第7話 キス、キス、キス
召喚された大きな箱の側面にいつものメモが張り付いていた。
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名称: 物置
特徴: 断熱効果にも優れた物置です。物品を置くにとどまらず守衛所としてもお使いいただけます。
物をいれての送還・再召喚が可能です(制限なし)
強度: 一〇〇人乗っても大丈夫!
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すごい!
これはすごいよ。
大魔導士が使える空間収納という魔法と効果は一緒なんじゃないかな?
これからは召喚物も増えるだろうし、この中に入れて送還しておけば、どんな大泥棒だって盗めないから安心だ。
だけどこんなに大きいと目立ってしょうがないな。
間口:五メートル、奥行き:四メートル、高さ:三メートルもあるんだもん。
メモに書いてあった通り送還を試してみると、物置は瞬時に時空の狭間へ移動してしまった。
ご近所には見られていないかな?
ご近所と言っても隣の家までは七〇メートルくらい離れているし、裏庭だったから多分見られていないな。
物置が白かったから雪景色の中では目立っていなかったとも思う。
後で森の奥で再召喚してみよう。
俺は村の皆には、相変わらず洗濯バサミしか召喚できないと嘘をついていた。
エバンスみたいに、これまでと変わらず接してくれた人も多かったけど、あからさまに態度が変わった人も少なくなかった。
世の中って怖いよね。
死んだばあちゃんが言ってたけど、長生きをすれば嫌なものをいっぱい見るそうだ。
そんなものなのかもしれないな。
でも、ばあちゃんはこうも言っていた。
それでも世界は美しいんだって。
生きるだけの価値は十分あるからレオも頑張って幸せになりなさいと。
これは、ばあちゃんの遺言だ。
だから俺は絶対に幸せになろうと思っている。
午前中の仕事を済ませて森へ行った。
再召喚で物置を呼び出す。
メモにも書いてあったがこの召喚には制限がなく、一日に何回でもできるようだ。
さっきはすぐに戻してしまって気が付かなかったけど、側面には窓もついていた。
「まるで家みたいじゃん」
横スライドのドアを開けて中に入ってみた。
棚などは何もなく空っぽの空間だった。
天井には魔道灯が取り付けられていて、壁のスイッチを入れると明かりが点いた。
だけど自分が知っている魔道灯よりずっと明るい。
スイッチボックスを開けると魔石の投入口があり、中には小さな魔石が入っていた。
構造は自分が知っている魔道灯と一緒なんだけど、エネルギー変換効率がずっと高いようだ。
その内ここも物で溢れかえるかもしれないな。
召喚物は一日一個ずつ増えていく。
食べ物などの消耗品も多いけど、物品だって増えているもんね。
でも、今はここに保管したいのはこれだけだ。
俺はカメに入ったフェロモン香水EXを部屋の隅に置いた。
床下に隠しておくより安全だろう。
森から帰る途中でヨランとステルガが手を繋いで歩いているのを見かけた。
目が合った途端にステルガがこちらに来ようとしたようだが、ヨランが止めたみたいだ。
微かに声が聞こえる。
「任しとけって。軽くしめてやるよ」
「いいから行きましょう。時間がもったいないわ」
「それもそうか。ボコボコにすんのは次回でいいか」
ステルガはそう呟くと、こちらに見せつけるようにヨランを強引に引き寄せてキスした。
音まで聞こえてきそうなハードなやつだ。
ヨランはほとんど抵抗もしないでそれを受け入れていた。
キスのことは腹も立たなかった。
ヨランに対する気持ちはすっかり冷めきってしまったみたいだ。
それよりも俺のファーストキスの相手があんな女だったってことが残念でしかたがない。
それにステルガが殴りかかってこなかったことも残念だった。
向こうが不用意に仕掛けてきたら、格闘術でボコボコにしてやろうと思ったのに……。
『軍隊戦闘術 速習4週間!! ~今日から君も特殊部隊~』を手に入れてもう一五日が経っている。
実戦では一度も使ったことはないが、もう拳銃と突撃銃(アサルトライフル)以外の項目は習得していた。
