第9話 リボルバー

「き、き、き、きたあぁぁ!!」

 アリスを召喚してから五日が過ぎていた。

ここのところあまりいい物が召喚できていない。


ビー玉: キラキラ光る。転がして遊んだけどそのうち飽きた。


熊手: 落ち葉を集める道具。プラスチックという素材でできているそうだ。だけどこの世界にも熊手はある。わざわざ異世界から召喚する意味がないよね。


野球盤ゲーム: 楽しいゲーム。ルールを理解したらポンセとオマリーがはまっていた。フォークボールを使えるのは1イニング三回までらしい。


ムシαエクストラ: 虫にさされたところに塗ると痒くなくなる。蜂に刺されても有効。今は冬だから使うことはない。


 と、こんな感じの物を召喚してたんだけど、ついに今朝、俺はずっと欲しかったものを手に入れた。


「うおおおおお!!」


喜びに雄叫びをあげているとアリスがやってきた。


「何事ですか? 朝っぱらからうるせぇぞ、でございます」


相変わらずの口の悪さにポーカーフェイスだ。

それに「ございます」をつければいいってもんじゃないだろう? 

だけど興奮マックスの俺は大して気にならない。


「見てくれよアリス! ついに拳銃を召喚したんだ!」

「へぇ。ニューホクブですか。リボルバーなんて実物を見るのは初めてです」


俺が本で見たものよりもずっと小ぶりの拳銃だった。


####


名称: ニューホクブM60

種類: 回転式拳銃

装弾数: 五発

説明:ヤマト国にて警察官用拳銃として大量に配備された。弾薬一〇〇〇発セット。

以下使用方法が続く――


####


「私にも見せてくださいませんか?」


アリスが手を伸ばしてきたので、そっと手の上にのせてやった。

アリスは慣れた手つきで銃を扱っている。


「使ったことがあるの?」

「このタイプは初めてです。私が製作される一〇〇年以上前のモデルですよ。レオ様の召喚術は時空を超えて、様々な場所にアクセスできるようですね」


どういうこと?


「つまり、レオ様は、いろいろな世界の、いろいろな場所、いろいろな時代から召喚を行っているようです」


へぇ~……。

よくわからないけど凄そうだ。


「弾丸を装填しましょう。段ボール箱を開封してください」


段ボール箱ってこの茶色い紙の箱か。

こんなもの初めて見たな。

便利そうだから丁寧に開けて再利用することにした。

ずっしりと重たい段ボール箱を開けると、中には小さな紙箱が二〇箱あって、一箱に五〇発の弾薬がぎっしりと詰まっていた。


「キラキラしていて宝物みたいだ」

「レプリカをネックレスにする人もいます。金のように見えますが薬莢の材質は真鍮です」


真鍮? 

そういう名前の金属かな。


「早速射撃訓練をしてみますか?」

「やってみたい!」


ずっと本を眺めるだけだったから、実際に撃ってみたくてうずうずしていたのだ。


「安全のために人の来ない場所がいいですね。かなり大きな音もするので周囲の迷惑にもなります」


知らなかった。

拳銃って大きな音がするんだね。

アリスの提案で丘の向こう側へ行くことになった。

丘が音を遮ってくれるそうだ。

弾薬は重たいので物置を召喚して、その中に置いた。

ついでに食料や燃料、寝具なども保管する。

これで何かあった時でも安心だね。

建物のかげで召喚したから今回も見られてはいないだろう。



 丘へと続く道は雪が二〇センチほど積もっていて非常に歩きにくかったが、アリスは苦も無く一定の速度で歩いていた。

やっぱりオートマタは人間よりも強靭にできているようだ。


「レオ様は銃の扱い方に関しては本からすべて学び取っていますね?」

「うん。全部読み終わってはいるよ」


召喚した本は読んだだけで、頭の中に内容が書き込まれるように覚えてしまう。

もっとも、この世界では読めるのは俺だけみたいだけどね。

だってエバンスたちはDVDの説明書も読むことはできなかった。


「でしたら後は実際の射撃で腕を磨くだけです。幸い一〇〇〇発もあるのですから、撃って撃って撃ちまくりましょう」

「わかった」

「どこかに好戦的な魔物でもいませんかね? 襲ってきたらいい練習になるんですけど。衛星とリンクできない世界は非常に不便です」


そういいながらアリスはきょろきょろと辺りを見回している。


「いきなり実戦は危ないだろう……」

「今のレオ様は、動かない標的なら確実に当てられるでしょう。しかし、それだけでは実戦では役に立ちません。私が恐怖と経験を身体に刻み込んで差し上げましょう……」


ポーカーフェイスのアリスが微かに微笑んだ。


「アリス、怖いよ……」

「ふふ……、私のAIはS型ですので……」


え? どういう意味?


「石山播磨灘重工(いしやまはりまなだじゅうこう)ジョークでございます」


全然意味がわからない。


「フェロモン香水EXをつけて、オークの巣にでも放り込めば一気にレベルアップですわ」


足が震えて動けないよ。

僕が召喚したのは魔界の悪魔だったのか!?


「軽いジョークでございます。さあ、さっさと参りましょう。出てこい、出てこい、雌オーク♪」


相変わらず抑揚のない歌声だったが、アリスの機嫌はよさそうだった。



 ありがたいことにオークの巣はどこにもなかった。

それもそうか。

こんな近くに魔物の巣が有ったらラゴウ村はとっくに滅びているよ。


 射撃練習はアリスが作ってくれた雪像や、氷の板を投げたものを狙った。

『軍隊戦闘術 速習4週間!! ~今日から君も特殊部隊~』を読んでいたおかげか、三〇メートル以内の標的なら外すことなく撃ち抜くことができたぞ。

だけどアリスの射撃は圧巻だった。

反応速度がまるで違うんだよ。

銃の性能が良ければもっと早く撃てるそうだ。

すごいなぁ。

アリスの指導は辛口だったけど、丁寧で的を射た説明が分かりややすかった。


「少しは上達したかな?」

「ようやく半人前ってとこだな、でございます」


一人前になるまでの道のりはまだ長そうだ。



 次の日、目覚めると枕元に何かがあった。

これは拳銃をいれておく道具?


「おはようございます、レオ様」

「おはようアリス。これは何?」

「ガンベルトです。納屋で見つけた革で作っておきました」


すごくカッコイイ!!


「私は先に家畜に餌を与えてきます。レオ様は召喚術でもやっておいてください」


アリスはすたすたと外へ出ていこうとする。


「アリス、ありがとう!」


俺は慌てて礼を言った。


「お気になさらずに……」


アリスはいつものように無表情だ。


「アリスは優しいんだね」

「バカを言ってるんじゃねぇ、でございます……」


真っ白なアリスの頬が、ほんの少しだけ赤く染まった気がした。

ひょっとしたら扉を開けた時に入ってきた朝日のせいかもしれないけど……。

今日も新しい一日が始まる。

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