第6話 フェロモン香水EX
エバンス、ポンセ、オマリーの三人には、俺の召喚能力についてはしばらく秘密にしてもらうことにした。
心無い人に利用されるのは嫌だったし、かといって人生経験の少ない俺は騙されやすい。
しばらくは無能な洗濯バサミということにしておけばいいと考えていた。
宴会があった日から一週間が経った。
この間にもいろいろな物を召喚している。
輪ゴム 物を束ねるのに便利。
メガホン 遠くまで声を届けるための道具らしい。色は黄と黒でトラの紋章がついていた。
コーラアメ 丸い飴玉。不思議な味だった。食べたら素早さが少し上がった気がした。
ポケットティッシュ……柔らかな白い紙。用途はよくわからない。今は焚きつけにしている。
ポップコーン トウモロコシを使った料理と書いてあった。食べたらジャンプ力がついた。
割りばし 物を食べるための道具らしい。よくわからないので使っていない。
そして今朝、召喚魔法を使って出てきたものが目の前の小瓶だ。
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名称 フェロモン香水EX
説明 振り向かせたい女性がいる貴方へ!
女を落とせる確率100%
その日のうちに目的達成!
テストステロン配合で女性の脳を香りで刺激。
脳神経内科医ウチヤマダ・コウタロウ先生推奨。
体験者の口コミ
Mさん(22歳)
チビでピザで彼女いない歴=年齢の僕にも可愛い彼女ができました。彼女が働いているメイドカフェにフェロモン香水EXを振りかけて来店。指名して口説いたら一発オッケーもらえました。今では彼女と同棲して、毎晩いっぱいHなことを楽しんでいます。EXのおかげで童貞も卒業です。
Kさん(37歳)
この歳になってモテモテです。これまで自分の顔は悪くないと思っていたんだけど、なぜかずっと彼女ができませんでした。飲み会でも自分よりブサイクなヤツが女の子と盛り上がっていたりして、正直なんで? っていつも思っていました。それがEXをつけた途端に向こうから声をかけられるくらいにモテモテに。合コンで六回連続お持ち帰り記録更新中! 記録はまだまだ伸びそうですw
本製品は非常に強い効果を発揮します。
男女間のトラブルには十分注意してご使用ください。
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……胡散臭すぎるだろう。
普通なら信じないぞ。
それにしても相変わらず意味のわからない単語がいっぱいだ。
そもそもフェロモンって何だろうね?
蓋をとって手首に一吹きシュッとつけてみた。
思ったより爽やかでいい香りだ。
だけど女の子が夢中になるような香りとは思えないな。
召喚術を試していたら家畜たちが騒ぎ出した。
「コケコッコー!」
「メェ~~~!!」
いつものように餌を寄こせと鳴いているのだ。
急いで行ってやらなくちゃ。
今日も卵を回収して、ヤギの乳を搾って、それから軍隊戦闘術の稽古だ。
俺は急いで家畜小屋へ向かった。
鶏たちの餌箱に雑穀を混ぜた飼料をいれてやると、雄鶏たちがすぐに寄ってきてついばみだした。
ところが雌鶏はいっこうに食べようとしない。
どこか悪いのか?
卵はちゃんと産んでいるみたいだけど……。
後で様子を見ることにして今度はヤギの餌を用意した。
ヤギも変だ。
干し草には見向きもしないで首を俺に擦り付けて甘えてくる。
こんなことは初めてだぞ。
すると今度は雌鶏たちが柵を越えてこちらにやってきてしまった。
しかもヤギと雌鶏が入り乱れて喧嘩を始めたぞ!
何なんだよこの事態は!?
まるで俺を巡って争っているような素振りだ。
俺を巡って争う?
もしかしてフェロモン香水EXのせい!?
慌てて動物たちを引き離してから、井戸の水で手首を良く洗った。
凍ってしまいそうなほど水は冷たかったけど我慢だ。
何度も何度も水をかけて、自分では匂いを感じられないほどによく洗った。
それでも念のためにもう少し頑張ろう。
家畜が怪我なんてしたら大変なことなのだ。
特に冬の間はヤギのミルクと鶏の卵は貴重な食料になっている。
街で売るチーズだってヤギのミルクを原料にしているんだ。
それが取れなくなったら死活問題だよ。
赤くかじかんだ手をこすりながら、恐る恐る家畜たちに近づいたけど、もう争いは起こらなかった。
若干だけど、いつもより動物たちが懐いて甘えている気がしたけど、喧嘩をしないならまあいいや。
気にしないでおこう。
やっぱりさっきの騒動は謎の香水の作用だったみたいだ。
これはあれだ。
使ったらアカンやつだね。
こんなのをつけて人前に出たら殺人事件が起こっても不思議じゃない。
俺は香水を素焼きのカメにいれて、床下に隠した。
それからさらに四日が過ぎた。
あれから召喚した物も効果はすごいんだけど、フェロモン香水EXほど強烈なものは召喚できていない。
ヘチマ水(ちぶれ化粧品) つけたら顔がツルツルになった。村のおばさんに上げたら喜ばれそうだ。
バタープレッツ 細長い焼き菓子。甘くてカリカリしている。エバンスたちと食べたら体力がついた気がした。疲れにくくなっている?
カレールー 料理の材料。どうやらシチューのような料理を作るための材料のようだ。匂いを嗅いでみるとスパイシーでとってもいい香りがした。今度いつものメンバーを集めて作ってみるか。食べると力持ちになれるそうだ。
今朝も俺は召喚魔法を使う。
エバンスたちが違うDVDを召喚してくれとうるさく言ってたけど、自分の意志じゃどうにもならないんだよね。
俺だって違うヒメカちゃんが見たいよ。
(そのころ宮園姫香はAVデビューを果たし、デビュー作も公開されていたが、当然レオたちが知る由もない。もしこのことを知ったらレオたちは泣いただろう。泣きながらDVDを見たと思う……)
「豊穣と知恵の女神デミルバとの約定において命ず。異界のモノよ、我が元にその姿を現せ!」
(ピンポーン♪ 召喚物を置くスペースが足りません。もう少し広い場所に移動してください)
頭の中に女性の声が響いた。
スペースが足りないだって?
そういえば今日は納屋と母屋の間で召喚魔法を行った。
風が強くて寒かったんだよ。
今回は少し大きなものを召喚したらしい。
俺は裏庭まで出てキャンセルされた召喚をもう一度やり直した。
いつものように魔法陣が収束して光が溢れだす。
現れたのは大きな箱だった。
俺の身長よりも大きい……。
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