ステルガが火炎魔法を使ったとしても負ける気はしない。
こちらから手を出すつもりはないけど、向こうが喧嘩を売ってきたら存分に相手をするつもりだ。
降りかかる火の粉は払いのけてカウンターだよね。
翌日は気温が一気に冷え込んだ。
寒いので今日は部屋の中で召喚だ。
召喚物が大きなモノなら昨日のように警告が鳴るはずだから安心だ。
これからはわざわざ外に出なくて済むから楽だね。
さあ今日も召喚魔法を試してみよう。
「……なにこれ」
俺は今までいろいろな物を召喚してきた。
だけど、今日ほど驚いたことはない。
今だって心臓が口から飛び出してしまいそうなほどドキドキいっている。
だって、俺の目の前には綺麗な女の子が横たわっているんだもん。
年齢は多分俺と同じくらいかな。
緑色の髪は肩にかかるくらいだ。
身体にぴったりとした服を着ている。
この辺りでは見たこともない服装だな。
やっぱり異世界の服装なのかな。
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名称: 汎用型オートマタAL-28(石山播磨灘重工製作(いしやまはりまなだじゅうこう))
通称: アリス
説明: 魔力を動力とした汎用型オートマタ。エネルギーは魔石及び、空中の魔素を自動収集するハイブリッド型。S型第五世代AIを搭載。仕事、家事、育児、戦闘、恋愛、スポーツと幅広い分野で貴方の心強いパートナーになるでしょう。
以下説明が続く――。
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この子はオートマタなのか。
ごく稀に迷宮の奥で発見されるというのは聞いたことがあるけど、実物を見るのは初めてだ。
でも、普通のオートマタはこんなに人間にそっくりじゃないはずだ。
人型ではあっても、ここまでリアルに人間を再現していないと思うんだよね。
やっぱり異世界の技術はすごいなぁ……。
「……」
召喚したはいいんだけどオートマタは一向に動く気配がない。
俺は恐る恐るオートマタの手をつついてみた。
キュイーン
異音が響いてオートマタが目を開いた。
「この度は石山播磨灘重工(いしやまはりまなだじゅうこう)製、汎用型オートマタAL-28をご購入いただきありがとうございます。これより所有者登録を開始します」
事務的ではあるけど明るい声がオートマタより響いてくる。
この子が喋っているわけじゃないみたいだ。
「まずは人間のへその位置にあたる部分に親指を軽く押し当ててください」
え?
おへそを触れってこと?
服を捲らなきゃならないんだけど……。
でも、相手はオートマタだ。
恥ずかしがることもないかな……。
う~ん、やっぱりいけないことをしている気分になってしまう。
目の前の女の子はどう見たって人間なんだよね。
本当は全部めくってみたかったけど、理性を総動員してお腹だけを出すにとどめた。
右の親指の腹で、オートマタのお腹の凹みを軽く押すと再び声が聞こえた。
「指紋認証が完了しました。続きまして網膜スキャンを開始いたします。オートマタの目から三〇センチの距離に所有者の顔を持ってきてください」
三〇センチって結構近いよね……。
オートマタの目から赤い光が走ったかと思ったら網膜スキャン完了の音声が流れた。
もう、おしまいか……。
と、そこで初めてオートマタが動いた。
目の焦点もはっきりしていてまるで生きている女の子だ。
「初めまして。私は汎用型オートマタAL-28.よろしければアリスとお呼びください」
さっきまでのガイダンスとは全然違う声だった。
もっと落ち着いて静か。
抑揚もあまりない。
「よ、よろしくアリス。俺はレオ」
「よろしくお願いします、レオ様。最後にDNAの登録をしますので、私にキスをしてください」
「キ、キスぅ?」
「はい、唾液よりDNAを採取します」
DNA?
DVDなら知ってるけど……。
「ほ、本当にするの?」
「冗談です」
アリスは無表情に言い放った。
何なのこいつ?
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