」
はにかむような笑顔を作りながらヨランが声をかけてきた。
媚びを売るようなしぐさに吐き気がする。
こいつと関わるのも、もうウンザリだ。
「そういうの迷惑だから、もう声をかけないでくれ」
呆然と見送る二人をあとに残し、俺とアリスはピアトの街へ向けて歩き出した。
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